0017 街
城壁が近づくにつれて、人の気配が増えていくのが分かった。街道には荷車を引く商人や、旅人らしき人影がちらほらと見える。
やがて馬車は大きな門の前で止まった。石造りの高い城壁の間に開いた、重厚な門。両脇には槍を持った衛兵が立っている。
「黎明の剣のローディスか。一応、ギルドカードを」
衛兵が慣れた様子で声をかける。
ローディスさんが懐から金属のプレートを取り出した。さっきのは、冒険者ギルドのカードという意味だろう。「ランク:C」と書かれているのがチラッと見えた。衛兵はそれを軽く確認し、頷く。
「よし、通っていいぞ」
「いつもありがとな」
レンさんが軽く手を上げる。
私はそのやり取りを横から見ながら、少しだけ緊張していた。
カードとか何も持ってないんだけど大丈夫かな。
そんな私の様子に気づいたのか、ローディスさんがこちらをちらりと見る。
「この子は?」
衛兵が尋ねる。
「森で保護した。街まで連れてきただけだ。ギルドで事情を話す」
ローディスさんが簡潔に答える。
衛兵は一瞬だけ私を見たが、特に何も言わず頷いた。
「街で問題を起こさないなら構わん。通れ」
門が開き、馬車がゆっくりと城門をくぐる。その瞬間、視界が一気に開けた。
石畳の広い通り。両側に並ぶ店。行き交う人々。荷車の音、商人の呼び声、金属を打つ音、笑い声。
「……すごい」
思わず本音が漏れた。
「街は初めてか?いいだろ、この感じ?」
レンさんが楽しそうに言う。
前世の街よりは人は少ない。でも、服装も雰囲気も全く違ってて、何より活気があるような気がした。
「はは、最初はみんなそんなもんだ。なにせ、西部最大の街だからな」
バルトンさんが笑う。
馬車はしばらく街を進み、大きな建物の前に差し掛かった。
三階建ての石造りの建物。入口の上には、交差した剣と盾をかたどった大きな看板が掲げられている。
「着いたな。バルトン、ちょっと止めてくれ」
ローディスさんが言う。
「分かった。それじゃあ、ここで」
「ありがとうございました」
お礼を言って、馬車を降りる。
「ここが冒険者ギルドだ」
私はその建物を見上げた。外まで、冒険者の声が聞こえてくる。冒険者が集う場所…冒険者ギルド。なんか、ワクワクするね。
「まずはゴブリンと、オーガの件を報告する。一大事だからな。後は…レクシア、お前も一緒に来い。一人でいると危ないからな」
「……はい」
私は小さく頷いた。
ローディスさんの後について、私はギルドの扉をくぐった。
中に入った瞬間、外とはまた違う騒がしさが耳に飛び込んでくる。
広いホール。木のテーブルと椅子がいくつも並び、鎧を着た冒険者たちが酒を飲んだり、地図を広げたりしている。壁にはびっしりと紙が貼られた掲示板があり、その前で何人もの人が依頼書を見ていた。
そして、入口から正面の奥には長いカウンター。何人かの職員らしき人が並び、冒険者たちの対応をしている。
「お、ローディスたちじゃねえか」
近くのテーブルから、がっしりした男が声をかけてきた。
「帰りか?思ったより早かったな」
「まあな。少し予定外のことがあってな」
ローディスさんは軽く手を上げて答えると、そのままカウンターへ向かう。
歩きながら、私は周囲をちらちらと見回していた。
……すごい。
実際に見ると、迫力が違う。剣や槍を背負った人、ローブ姿の魔法使い、弓を持った人。いろんな装備の人がいて、まさに「冒険者」という感じの人々で満たされていた。
すると、横から小さな声が聞こえた。
「……お前」
振り向くと、カイルが少し不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「私?」
「森で一人で暮らしてたって言ってたよな」
「そうだね」
私は軽く頷く。
カイルは少しだけ眉をひそめた。
「……なんか変だ」
「変、かな?なんで?」
偽装できてなかったかな?
「うまく言えないけどさ」
そう言って、彼は少しだけ私の方に身を乗り出す。
「お前、普通の人間じゃない感じがする」
……あ、バレた?何でだろ、勇者の卵だからかな?
でも、流石にすぐにバレるはずはないよね。偽装は常に回してるし。
多分、勘とかそういうものだろう。
「そんなことないよ」
私は適当に笑ってごまかす。
「……そうか?」
カイルはまだ少し納得していない様子だったけれど、それ以上は何も言わなかった。
その間に、ローディスさんたちはカウンターの前に立っていた。
「ギルマスはいるか?」
ローディスさんが受付の女性に声をかける。
「はい、いますよ。どうかしましたか?」
「少し厄介な報告があってな」
ローディスさんは少しだけ声を低くした。
「森でゴブリンチーフを見た。それと……」
そこで一度言葉を切り、人差し指を立てる。いわゆる、「シー」のジェスチャー。
「オーガもだ」
その瞬間、受付の女性の表情が変わった。
「……オーガ?」
この街の近くの森に、オーガ。その情報を隠さないといけないということは、それは普通ではないらしい。
「ギルドマスターに話す。通してくれ」
「……分かりました。少々お待ちください」
受付の女性は慌てた様子で奥へと消えていった。
そして、残された私たちは、少し慌ただしい空気を纏ったギルドホールの中で待つことになった。




