田植え、もっと遅くしませんか
わざわざ暇庭が言うまでもなく、米作りというのはとても面倒くさい作業の連続だ。
各田んぼへ水を供給する水路を一カ所ずつ点検しては直し、元肥えを田んぼへ入れてトラクターで田起こし。
田起こしが終われば稲の種を芽出しして種蒔きし、約3週間大切に育苗する。育苗の具合を見ながら田んぼに水を引いて、田起こしで耕した土を今度は水となじませながら丁寧に田んぼの代かきをするのだ。
代かきが終わったらいよいよ田植え。文章で書く分にはそこまで長くはないものの、暇庭が父と共に上記の仕事をするのはほぼ1ヶ月近い。そして田植えが終われば稲の様子を見ながらずっと田んぼを中心として生活が回ることになる。それは稲刈りの終わりまで続く。
北国にある暇庭家の田んぼは、ちょうど4月20日あたりから手入れをはじめ4月25日ころに種蒔き、それを植えるのが5月半ばから末、というふうになっている。南へ行くと、ゴールデンウィークころに既に田植えするよという地域が圧倒的に多くなる。まあそりゃね?親戚に手伝いに来てほしいということであればそういう日程になるのもわかる。わかるのだ。
だが、仕事の手間という点で見たとき、5月の田植えは必ずしもありがたくはない。
なぜか?疑問の答えは、稲の育ち方にある。
全国津々浦々、田植えの時期とは結構ばらつくものだが、じゃあ稲刈り時期は?と思っていろいろ調べると、あら不思議、稲刈り時期は9月10日ころから10月上旬という地域が半数を超える。早く植えようが遅く植えようが収穫時期はそんなに変わらないのだ。
暇庭の地域もここ5年くらいは9月10日が稲刈り解禁で、刈り取った籾を預かるカントリーエレベータの受け付けが始まるのだ。ちょっと説明すると長くなるのでこの辺はネット検索を推奨する。この時期だけは全国そんなにばらつきがない。早場米と呼ばれる、新米を最速で食べられる品種は8月から稲刈りできたりすることもあるが、コシヒカリ等のポピュラーな品種はやはり9月に入ってからの収穫になる。
ここで話題を遡ろう。暇庭家はちょうど今、5月20日〜5月末にかけて田植えをするわけだが、この田植え時期がゴールデンウィーク……つまり早ければ4月末からスタートするとしたら、収穫までの田仕事の期間は半年近いのだ。
これってすごく大変だと思うのである。植えるのがすごく早くても稲刈り時期は一緒だなんて、田んぼをヒーコラ言いながら巡回してやれ欠株の補植だの除草剤だの肥料をやるだの……その期間が長いほど、コメ農家は労力を余分に出さねばならないのだ。これって良くないんじゃないか?とは、私は物心ついたときからそう思っている。
もしも、イネを遅く植えてよい、という話になれば、田んぼを手入れする期間は短くなり、コメ農家の方々は多少なりとも、のしかかる手間を省けるのではと、私はそんなことを思ってしまうのだ。
さあ、では、じゃあ種蒔きと田植えってどのくらいまで遅くずらしていいんだ?という話である。
結論から言おう。二十四節気に従うのであれば、芒種、つまり6月5日前後にイネの種蒔きをしていいはずなのだ。だって読んで字のごとく、のぎのある植物の種を蒔く目安なのだから。6月アタマににイネの種蒔きをし、夏至の前後に田植え。そうすると田植えのタイムリミットは昔のように、7月2日の半夏生あたりだろうか。そういう栽培法をしても良いのだ。ビックリする方もおられるかもしれない。そんなに遅く種蒔きしたら不具合が出はしないか?と思うはずである。
そしてこれもあえて断言してしまうが、イネの成長を考えた場合、別に6月初旬の種蒔きは何の問題もない。ましてやこの夏の殺人的な暑さが普通になった現代では、ますます問題などあろうはずもない。
