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レクシア -de quodam lexicone fabula-  作者: Nekke
第2章 ルーメル編
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0009 静寂

 恐らく、俺が潜入した中で一番静かな屋敷だった。

 古くからあり、長い間聖王国に忠誠を誓い続けてきたグランディス家。神官を数多く輩出している伯爵家で、謙虚堅実を地で行って、もうすぐ陞爵の話も出ている。

 怪しいところなど何もないはずなのに、俺の主は、どういうわけかそのグランディス家に疑いをかけていた。まあ、どんなことがあろうとも主に従うのが諜報員である俺の役目だ。

 厚い扉一枚を隔てた廊下の影で息を殺し、その当主の執務室での会話を聞く。


「最近はどうだ、愛娘よ。無理はしていないか?」

 柔らかい声。

 拍子抜けするほど、普通の父親の声だった。

「問題ないですよ、父様!面倒を見てる子も元気です」

 若い女性の声。恐らくは、グランディス家の長女だろう。確か今は、23歳だったか?

 そういえば、今はグランディス家は勇者の育成に携わっていただろうか?


「そうか。それならいい。……食事は、ちゃんと摂っているんだろうな?」

「もう、いつまでも子供扱いされる年ではないですよ!何歳だと思ってるんですか、いい加減に子離れすべきだと思います」

「フッ、そうだな。すまない」

 小さく笑う気配。

 子煩悩。噂通りだな、と内心で呟く。

 ……だが。


「……さて」

 空気が、変わった。

「本題に入ろう。今までで最も重要な情報だ。心して聞け」

 当主の声から、柔らかさが消える。背筋に、冷たいものが走った。

「…了解しました。例の件ですね?」

 長女の雰囲気も大きく変わり、一気に話を聞く姿勢に入る。


「そうだ、それについて、我々は長い間、何世代にも渡って調べ続けてきた。そして、先日…」

 そこまで言って、当主は一度区切って言い直した。


「件の場所が、判明した」

「…ついに、この時が来たのですね」

「ああ、長年、存在だけが語られてきた場所だ。記録にも残らず、地図にも載らない。だが、残留魔力捜査の結果、ついに現在の場所を突き止めた」

「その場所は?」

「ここ、ルーメルから南西に20キロメルト。森の中にある」


 一瞬の沈黙。

「さて、お前に命じる」

 当主の声は、もはや父のものではなかった。

「その森を、秘密裏に調査しろ」

 鼓動が早まる。

 これは…聞いちゃまずい類の情報じゃないか。


「目的は?」

「ひとまずは、内部の把握、潜入できるか否かを調べる。最終的には、我が家にとって、ひいては世界にとって脅威か否か調べる」

「承知しました」

 即答。

 迷いがない。


「悟られないように、偽の依頼を発注しておく。お前の冒険者パーティーで行け。ただし」

 当主は続けた。

「無理はするな。深入りするな。情報は無くても換えが効くが、お前の命は欠けてはならない」

「……ありがとうございます」

 再び、わずかに柔らかい空気。


 …十分だな。これ以上聞いていてもこれ以上の情報は得られんだろう。

 俺は、そっと踵を返して…

「ホーリースピア」

 …は?

 ……どうして、俺の鳩尾に槍が刺さって…

「盗み聞きは感心しませんね」

 俺の視界は、微かにその金色の髪を望んで、そこで途切れた。

ついに第2章 ルーメル編に突入しました。

明日も投稿します。

引き続きご覧いただけると幸いです。

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