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ありふれた話 ~追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます。今さら戻ってこいと言われても以下略  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
第二章 エルダ村、楽園創造への道

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09:新しい家族

 ルナが村の新たな住人となってから、数日が過ぎた。

 彼女の存在は、まるで乾いた大地に降り注いだ春の雨のように、エルダ村に瑞々しい彩りと穏やかな変化をもたらしていた。


 最初こそ、村人たちはルナを遠巻きに眺めているだけだった。伝説の種族であるエルフの姫君を前に、どう接していいか分からなかったのだろう。しかし、ルナの分け隔てない優しい人柄と、彼女がもたらすささやかな奇跡に触れるうちに、その壁はあっという間に溶けていった。


「ルナ様! うちの畑の野菜、見てください! こんなに葉っぱが青々と!」

「まあ、素晴らしいです! 精霊たちも喜んでいますよ。もう少しだけ、風の精霊に歌ってもらいましょうか」


ルナが畑の上で優しく手をかざし、古のエルフ語で何かを囁くと、爽やかな風が吹き抜けて作物の葉を揺らす。すると、まるでその声に応えるかのように、野菜たちがさらに生き生きと輝きを増すのだ。


 彼女の精霊魔法は、僕が【物質創造】で蘇らせた大地と最高の相性を示した。僕の力が大地という「器」を整え、ルナの力がそこに「生命の息吹」を注ぎ込む。ふたつの力が合わさることで、作物の成長速度はさらに加速し、その品質は驚くべきレベルにまで高まっていった。


 彼女の力は農業だけにとどまらない。

 村の子供たちが転んで怪我をすれば、彼女は水の精霊の力を借りて優しく傷を癒す。古傷の痛みに悩む老人には、大地の精霊の力でその痛みを和らげた。彼女の周りには、いつも村人たちの笑顔と感謝の輪ができていた。


「すごいな、ルナは。もうすっかり村の人気者だ」


 僕がそう言うと、僕の家の掃除を手伝ってくれていたルナは、少し頬を赤らめながら首を横に振った。


「いいえ、そんなことはありません。これもすべて、アルトがこの村を救ってくださったおかげです。私がしていることなど、ささやかなお手伝いにすぎません」

「そんなことないよ。君が来てくれて、村の空気がずっと明るくなった。僕も、とても助かっている」


 それは本心だった。

 ルナは、僕の生活にも穏やかな変化をもたらしてくれていた。


 僕が錬金術の研究に没頭して食事を忘れれば、彼女は「身体が資本ですよ」と優しく言って、美味しいスープを作ってくれた。僕がスキルの酷使で魔力切れを起こせば、彼女は黙って僕の手に触れ、その癒しの力で僕を回復させてくれた。


 ルナは、僕がずっと心のどこかで求めていた「家族」のような温かさで、僕の孤独を静かに埋めてくれていたのだ。


 僕たちの住居は、この村に来た時に寝床として借りた、村長の隣の家だった。僕が村を救った後、村人たちが総出で改築してくれたおかげで、以前のボロ家が嘘のように快適な住まいになっている。男女がひとつ屋根の下で暮らすことに、最初は僕の方が戸惑っていた。けれど、ルナは「アルト様のお側でお仕えするのが私の役目ですから」と、まったく気にする素振りを見せなかった。彼女にとって、それはごく自然なことらしい。



  ◇   ◇   ◇



 その日、僕たちはふたりで、村のさらなる発展計画について話し合っていた。


「食料と水、そして安全の問題は、ひとまず落ち着いた。次に必要なのは、この村の『経済』を回すことだと思うんだ」


 僕は、手製の木炭で羊皮紙に図を描きながら説明する。


「僕たちが作った作物は、どれも品質が素晴らしい。これを外の街で売ることができれば、村にお金が入る。そのお金で、僕たちの力だけでは作れないもの――例えば、衣服や、もっと良い農具、本なんかを買うことができる」

「なるほど……。村の外との、交易ですね」

「そう。そのためには、まず僕たちの村の作物の価値を、外の人間に知ってもらう必要がある」


 僕は、かつて街道で出会った行商人、マルコさんの顔を思い出していた。彼のような正直者の商人が、この村を訪れてくれれば……。


「ですが、アルト。村の外との交流は、危険も伴うのではないでしょうか」


 ルナが、少し心配そうな顔をして言う。


「あなた様のそのお力や、私たちの村の豊かさが悪しき者たちの耳に入れば、彼らはそれを力ずくで奪おうとするかもしれません」


 彼女の懸念はもっともだった。エルフの王国・エルヴンハイムが滅びたのも、その豊かさを狙われたことが一因だったのかもしれない。僕も、勇者パーティーにいた頃、人間の欲望の醜さは嫌というほど見てきた。