なぜ問題がないか?その答えは、コメの収穫量に関わる大きな要素、『分げつ期』というのが、7月初旬からと決まっているからだ。
たとえば苗から2本ずつイネを田んぼへ植えたとする。その2本の苗は、来たるべきときが来れば茎の数を次々増やして、テレビでもおなじみのあのイネの株へ育っていく。この時に、梅雨で水分があり、かつ、気温が高すぎもせず低すぎもしない、24℃前後であること。これが一番分げつの調子がいい。例えば芒種に種蒔きをした超スロースターターなイネの苗も、ゴールデンウィークに田んぼに植えられていた苗と同じくらいの分げつ数を確保できるのである。
そして、梅雨が明ければ皆さんご存知の、列島がまるごと蒸し風呂の中に入ったようなすさまじい夏が待っているわけだが、こういうときも遅めに植えた苗が有利になる部分がある。重要なものを2点ご紹介する。
まず1点、そもそも若くて勢いのあるイネの個体は、病気に強いということ。
これはまだ科学的に立証されたわけではないのだが、身の回りを見渡すと、どうもその傾向は間違いないだろうと思うのでここで言ってしまうことにする。
ゴールデンウィークころに早々と田んぼに植わったイネは、梅雨明けの風の無いカンカン照りに耐える力が弱い。弱いとどうなるか。植物体が弱って各種病気にかかりやすくなるのだ。イネの病気で代表的なのは、なんといっても「いもち病」だが、これは早植えか遅植えかでダメージが結構変わってくる。早く植えて梅雨明けには相当な背丈になっているイネの場合、いもち病が発生すると枯死するものがぽつぽつと出てくる。イネ自身の大きな植物体が風通しを悪くしたり、我々の目には見えないがイネ自身の老化が始まっていたりすることで病気に打ち勝つ力が弱まっていることが原因なのではないかと言われることがある。
対して遅植えのほうのイネは、いもち病にかかることはかかるのだが、枯死までする株はそうは出ない。これはおそらく、遅植えでまだまだ株同士のすき間が確保されていて風通しのよい田んぼの状況と、若いイネ自身の体力で病のダメージから回復する力がつよいからだと思うのだ。尤もこの理由は暇庭の勘違いかもしれない。
第2点だが、イネの穂の中でコメが熟してくるとき、やはり遅植えの稲のほうが均一に、しかも味よく熟す場合が多いと思う。
これは暇庭のただの感性なので、さっきの話よりさらに根拠がない。だが、ベテランの農家さんに聞くとこの話を首肯してくれる場合がしばしばある。
なんでも、若い植物体は昼間デンプンを作る力に長けている、そして夜の間にそれを籾の中に送り込む力も大きいと言うのだ。若いというのはそういうことなのだろうか?どのみちイネの花が咲くのは8月上旬だ。ならばその瞬間を、ゴールデンウィークから畑にいて待ちくたびれたイネが迎えるのと、夏至に植えられたばかりの若くエネルギーに満ちたイネが迎えるのとでは、やはり違いが出てくるような気がしてならない。
今現在、田植えは年ごとに早くなる傾向にある。種もみの販売、育苗のやり方、ダムなどの水の確保問題や畔の草刈りの問題が絡むため、やむを得ないのだと言われるとそれを否定することはできない。
できない、のだが。それでも、もうそろそろ一度、真剣にイネの生産スケジュールを見つめてみなければならない時期に来てはいないだろうか。売り上げ的には決して、コメ1本で食っていけるほどコメは稼ぎは良くないのだから。そこにかける労力と時間は、節約すべきだと思うのだが、いかがだろうか。
ぶっちゃけ普通に愚痴である。5月は職場の繁忙期とぶつかるため、田仕事が6月ならいいのに……と思った程度のことだ。実際はそんな単純じゃあない。悲しいね、暇庭……。




