0013 油断
洞穴の中には、まだ焦げた石の匂いが残っている。
ゴブリンチーフの亡骸が、ゆっくりと灰に変わっていくのを見届けながら、私は深く息を吐いた。…流石に食べる気にはならなかった。人型はきつい。
そうだ、【索知】してみよう。
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レクシア 種族:魔物/辞書 年齢:13歳 性別:女
役職:無職 レベル:10
HP:37/54 MP:26/125
ステータス傾向:
MP:SS
魔法攻撃:S
属性傾向:
闇:S
スキル:
索知:レベル5
探識:レベル3
分体:レベル3
読書:レベル5
御伽:レベル2
偽装:レベル1
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「こっ、これは…」
…ああ、ついに、ついに……【偽装】が、手に入った!
レベル上げもそうだし、バルトンさんから逃げたのもそうだし、今までずっと頑張り続けてきてて、今ようやく手に入ったからやっぱりすごく嬉しい。
そうだ、記念に【索知】してみよう。
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偽装:
ステータスを偽装し、鑑定結果を書き換えることができる。
偽装する内容を絞るほど効果が上がる。
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このメッセージを見るのは二度目だけど、図書館で見たものとは込められた意味が違うような気がする。
よし、じゃあ種族の「魔物/辞書」のところを変えれるか試してみよう。
おそらく、他のスキルと同じで念じるだけでいいと思うから…いざ、種族を【偽装】!
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レクシア 種族:人類/人間 年齢:13歳 性別:女
役職:無職 レベル:10
HP:37/54 MP:26/125
ステータス傾向:
MP:SS
魔法攻撃:S
属性傾向:
闇:S
スキル:
索知:レベル5
探識:レベル3
分体:レベル3
読書:レベル5
御伽:レベル2
偽装:レベル1
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よし、書き換えれたみたいだね。これで恐らくは街に行っても大丈夫なはず。
そういえば、魔力が少しずつ減っている感覚がしないでもない。でもまあ、このぐらいだったら普段のMP回復と食事の分の回復で賄えそうだね。
他の項目も変えたらどうなるかな?見られたら問題になりそうなもの…ちょっとステータス傾向を書き換えてみよう。
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レクシア 種族:魔物/辞書 年齢:13歳 性別:女
役職:無職 レベル:7
HP:37/54 MP:25/125
ステータス傾向:
MP:S
魔法攻撃:A
属性傾向:
闇:S
スキル:
索知:レベル5
探識:レベル3
分体:レベル3
読書:レベル5
御伽:レベル2
偽装:レベル1
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…減り方がちょっと速くなった感じがする。この感じだと、自然回復と食事だけじゃあ賄えないかも。そしたら、しばらくは種族の偽装だけでいいかな?そうしようか。
…日も暮れてきたし、ちょっと眠くなってきたな。ひょっとして私、MPが少なくなったら眠くなるのかな?まあいいや、そろそろ、倒木のところに戻って、ご飯を食べて、寝ようかな。
…ああ、そうだ、多分私は油断していたんだ。
そうじゃなかったら、こんなに逃げてるはずないよね。
そうだ、いつも通り寝て、起きてルーメルに進もうと思ってたら…
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オーガ 種族:魔物/亜人種 年齢:19
レベル:28
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…なんで、ここにオーガがいるのかな。もっと北にいるはずなのに、どうして…
「グォオオオオオオオオ!!」
咆哮だけで、森の平和な空気が剥がれていく。そこはもう、既に死地となっていた。
「ガァアアアアアア!」
反射的に地面を蹴る。次の瞬間、さっきまで立っていた場所を、巨大な棍棒が粉砕した。土と木片が宙を舞う。
重くて、速くて、まるで勝てる気がしない…今まで戦ってきた相手とは、格が違う。
「……まずい」
オーガが地面を蹴る。巨体に似合わない踏み込み。速い。
「アイスシールド!」
氷の盾が展開される。直後、棍棒が叩きつけられ、完膚なきまでに粉々に砕かれた。
衝撃が腕にまで伝わる。吹き飛ばされ、地面を転がる。肺から空気が押し出される。
HPが一気に削れる感覚。
でも、立ち止まっちゃだめだ。できるだけ時間を稼いで、あるいは誰か助けてくれるかも知れないから。
そう、ちょっとでも怯んでくれたら…
「シャドウランス!」
影から縫うように伸びる槍は、オーガの体にしっかりと突き刺さった、はず。でも…
「効いて、無い…!」
その間も、オーガはこっちに迫ってくる。森にいることなんて関係無しに、木々を薙ぎ倒しながら。
「ゴォオオオオオオオオオ!!」
そうか、さっきので怒らせちゃったのか。オーガは今度こそ全力で棍棒を振るってきて、アイスシールドも張る余裕がなかった。
「うっ、ぐう…」
今度のは避けることができず、そのまま当たってしまった。肋骨が折れる、ベキベキという嫌な音がする。大きく吹き飛ばされて、岩に頭をぶつけた。
「グァアアアアアアアアアアア!」
意識が朦朧とする。視界が霞む。…そうか、私はまた死ぬのか。
「…ーー……!…ー…ー……!」
誰かが、何か言っている声がする。その後で、大振りの武器の風切り音。誰か助けに来てくれたのかな。
…でも、もう私には関係ないね。だって、どちらにせよこの感じだと死ぬのは間違いなさそうだし。
できれば、こんなに早く死にたくはなかったなあ。せっかくもらった二度目の生だし、前世の両親にも、ノーモスさんにも申し訳ないや。
図書館の本もほとんど読めてないし、冒険者もやってみたかった。
……ちょっとずつ、考えるのも億劫になってきた。…それじゃあもう、終わ…りに…し……て………




