0008 出発
ダミーを倒し終わった後、ノーモスさんのお手本を見せてもらった。
…一言で言うと、やばかった。私が対峙したのより数段階上のダミーだったみたいだけど、何が起きているのかわからないくらい一瞬で、気づいたら塵になってた。
それから、ダミーを倒したことで経験を積めたのか、レベルが上がっていた。
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レクシア 種族:魔物/辞書 年齢:13歳 性別:女
役職:無職 レベル:7
HP:24/41 MP:6/95
ステータス傾向:MP、魔法攻撃
属性傾向:闇
スキル:
索知:レベル4
探識:レベル1
分体:レベル2
読書:レベル5
御伽:レベル2
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索知のレベルも上がって、レベル4になった。
そのおかげか、新しく【探識】というスキルが手に入った。多分、書き方的に派生スキルかな?
ちなみに効果はこんな感じ。
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探識:
魔力塊を飛ばし、触れた対象の情報を得ることができる。
索知に比べ、情報の精度が落ちる。
情報の精度はスキルレベルと消費MPに依存。
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つまり、今までは直接触れてないと調べられなかったけど、【探識】だと調べられるようになるってことか。…すごく便利だ。
でも、まだ【偽装】は手に入らないみたい。それでも、明日が出発の日だから、今日は最後にちょっとだけ本を読んだら寝よう。
…え?なんか新しくスキルが増えてるって?【読書】と【御伽】?
ああ、あれは地雷スキルだった。本当に恐ろしいよ。【読書】は全然よかったんだけど、【御伽】がね…
詳しくは、また今度にしようか。
窓の外から入ってくる朝日と、聞こえてくる小鳥の鳴き声を合図に、私は目を覚ます。
…とはいっても、朝起きた時は分体は消している状態で目なんかどこにもついてないけど、そんなことはどうでもいい。
図書館の朝は、どこか幻想的だ。人の気配はほとんど無く、紙とインクと、少しだけ古い木の匂いが漂っている。
…そして、その朝も今日でひとまず終わりだ。今日は旅立ちの日だ。もう少し残っていたいって気持ちもあるけど、決めたからには行くしかないと思う。
書斎に行って、ノーモスさんを探してみたけど、いなかった。探してもいなかったのは、あの時以来かな?何してるんだろう。
まあいいや、ひょっとしたら寝てるだけかもしれないし。というか、寝てないはずがないんだよね、人間なんだから。私は本だから寝なくても大丈夫だけど。
そういう訳で、私は10分ほどノーモスさんを探して歩いていた。ちなみに、私はノーモスさんがどこで寝てるのか知らない。というか、図書館が広すぎて全部回れてない、と言った方が正しいかも。
…待って、そもそも図書館の出入り口の場所すら知らない。ますますノーモスさんに会わないといけなくなった。
そんなことを考えていると、変な灰色の扉を見つけた。廊下の奥の、ちょうど奥まったところに、その扉はあった。
「…怪しい」
思わず声が漏れてしまう。その扉は、ある種の妖気のようなものを纏っていたように思う。
呼吸が少しずつ荒くなる。動悸がする。ああ、知りたい。早く、扉の奥を…
「待って」
その声で、私は我に帰った。
「その奥に行くことはまだできない。この図書館の司書として、君を止めるよ」
気づいたら、後ろにノーモスさんが立っていた。
「…どうしてですか?この先に何があるんですか?」
「それを教えることは、今はできないよ。……そんなことより、今日は旅立ちの日なんじゃないかな?」
そうだ、今日は旅立ちの日だ。こんなことをしている場合じゃない。
「…ごめんなさい」
「ううん、いいんだ。それに、君の反応はごく自然なものだし、何も悪いことなんかないよ。現に、何事もなかったみたいだしね」
そう言ってくれることが、何よりも嬉しかった。
「そんなことより、玄関の場所が分からなくて困ってたんじゃないかな?言ってなかったからね」
「…はい、恥ずかしながら」
「さて、ここが玄関だ。支度はできてるかい?」
「はい、準備万端です」
そうは言っても、ここにしばらく戻れないとなると何だか心細いような、名残惜しいような感じがする。
玄関は、思っていたより普通だった。大きな扉でも、壮厳な魔法陣でもなく、差し込んでくる外の光がただ眩しかった。
「さて、それじゃあ、これで暫くは私も暇になってしまうね」
そう、この図書館には、私とノーモスさんしかいなかった。
思い返すと、不思議な図書館だったなあ。
「実は、3日前から君に何を渡そうか迷っていたんだけど、さっきようやく決まってね」
そう言って、私の手のひらに小さい銀の板を渡してくれた。
表面に、綺麗な金属細工が施してある。
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栞:
人の思いが込められたものは、時にどんな魔法をも打ち消す力となる。
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「これは…栞?」
「そうだね。とは言っても、何か特別な仕掛けがある訳でもないんだけどね」
「そんな…ありがとうございます。本当に、何から何までしてもらってばっかりで」
「お礼はいいんだ。どうか、元気でね。いい人に出会うんだよ」
「…はい」
「さて、そろそろ行ったほうがいいんじゃないか?こんなに時間を潰してたら、日が暮れちゃうよ。『人生は、何より面白い物語』なんだろう?」
「…!からかわないでください!」
ノーモスさんは、私を元気づけようとしてくれてる。私も、頑張らなきゃな。
「それじゃあ、また」
玄関の外に一歩踏み出すと、空気が違う。風があって、匂いがあって、遠くの音がある。
世界は、想像していたよりずっと広そうだ。
振り返ると、ノーモスさんは入口の内側で、静かに手を振っていた。
「いってらっしゃい、レクシア」
「……行ってきます」
そうして私は、まだ知らない物語の方へ歩き出した。
これにて第1章 図書館編の終了です。ここまで見て下さった方へ、本当にありがとうございました。
第1章が終わったことを境目に、「小休止」を取ろうと考えています。
具体的には、来週の金曜日、2/6までです。2/7から本編投稿を再開します。
なお、休止期間中に閑話を投稿する可能性があります。
これからも応援していただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。




