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レクシア -de quodam lexicone fabula-  作者: Nekke
第2章 ルーメル編
18/21

0017 街

 城壁が近づくにつれて、人の気配が増えていくのが分かった。街道には荷車を引く商人や、旅人らしき人影がちらほらと見える。

 やがて馬車は大きな門の前で止まった。石造りの高い城壁の間に開いた、重厚な門。両脇には槍を持った衛兵が立っている。


「黎明の剣のローディスか。一応、ギルドカードを」

 衛兵が慣れた様子で声をかける。

 ローディスさんが懐から金属のプレートを取り出した。さっきのは、冒険者ギルドのカードという意味だろう。「ランク:C」と書かれているのがチラッと見えた。衛兵はそれを軽く確認し、頷く。

「よし、通っていいぞ」

「いつもありがとな」

 レンさんが軽く手を上げる。


 私はそのやり取りを横から見ながら、少しだけ緊張していた。

 カードとか何も持ってないんだけど大丈夫かな。

 そんな私の様子に気づいたのか、ローディスさんがこちらをちらりと見る。

「この子は?」

 衛兵が尋ねる。

「森で保護した。街まで連れてきただけだ。ギルドで事情を話す」

 ローディスさんが簡潔に答える。

 衛兵は一瞬だけ私を見たが、特に何も言わず頷いた。

「街で問題を起こさないなら構わん。通れ」


 門が開き、馬車がゆっくりと城門をくぐる。その瞬間、視界が一気に開けた。

 石畳の広い通り。両側に並ぶ店。行き交う人々。荷車の音、商人の呼び声、金属を打つ音、笑い声。

「……すごい」

 思わず本音が漏れた。

「街は初めてか?いいだろ、この感じ?」

 レンさんが楽しそうに言う。

 前世の街よりは人は少ない。でも、服装も雰囲気も全く違ってて、何より活気があるような気がした。

「はは、最初はみんなそんなもんだ。なにせ、西部最大の街だからな」

 バルトンさんが笑う。


 馬車はしばらく街を進み、大きな建物の前に差し掛かった。

 三階建ての石造りの建物。入口の上には、交差した剣と盾をかたどった大きな看板が掲げられている。

「着いたな。バルトン、ちょっと止めてくれ」

 ローディスさんが言う。

「分かった。それじゃあ、ここで」

「ありがとうございました」

 お礼を言って、馬車を降りる。

「ここが冒険者ギルドだ」

 私はその建物を見上げた。外まで、冒険者の声が聞こえてくる。冒険者が集う場所…冒険者ギルド。なんか、ワクワクするね。

「まずはゴブリンと、オーガの件を報告する。一大事だからな。後は…レクシア、お前も一緒に来い。一人でいると危ないからな」

「……はい」

 私は小さく頷いた。


 ローディスさんの後について、私はギルドの扉をくぐった。

 中に入った瞬間、外とはまた違う騒がしさが耳に飛び込んでくる。

 広いホール。木のテーブルと椅子がいくつも並び、鎧を着た冒険者たちが酒を飲んだり、地図を広げたりしている。壁にはびっしりと紙が貼られた掲示板があり、その前で何人もの人が依頼書を見ていた。

 そして、入口から正面の奥には長いカウンター。何人かの職員らしき人が並び、冒険者たちの対応をしている。


「お、ローディスたちじゃねえか」

 近くのテーブルから、がっしりした男が声をかけてきた。

「帰りか?思ったより早かったな」

「まあな。少し予定外のことがあってな」

 ローディスさんは軽く手を上げて答えると、そのままカウンターへ向かう。


 歩きながら、私は周囲をちらちらと見回していた。

 ……すごい。

 実際に見ると、迫力が違う。剣や槍を背負った人、ローブ姿の魔法使い、弓を持った人。いろんな装備の人がいて、まさに「冒険者」という感じの人々で満たされていた。


 すると、横から小さな声が聞こえた。

「……お前」

 振り向くと、カイルが少し不思議そうな顔でこちらを見ていた。

「私?」

「森で一人で暮らしてたって言ってたよな」

「そうだね」

 私は軽く頷く。

 カイルは少しだけ眉をひそめた。

「……なんか変だ」


「変、かな?なんで?」

 偽装できてなかったかな?

「うまく言えないけどさ」

 そう言って、彼は少しだけ私の方に身を乗り出す。

「お前、普通の人間じゃない感じがする」

 ……あ、バレた?何でだろ、勇者の卵だからかな?

 でも、流石にすぐにバレるはずはないよね。偽装は常に回してるし。

 多分、勘とかそういうものだろう。


「そんなことないよ」

 私は適当に笑ってごまかす。

「……そうか?」

 カイルはまだ少し納得していない様子だったけれど、それ以上は何も言わなかった。


 その間に、ローディスさんたちはカウンターの前に立っていた。

「ギルマスはいるか?」

 ローディスさんが受付の女性に声をかける。

「はい、いますよ。どうかしましたか?」

「少し厄介な報告があってな」

 ローディスさんは少しだけ声を低くした。

「森でゴブリンチーフを見た。それと……」


 そこで一度言葉を切り、人差し指を立てる。いわゆる、「シー」のジェスチャー。

「オーガもだ」

 その瞬間、受付の女性の表情が変わった。

「……オーガ?」

 この街の近くの森に、オーガ。その情報を隠さないといけないということは、それは普通ではないらしい。

「ギルドマスターに話す。通してくれ」

「……分かりました。少々お待ちください」

 受付の女性は慌てた様子で奥へと消えていった。

 そして、残された私たちは、少し慌ただしい空気を纏ったギルドホールの中で待つことになった。

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