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ありふれた話 ~追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます。今さら戻ってこいと言われても以下略  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
第六章 予期せぬ種族の坩堝にて

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41:水と油、あるいは混ぜるな危険

 エルダ村に、魔王軍四天王の一角である聖女セラフィナがやってきて数日。村はかつてないほどの緊張感……ではなく、なんとも言えない奇妙な空気に包まれていた。


 当初こそ、村人たちは彼女を「魔女」や「化け物」と恐れ、遠巻きにしていた。しかし、彼女は村に危害を加えるどころか、僕たちが作った温泉を優雅に満喫したり、マルコさんが持ってきた高級茶葉や菓子類に舌鼓を打ったりと、ただの「ワガママなお嬢様」のように振る舞っている。そんな姿を見て、村人たちの警戒心は徐々に「呆れ」へと変化しつつあった。


 だが、僕にとっては、呆れている暇などなかった。

 なぜなら、僕の家が、彼女とルナの「戦場」と化していたからだ。


「あら、ルナさん。今朝のスープ、少し塩気が足りなくてよ? エルフの味覚というのは、随分と淡白なのですわねぇ」


 朝食の席で、セラフィナが優雅にスプーンを置きながら言った。その顔には、慈愛に満ちた聖女の笑み――に見せかけた、極上の煽り顔が張り付いている。

 彼女の言葉を聞いて、ルナの眉がピクリと跳ねた。


「……それは、素材本来の味を活かすためです。あなたのように、濃い味付けで誤魔化すような品のない料理とは違いますから」


 ルナも負けじと言い返す。彼女の手元にあるフォークが、ギリリと音を立てて少し曲がっているのが怖い。


「まあ、品がないですって!? わたくしは数百年の時を生きてきた魔族として、美食の何たるかを知り尽くしておりますのよ。あなたのような、森の木の実ばかり齧っていた田舎娘とは経験値が違いますわ」

「田舎娘……! 訂正してください! エルフは自然と共に生きる高潔な種族です!」

「高潔、ねぇ。その割には、アルト様の寝顔を見つめてニヤニヤしていたのは、どなたでしたっけ?」

「なっ……! み、見ていたのですか!?」

「ええ、もちろん。わたくしの『千里眼』にかかれば、あなたの乙女チックな妄想など、筒抜けですわよ? アルト様とのあんなことやこんなこと……ふふふ」

「わあああああ! 言わないでくださいぃぃぃ!」

「あははは! 捕まえられるものなら捕まえてみなさいな!」


 あれこれと言い合いがあっても、たいていはルナが先に限界を迎えてしまう。

 今回も、ルナが顔を真っ赤にして、セラフィナに飛びかかった。セラフィナはヒラリと身をかわし、テーブルの上を軽やかに飛び回る。


 バリン!

 ガシャーン!


 食器が飛び交い、スープが宙を舞う。

 僕の平穏な朝食は、一瞬にしてカオスな戦場と化した。


「二人とも、いい加減にしてくれぇぇぇ!」


 僕が悲痛な叫びを上げる。そこまでがワンセット。

 だがそれも二人の美少女 (年齢不詳) のキャットファイトにかき消される。

 ミミは、「また始まったニャ」と呆れた顔で、自分のパンを持って安全地帯へと避難している。賢い。僕も連れて行ってくれ。




  ◇   ◇   ◇




 セラフィナは、魔族として数百年の時を生きているらしい。その経験値と余裕は伊達ではなかった。彼女にとって、ルナをからかうことは、退屈な監視任務における最高の暇つぶしなのだろう。


 一方のルナも、エルフ族として百数十年生きている長命種だ。人間から見れば十分すぎるほど大人だが、セラフィナの前では、まるで子供扱いだった。


 それに、ルナには致命的な弱点があった。

 彼女は、エルフ王国の姫として大切に育てられ、その後は五十年間も封印されていた。そのため、同性の友人というものがまったくいなかった。だから、セラフィナのような「遠慮なく距離を詰めてくる同性 (?) 」との接し方が分からず、彼女のからかいを真に受けては、ムキになって反応してしまう。


