表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ありふれた話 ~追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます。今さら戻ってこいと言われても以下略  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
第四章 新たな脅威

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/39

31:慟哭

視点:三人称



 突然、アルトに迫られた決断。

 だがそれは、選択肢などというものではなかった。


 アルトの目の前で、ルナが抗うことのできない力によって捕らえられている。

 彼女を救うには、目の前の魔竜に挑むしかない。


 しかし、今の自分にその力はない。

 仲間たちは倒れ、自らも満身創痍。

 そして何より、自分の力が、この敵には通用しないことを、嫌というほど思い知らされた。


「さあ、どうする? 錬金術師。この場で、このエルフと共に無意味な抵抗を続けて死ぬか。それとも、賢明な判断を下し、お前の仲間たちのささやかな未来を確保するか」


 ヴァルガスは、アルトの葛藤を心底楽しむかのように、問いかける。


「……ルナを、放せ」


 アルトの口から、か細い、しかし、燃えるような怒りを込めた声が漏れた。

 それは問いに答えるものではなく。

 ただ、込み上げてくる己の感情を吐き出しただけの言葉。


「放せと言っているんだ!」


 アルトは最後の力を振り絞り、ヴァルガスに向かって駆け出した。

 その手には再び、光の槍が創造されている。


 しかし。その突撃はあまりに考えなしで、無謀。

 ヴァルガスが無造作に腕を振るう。それによって起きた風圧によって、アルトはあっさりと吹き飛ばされる。彼の吶喊はいとも容易く阻まれてしまった。


 アルトの身体が再び地面に叩きつけられる。その姿は、先ほどまで村のすべてを背負っていた青年だとは思えない、あまりにうらぶれたものだった。


「……フン。答えは、出たようだな」


 ヴァルガスは、もはやアルトに興味を失ったかのように、背を向けた。


「――五日だ」

「……?」

「五日後、再びここへ来る。その時までに、答えを決めておけ。我らが主君に降るか、それとも、この村ごと跡形もなく消え去るか。よく、考えるがいい」


 ヴァルガスは、それだけ言うと、その巨大な翼を広げた。


「待て……! 待ってくれ! ルナを……! ルナを返せ!」


 アルトは地面を這いながら、必死に叫ぶ。

 当然だが、ヴァルガスはそれを気に留めようともしない。


 ヴァルガスに捕らえられたルナが、涙に濡れた瞳で、アルトを見つめていた。

 彼女は、声にならない声で、何かを伝えようと唇を動かしている。


(ごめんなさい、アルト……)


(……諦めないで)


「ルナーーーーーっ!!」


 アルトは、慟哭した。

 戦いが終わり、静まり返った村に、彼の叫びが虚しく響き渡る。


 ヴァルガスは一度も振り返ることなく、ルナを抱えたまま、漆黒の空の彼方へと飛び去っていった。空と地を覆っていた魔物の軍勢もまた、主君の後を追うように撤退していく。その様はまるで一気に潮が引いていくかのようだった。


 後に残されたのは、半壊した楽園と、倒れ伏した仲間たち。

 そして、大切な家族を目の前で奪われた、錬金術師の絶望的な嗚咽。


 アルトは、地面に拳を何度も、何度も、叩きつけた。

 血が滲み、骨が軋むほどの痛みが走る。

 だがそれも、彼の心の痛みに比べれば無に等しかった。


 自分の力の至らなさ。

 自分の、無力さ。


 神の力だと?

 楽園の創造主だと?


 笑わせるな。

 結局、大切なものを守れなかったじゃないか。


 勇者パーティーに追放された日に感じた、あの絶望。

 そんなものにも及ばない、何倍もの大きさの心の痛みがアルトを蝕む。


 あの時に失ったのは『居場所』だった。

 だが、今回は違う。

 失ったのは、『家族』そのものだ。


 太陽が、無残に破壊された村を照らし出す。

 その光はあまりにも無慈悲で、アルトの心をさらに深く抉る。


(どうすれば、よかったんだ……)


(僕の力が、もっと強ければ……)


 後悔と自責の念が、アルトの思考を支配する。

 ヴァルガスが残した、五日間という猶予。

 それは、希望ではない。

 アルトの心を深く絶望させるための、残酷な時間稼ぎに過ぎなかった。


 降伏か、死か。

 悪魔の選択を突きつけられ、アルトはただ苦悶することしかできない。

 彼の楽園は今、本当の意味で崩壊の危機に瀕していた。


 その復活の鍵は果たしてあるのか。

 今のアルトの中には、どこにも見つけることができずにいた。



 -つづく-

次回、第32話。

タイムリミットが迫る中、アルトは何を思うのか。


  ◇   ◇   ◇


次回更新は、1月3日になります。


ブックマークや☆での評価、感想などいただけると励みになります。

応援のほど、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