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ありふれた話 ~追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます。今さら戻ってこいと言われても以下略  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
第三章 追いかけてくる過去との対峙

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17:勇者SIDE ざまぁのはじまり ~勇者パーティーの崩壊~

視点:勇者 アレク・フォン・グランフォード



「クソッ! またか!」


 俺、アレク・フォン・グランフォードは、忌々しげに舌打ちをしながら剣をさやに収めた。俺の相棒である聖剣『ソルブレイカー』の剣身には、新たな刃こぼれが痛ましく刻まれている。先ほどの戦闘で、中級悪魔・レッサーデーモンを相手にした際につけられたものだ。


 ここは高難易度ダンジョン『深淵の迷宮』第十七階層。かつて俺たちが、あの役立たずの錬金術師・アルトを追放した場所から、わずか二階層しか進んでいない場所だ。


 アルトを切り捨ててから、もう数ヶ月が経つ。

 あの決断は正しかったはずだ。あいつの限界は、パーティーの限界だった。より高みを目指す俺たちにとって、あいつは足枷でしかなかった。


 事実、アルトを追放した直後は、すべてが順調だった。

 俺たちは、アルトに支払っていた分配金を使って、王都で名高い一流の錬金術工房と専属契約を結んだ。工房が作り出すポーションは、アルトが作るものよりも回復量が多く、武具の修理も完璧だった。

 俺たちは快進撃を続け、第十六階層の主である双頭の魔犬・オルトロスを苦もなく撃破した。ギルドは俺たちの功績を称え、王都に勇者たる俺を讃える声が響いた。


「やはり、俺の判断は正しかった」


 そう確信していた。あの男がいなくなり、俺たちのパーティーはようやく真の力を発揮できるようになったのだ、と。


 だが、その栄光は、長くは続かなかった。

 問題が表面化し始めたのは、この第十七階層に足を踏み入れてからだ。

 ここの魔物は、これまでとは桁が違った。強力な酸のブレスを吐く魔物、武具を腐食させる呪いを使う悪魔、物理攻撃がほとんど効かない霊体レイス。どいつもこいつも、実力のみならず癖が強くて一筋縄ではいかない。一回の会敵による戦闘が長引くようになった。


 俺たちの消耗は、日に日に激しくなっていく。

 そして、致命的な問題が、ふたつ。俺たちに重くのしかかり始めた。


 ひとつは、「補給の遅延」だ。

 王都の工房は確かに腕は一流だった。しかし、彼らは俺たちの冒険に同行しているわけではない。傷ついた武具を修理し、消耗したポーションを補充するためには、一度地上に戻り、何日もかけて王都とダンジョンを往復しなければならない。当たり前と言えば、当たり前のことだ。

 だが、アルトがいた頃は違った。

 あの男は、どんなに消耗しても、野営地で一晩あれば、俺たちの装備を完璧に修復し、ポーションを必要なだけ作り出した。まるで無限に湧き出る泉のように。

 俺たちは、補給という概念をほとんど意識せずに冒険を続けることができていた。その「当たり前」が、どれほど異常で、そして得難いものであったか。失って初めて俺たちは思い知らされた。


 もうひとつの問題はさらに深刻だった。

 それは「品質の限界」だ。

 王都の工房が作るポーションは、確かに品質は高い。だが、それはあくまで「人間の職人」が作る、常識の範囲内での話だ。

 アルトが作るポーションは、時折、常識を遥かに超える効果を発揮することがあった。今思えば、あれはただのポーションではなかったのかもしれない。あいつの魔力が、素材のポテンシャルを限界以上に引き出していたのだ。


 武具の修理においても同様だった。

 工房の職人たちは聖剣の刃こぼれを完璧に直してくれる。だが、それだけだ。

 アルトの修理は、違った。

 あの男が修復した後の武具は、なぜか以前よりも頑丈に、そして魔力の通りが良くなっていることがあった。まるで武具そのものが成長しているかのように。

 あの時、ミノタウロス・ロードとの戦いで聖剣に亀裂が入ったのだって、今思えば、アルトの「異常な」修復に頼り切り、聖剣本来の限界を超えた無茶な使い方を続けてきた、俺自身の責任だったのではないか。