「分かっている。だから、慎重に進めないといけない。まずは、信頼できる相手を見つけることからだ。それに……」


 僕は少し悪戯っぽく笑った。


「僕たちには、村を守るための『切り札』も必要だね」

「切り札、ですか?」

「ああ。ちょっとした『番犬』をね」


 僕はルナを連れて、村の外れにある広場へと向かった。

 そこには、僕が土壌改良の際に掘り起こした、粘土質の土が山のように積まれている。僕はその土の山に向かって、両手をかざした。


「【物質創造】!」


 僕の魔力が、粘土の山に注ぎ込まれる。

 土の粒子が、僕のイメージした設計図通りに再構築されていく。

 作るものは、ゴーレム。

 けれど、ただの人形ではない。内部に単純な命令を記憶する「魔力回路」を組み込み、関節部分には滑らかに動くための工夫を凝らす。そして、そのコアには、僕の魔力とリンクする小さな魔石を埋め込んだ。


 ゴゴゴゴゴ……という地響きと共に、土の山がその形を変えていく。

 まるで巨大な粘土細工のように、徐々に人型を成していった。


 数分後。僕たちの目の前には、身長が三メートルはあろうかという、筋骨隆々たる一体の土くれ人形――ゴーレムが、静かに佇んでいた。


「こ、これは……!」


 ルナが驚きに目を見開く。

 僕は完成したゴーレムの胸にそっと手を触れ、最初の命令を吹き込んだ。


『この村と、村の人々を守れ』


 僕の命令を受け、ゴーレムの頭部にあった窪みに、ぼうっと淡い光が灯った。それは、ゴーレムに魂が宿った瞬間だった。

 ゴーレムは、ぎこちない動きで片膝をつくと、僕に対して臣下の礼を取った。


「すごい……まるで生きているようです……!」

「まだ一体だけだけど、これから少しずつ数を増やしていくつもりだ。彼らがいれば、畑を耕す手伝いもできるし、夜間の村の警備も任せられる。いざという時には、村を守る強力な兵士にもなってくれるはずだ」


 僕たちは、この最初のゴーレムに「ゴレム」と名付けた。安直な名前だったが、ルナは「可愛らしい響きです」と笑ってくれた。


 その日の午後、僕とルナは、ゴレムに畑仕事を手伝わせるためのテストを行っていた。ゴレムは僕の命令に忠実に、人間では到底不可能な力で鍬を振るい、あっという間に畑の一区画を耕してしまった。村人たちは、その光景を遠巻きに眺め、またしても僕の起こした奇跡に驚嘆している。


 そんな時だった。

 村の見張り台に立っていた若者が、慌てた様子で鐘を鳴らした。


 カン!カン!カン!


 それは、村に侵入者が現れたことを知らせる、緊急の合図だった。


 村に、緊張が走る。

 男たちは鍬や鎌を手に取り、女子供を家の奥へと避難させ始める。

 ギデオンさんが、僕たちのもとへ駆けつけてきた。


「アルト様! 村の東の道から馬車が一台、こちらへ向かってまいります!」

「魔物じゃないんですか?」

「いえ、馬車には商人の旗が……。しかし、こんな辺境まで商人が来るなど、今まで一度もなかったことです。一体何者なのか……」


 ひとつ、僕の中に可能性が浮かんだ。

 もしかすると……。


「大丈夫です、ギデオンさん。僕が様子を見てきます。ルナは、村の人たちと一緒にいて。いつでもゴレムを動かせるように準備していてくれ」

「はい、アルト!」

「しかし、アルト様! おひとりでは危険です!」

「心配いりません。向かってくる商人に、心当たりがありますから」


 僕は村人たちを落ち着かせると、ひとりで村の入口へと向かった。

 やがて、ゆっくりと近づいてくる幌馬車の姿がはっきりと見えてくる。その御者台に座っている人物の顔を見て、僕は思わず笑みをこぼした。

 恰幅のいい身体をした、人の良さそうな髭面の男。間違いない。


「マルコさん!」


 僕が手を振って叫ぶと、御者台の男もこちらに気付いたようだ。驚いたように目を丸くし、やがて僕の顔が分かると、満面の笑みを浮かべた。


「おおっ! アルトじゃねえか! 生きてたのか、お前さん!」


 馬車が止まると、マルコさんは勢いよく飛び降りてきた。僕の背中をバンバンと力強く叩いて、久しぶりの再会を喜んでくれる。


「いやあ、心配してたんだぜ! あの後、ちゃんとお目当ての場所に着けたのかい? ……しかし、なんだ? ここが、お前さんが言ってた『忘れられた村』か? 聞いてた話とずいぶん違うじゃねえか」


