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ありふれた話 ~追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます。今さら戻ってこいと言われても以下略  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
第四章 新たな脅威

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29:破壊の化身

視点:三人称



 戦場の空気は、絶対的な絶望によって塗り替えられた。

 なぎ倒された木々と土塊を掻き分けて現れたヴァルガス。

 その姿は、もはや漆黒の騎士ではなかった。


 天を衝かんとする巨躯。

 溶岩のように赤黒く輝く鱗。

 そして世界を憎悪するかのような爛々と燃える紅蓮の瞳。

 魔王軍四天王ヴァルガスが、数百年ぶりに解放した真の姿。


 ――破壊の化身『魔竜』。


 その存在そのものが、周囲の空間を歪め、大地から生命力を奪っていく。


「ハハハハ! どうした、錬金術師! 先ほどの威勢はどこへ行った!」


 魔竜と化したヴァルガスの声は、もはや人のそれではなかった。発する言葉が、地鳴りのような咆哮となって響き渡る。


 アルトは、その圧倒的な存在を前に、息を呑むことしかできなかった。

 【物質創造】の力でどう対処するべきなのか。その方法を見出せない。


(……再生している? いや、違う。周囲のマナを、強制的に自らの肉体へと変換しているのか……!?)


 ヴァルガスの砕けた鎧や折れた魔剣は、彼の肉体の一部と化してその傷を塞いでいた。それはアルトの創造とは似て非なる、混沌とした破壊的な『再構築』。彼の存在そのものが、世界の理を喰らう捕食者のようだった。


「まずは、その目障りな虫けらどもから掃除してやろう」


 ヴァルガスは、その手の巨大な鉤爪を振りかざす。

 それはアルトではなく、防壁の上に立つ村人たちへと向けられた。

 その動きは、先ほどの神速とは違う。だが、山が動くかのような、抗うことのできない絶対的な質量と破壊力を伴っていた。


「みんな! 伏せろ!」


 怖気が立つ。

 アルトは咄嗟に叫びを上げた


 同時に、村人たちの前へこれまでにない強固なオリハルコンの壁を創造する。

 幾重にも重ねられた、理論上は決して砕けることのない絶対防御の壁。


 しかし、次の瞬間。

 想像だにしなかったことが起こる。


 ヴァルガスの鉤爪が音を立てて、絶対防御の壁を打った。

 そう、触れただけだ。

 ただ、それだけで。


 パリン、という、あまりにも軽い音を残し。

 オリハルコンの壁が、一瞬にして破壊された。

 まばゆい輝きを失い、ただの砂の粒子となって、風に霧散する。


 壁を構成していた、オリハルコンの原子と原子の繋がり。

 それが最初からそこになかったかのように、ぷつりと断ち切られたのだ。


「なっ……!?」


 アルトが驚愕の声を上げる間もなく。

 ヴァルガスが放った衝撃の余波が、防壁の上にいた村人たちを薙ぎ払う。


「ぐわあああっ!」

「がはっ……!」


 ギドやギデオン、バルガスといった歴戦の猛者たちでさえ、その理不尽な一撃に為す術もなく吹き飛ばされる。まるで空を飛ぶかのように軽やかに。そして重力に抗えず、地面に叩きつけられた。


 些細な動きから生まれたとは思えない強い衝撃。だが幸いにも、彼らが身に着けていたギド謹製の防具が衝撃のほとんどを吸収した。

 そのおかげで、かろうじて致命傷は免れた。

 死者は、ゼロ。

 だが全員が全身を強打し、動けなくなってしまう。骨の数本は折れているだろう。もはや、戦闘を継続できる状態ではなくなってしまう。


(どうして……!? なぜ、オリハルコンの壁が……!?)


 アルトの脳は、混乱の極みにあった。

 彼の能力【物質創造】は、物質の構造を理解し、原子を組み替えて『繋げる』力。

 対してヴァルガスが見せた力は、その真逆。

 物質の構造を瞬時に理解し、その『繋がり』そのものを断ち切る。

 言うなれば、純粋な破壊の力。


 創造と破壊。

 矛と盾。

 だがこの戦場において、破壊の力は、創造の力を完全に凌駕していた。


「次は、あのエルフの女だ」


 ヴァルガスの紅蓮の瞳が、見張り台の上に立つルナを捉えた。

 彼は、大きく息を吸い込む。

 その顎から吐き出されるのは、すべてを焼き尽くす黒い炎の奔流


 ――『終末の劫火 (ラグナロク・フレイム) 』


「ルナ!」


 もはや防御壁が通用しない。

 アルトはそう悟り、咄嗟に別の手段を取る。


「【物質創造】――『空間湾曲 (スペース・ベンド) 』!」


 ルナの目の前の空間そのものを、強引に捻じ曲げ、劫火の軌道を逸らす。

 神の領域に踏み込む、高度な空間操作。


 しかし。それすらも、ヴァルガスには通用しなかった。


「無駄だ」


 ヴァルガスが呟くと同時に、捻じ曲げられた空間の『繋がり』が断ち切られる。

 【物質創造】が捻じ曲げた空間が、すぐに元の状態へ戻ってしまう。


 ヴァルガスと、ルナ。両者を遮るものはなにもない。

 黒い劫火は、再び彼女へと一直線に迫る。


「――させません!」


 ルナはまだ、絶望に落ちてはいなかった。

 その目に浮かぶのは、決意の色。

 手にするのは、最後の手段。


 首にぶら下げていたネックレスを片手に握り。

 もう片方の手を敵へ向けて突き出す。


 自らの生命力を賭した、エルフ族最高位の防御魔法『世界樹の守護』。

 発動した究極の魔法が、翠の守護壁となってルナの目の前にそそり立った。


 間一髪。

 まさに、間一髪。

 迫りくる黒い劫火を、辛うじて食い止めてみせた。


「ぐっ……! ああああっ!」


 だが、その代償は大きかった。

 ルナの顔から、血の気が引いていく。

 彼女の生命力が、猛烈な勢いで削られていく。

 その魔法は言葉の通り、命を賭したものだった。


「小賢しい真似を」


 劫火にひと息をふくませながら、ヴァルガスは不機嫌そうに舌打ちをする。

 そして、わずらわしいとばかりに。

 自身の巨大な尻尾をしならせた。


 狙いは、防御に集中し、完全に無防備になっていたアルト。


(まずい……!)


 アルトは、ルナを守ることに意識を集中させていた。

 そのために、自分への攻撃に反応できない。


 魔竜の巨体を持つヴァルガスの、巨大な尻尾の薙ぎ払い。虚を突いた大き過ぎる直接攻撃が、アルトの身体を捉えんと無慈悲に迫った。



 -つづく-

次回、第30話。「世界樹の涙」。

大き過ぎる力を前に、あがき続ける小さき者。


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