「ほらほら、こっちですわよ、おチビちゃん♪」

「チビじゃありません! 私の方が背は高いです!」

「あら、背の話ではなくてよ? わたくしが言っているのは、こ・ち・ら (胸を強調) の発育のことですわ」

「きーっ! セラフィナ! 今日こそ、その性悪な口を縫い合わせてやります!」


 村の広場で、精霊魔法と闇魔法が乱れ飛ぶ。

 村人たちは、「あー、今日も元気だねぇ」「若いっていいねぇ」と、もはや風物詩を見るような目で眺めている。慣れって怖い。


「アルト! セラフィナを止めてください!」


 周囲が微笑ましく感じていたとしても、当人にはそんな訳がないわけで。

 涙目になったルナが、僕に助けを求めてくる。


「アルト様ぁ~、ルナさんが怖い顔で追いかけてきますの~。助けてくださいまし~」


 かと思えばセラフィナが、僕の背中に隠れて嘘泣きをする。その手はしっかりと僕の腰に回されている。


「あ、あの、セラフィナさん、近いです…」

「あら、役得、役得♪ ルナさん、羨ましいでしょう?」

「離れなさい! アルトは私の……私の命の恩人なんですから!」

「恩人? それだけかしらぁ? ほらほら、正直になりなさいな」


 二人に挟まれ、右往左往する僕。

 胃が痛い。キリキリと痛む。

 これが、ハーレムというやつなのだろうか。

 だとしたら、世の男たちは大きな誤解をしている。

 これは楽園なんかじゃない。修羅場だ。


 そんなドタバタ劇が繰り広げられた日の午後。

 二人の喧嘩の余波で、僕の作業小屋の屋根が吹き飛んだ。

 ルナの放ったウィンドカッターと、セラフィナの放ったダークバレットが、見事に空中で衝突し、その衝撃波が小屋を直撃したのだ。


「あ……」

「あら……」


 瓦礫の山と化した作業小屋の前で、二人は気まずそうに立ち尽くしている。

 数日かけて描いた設計図が、残骸となって地面に散らばっていた。

 僕は、それを虚ろな目で見つめる羽目になる。


 プツン、と。

 僕の中で、何かが切れる音がした。


「……いい加減に」

「え?」

「いい加減にしろおおおおおっ!!」


 僕の怒声が、村中に響き渡った。文字通りショックウェーブとなって駆け、ルナとセラフィナの髪をなびかせるほどに。


「君たち! ここをどこだと思ってるんだ! 僕の作業小屋だぞ! 村の防衛の要となる魔道具を作ってたんだぞ! それを、それを……!」


 僕は、瓦礫の中から折れ曲がったゴーレムの腕を拾い上げ、涙ながらに訴えた。物の例えとかではなく、本当に涙が出た。


「あー、その……ごめんあそばせ? つい、熱くなってしまいまして」

「アルト、ごめんなさい……。私が挑発に乗ってしまったばかりに……」


 僕の剣幕に、さしものセラフィナも、バツが悪そうに視線を逸らした。

 ルナは、しょんぼりと長い耳を垂らしている。


「反省しているなら、罰として、今日中にこの小屋を元通りに直すこと! 魔法は禁止! 自分の手で、汗水垂らして直すんだ!」

「ええっ!? わたくしが肉体労働ですって!? ありえませんわ!」

「文句があるなら、出て行ってもらいます! 通行手形ごと、結界から放り出しますよ!」

「くっ……。覚えてらっしゃい、この鬼錬金術師!」


 こうして、聖女 (魔族) とエルフの姫による、初めての共同作業が始まった。


「ちょっとルナさん! その木材、重すぎましてよ! もっと軽いのになさい!」

「文句を言わないでください! あなたの魔力があれば、これくらい軽いはずです!」

「魔法禁止って言われたでしょうが! ああもう、爪が割れますわ!」

「私が後で治しますから、動いてください!」


 文句を言い合いながらも、二人は協力して働いていた。瓦礫を撤去し、柱を立て、屋根を葺いていく。


 その様子を、僕は腕を組んで監視していた。傍目には、仲の悪い姉妹が親に叱られて、しぶしぶ片付けをしているようにしか見えない。

 そんな彼女たちが言い合いをしながら立て直し作業をするのを見て、他の村人たちは微笑ましそうにしている。けれど、誰一人として、手伝おうとするどころか、近づこうとする人さえいなかった。やり過ぎた二人がお仕置きを受けているんだな、ということが丸分かりだったからだ。


 そんなこんなで時間が経ち、もう夕暮れ時。

 なんとか形になった小屋の前で、二人は泥だらけになって座り込んでいた。


「……終わりましたわ。最悪の一日でした」

「ええ。同感です」


 セラフィナが、汚れたローブを忌々しげに払う。

 ルナもまた、彼女の悪態に同調するようにこぼす。

 そして、直したばかりの小屋を見上げた。


「でも、意外と悪くない出来栄えですね」

「ふふん。わたくしの美的センスが入ったおかげですわ」

「私の基礎工事が完璧だったからです」


 二人は顔を見合わせると、ふふっと小さく笑った。

 その笑顔には、いつものような刺々しさはなく。どこか「戦友」のような、奇妙な連帯感が漂っていた。


「……まったく」


 気の置けない、親し気な雰囲気とは裏腹に、口から出てくる言葉は憎まれ口ばかり。何のかんので、ルナとセラフィナは馬が合うんだろう。

 僕は呆れながらも、二人に冷たい水を差し出した。


「お疲れ様。これに懲りたら、もう喧嘩はほどほどにね」

「善処しますわ。……ルナさんが、わたくしの高尚なジョークを理解できる程度に賢くなれば、ですが」

「あなたがその減らず口を慎めば、平和になりますよ」


 再び二人はまた睨み合いを始める。

 しかしその雰囲気は、以前よりも少しだけ柔らかくなっている気がした。

 水と油。決して混ざり合わない二人だが、激しくぶつかり合うことで、新しい何かが生まれるのかもしれない。

 混ぜると危険。だが混ぜてみたら、意外と面白い化学反応が起きる。

 そんな予感がした。


「さあ、帰ろう。ミミが特製シチューを作って待ってるそうだ」

「あら、それは楽しみですわね」

「行きましょう、アルト」


 二人は、僕の両脇を確保すると、競うように歩き出した。


「ちょっと、押さないでください!」

「あら、道が狭いのですわ」


 やれやれ。

 僕の胃痛の日々は、まだまだ続きそうだ。

 でも、一人で絶望していたあの頃に比べれば。

 この騒がしさは、なんと幸せなことだろうか。

 僕は、夕日に照らされた両隣の二人を見ながら、苦笑いと共に、そう思った。



 -つづく-

次回、第42話。「楽園のトライアングル・ウォー」。

両手に花で羨ましいと思うなら、ぜひとも変わって欲しい。


  ◇   ◇   ◇


次回更新は来週、2月28日になります。


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