 マルコさんは、僕の背後に広がる村の光景を見て呆気に取られていた。

 彼の知る辺境のイメージとはかけ離れていたんだろう。目の前にあるのは、活気に満ちた村。青々と茂る畑。そして、柵の内側からこちらを警戒するように見つめる、屈強な(?)村人たち。


「まあ、色々ありまして。それより、マルコさんこそ、どうしてこんな所に? ここへ来る道は、もうほとんどなくなっていたはずですが」

「それがよぉ」


 なにやらぼやくように、マルコさんは頭を掻いた。


「実は、お前さんと別れた後、どうにも気になっちまってな。お前さんのあの錬金術の腕、放っておくにはあまりにも惜しい。それに、何よりお前さんという男が気に入った。だから、少しでも手助けができねえかと思って、古い地図を頼りに探しに来たってわけさ」


 その言葉に、僕の胸は熱くなった。

 僕のことを心配して、こんな危険な場所までわざわざ会いに来てくれた。彼の人の良さは、本物だった。

 もちろん、錬金術師を取り込みたいという損得勘定もあったと思う。それでも、自分の腕前を見込んでくれたと思うと、僕は嬉しくなってしまった。


「ありがとうございます、マルコさん」

「礼には及ばねえよ。それより、アルト。ここの作物を少し見せちゃくれねえか? 実はこの辺りまで近づいた時から、なんだか空気が澄んで、とんでもなく良い匂いがしてたんでな。もしかしたら、それにもお前さんが絡んでやしないか?」


 さすがは商人。良さそうなものを嗅ぎつける感覚も凄い、と感心してしまった。

 そんなマルコさんを、僕は村の中へと案内する。

 村人たちは最初こそ彼を警戒していた。けれど、僕がお世話になった人だと知ると、すぐにその警戒を解いて、興味深そうに彼を取り囲んだ。


 僕は、収穫したばかりの真っ赤なトマトをひとつ、マルコさんに手渡す。


「まあ、食べてみてください」

「ほう、こいつは見事だ。こんな辺境で、これほど立派なものが育つとは……」


 マルコさんは半信半疑のまま、トマトを一口齧った。


 その瞬間、彼の時間が、止まった。

 彼はトマトを口にしたまま、彫像のように固まり、その目を見開いている。やがて、ごくりとトマトを飲み込むと、彼はわなわなと震える声で叫んだ。


「う……うまいっ! なんだこれは!? 果物か!? いや、どんな高級な果物よりも甘くて瑞々しい! こんなトマト、王都の最高級レストランだって出しちゃいねえぞ!」


 マルコさんの絶叫に、村人たちは得意げな顔で笑っている。

 さらに僕は、小麦で作ったパン、焼いただけのジャガイモなど、次々に村の産物を彼に試食させた。マルコさんはその一つひとつに驚愕し、絶賛し、しまいには「神々の食べ物か……!」と、地面にひれ伏さんばかりの勢いだった。


 一通り試食を終えたマルコさんは、商人の顔つきに戻ると、僕の肩をがっしりと掴んだ。その目は、これまで見たことがないほど真剣に、そして興奮に輝いていた。


「アルト! いや、アルトさん! 商談だ! この作物をぜひ俺に売ってくれ! いや、売ってください! 俺の商人生命のすべてを懸けて、あんたの村の産物を王国中に広めてみせる! これだけの品なら必ずや莫大な利益を生む! いや、金の問題じゃねえ! この奇跡の味を世界中の人間に届けねえと、神様に申し訳が立たねえ!」


 その熱意は、僕が望んでいたもの、そのものだった。

 信頼できる、正直者の商人。

 彼となら、きっとうまくやっていける。


 僕はにっこりと笑って、マルコさんに手を差し出した。


「ええ、喜んで。こちらこそよろしくお願いします、マルコさん。僕たちの村の、最初のビジネスパートナー」


 僕とマルコさんが固く握手を交わしたその時、家の陰から、ルナが少し心配そうな顔でこちらを窺っているのに気づいた。彼女は、僕が新しい「家族」として迎え入れた、この村の未来を案じているのだろう。

 僕は、彼女に向かって安心させるように優しく微笑んだ。


 大丈夫だよ、ルナ。

 僕たちは、これからもっと大きくなっていく。

 そして、僕たちの作るこの楽園は、もっともっと豊かになっていくんだ。

 僕と、君と、そしてこの素晴らしい仲間たちと一緒に。


 空はどこまでも青く、澄み渡っている。

 エルダ村に、新しい風が吹こうとしていた。



 -つづく-

次回、第10話。「正直者の商人」。

マルコさんは商人として抜け目ない。けれど身内にはお人好し。


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