 そんな考えが、悪夢のように俺の頭をよぎる。

 いや、違う。

 俺は悪くない。

 悪いのは、俺の期待に応えられなかった、あの男だ。


「アレク、どうしたの? 早く先に進みましょうよ」


 背後から、リリアの甘ったるい声が聞こえる。

 彼女は、俺の腕に自分の身体を擦り付けてきた。


「見て、このローブ。少しほつれてしまったわ。王都に戻ったら新しいのを新調しないと」


 リリアは、パーティーの窮状を、まったく理解していないようだった。彼女にとって重要なのは、俺の隣にいる自分がいかに美しく、そして華やかでいられるか。それだけだ。


「リリア、今はそんな場合じゃないだろう。ポーションは、あと何本残っている?」

「え? えっと……回復薬が三本と、魔力回復薬が二本、かしら……」

「それだけか!?」


 俺は思わず声を荒らげた。

 たったそれだけの備えでこの階層の主と戦うなど、自殺行為に等しい。


 俺の怒声に、リリアは怯えたように身をすくめた。


「だ、だって、王都に戻るのが大変なんですもの……。それに、最近のあなたは、なんだかイライラしてて怖いわ……」


 そんなやり取りをしていると、耳障りな金属音が聞こえてきた。

 見れば、ダインが座り込んで、大剣の刃を砥石で研いでいる。その顔は不機嫌さを隠そうともしていない。


「おい、ダイン。何をしている。今は休息の時間じゃないぞ」

「あぁ? 見りゃ分かるだろ。剣の手入れだよ。王都のクソ職人ども、修理代だけは一丁前に取りやがるくせに、仕事は雑なんだよ。すぐに刃こぼれしやがる」


 彼の言葉に、棘を感じる。

 それは俺のリーダーシップに対する、明確な不満の表明だった。


「……文句があるなら、はっきり言ったらどうだ」

「言っていいのか? じゃあ言わせてもらうがな」


 ダインは砥石を置くと、立ち上がり、俺の目の前に進み出た。


「あんたの判断は間違ってたんじゃねえのか? 勇者様よ。あの錬金術師を追い出したせいで、俺たちはこのザマだ。補給は滞り、装備はボロボロ。こんな状態で、どうやって魔王を討伐するってんだ?」

「黙れ! 俺の判断に間違いはない! あれは、必要な犠牲だった!」

「犠牲、ねぇ……。俺には、あんたが自分のプライドを守るために、一番便利な駒を捨てたようにしか見えなかったがな」

「なんだと……!?」


 こいつ、全部が全部、俺のせいだと言いたいのか。お前も報酬の分け前がどうのと言っていただろうに。それを棚に上げてきやがって……。

 俺とダインの間に、険悪な空気が流れる。

 一触即発。

 仲間割れを始める俺たちを、ダンジョンの闇が嘲笑っているように思えた。


「ま、まぁまぁ、ふたりとも! 仲間同士で喧嘩なんて、やめましょうよ!」


 リリアが慌てて俺たちの間に入る。しかし、その言葉には何の力もなかった。

 俺とダインは、互いに舌打ちをしながら顔を背ける。


 俺たちのパーティーは、崩壊しかけていた。

 かつてのような信頼関係は、もうどこにもない。あるのは、互いへの不満と、焦燥感。そして、目に見えない「アルトの不在」という名の呪いだけだ。


 俺は、自分の弱さを認められなかった。

 リーダーとして、常に完璧でなければならない。

 その強迫観念が、俺を追い詰めていく。


 俺はもう一度、あの男を追放した日のことを思い出す。

 雨の中、絶望に打ちひしがれていた、あの役立たずの背中を。


(まさか……あの男が、俺たちの生命線だったとでもいうのか?)


 そんな馬鹿なこと、あるはずがない。

 俺はその不吉な考えを頭から振り払った。

 俺は勇者だ。

 こんな逆境、乗り越えられなくてどうする。


「……行くぞ。次の魔物の群れを殲滅し、今日中にこの階層を突破する」


 俺は仲間たちの返事も待たずに、ダンジョンの闇へとひとり、歩き出した。

 その背中が、かつての俺が忌み嫌った「独りよがり」なリーダーのそれに成り果てていることにも気づかずに。

 俺たちの凋落は、まだ始まったばかりだった。



 -つづく-

次回、第18話。「胡散臭い商人と、エリクサー」。

窮地を救ったのは、救いの神か、それとも悪魔か。


更新を再開しました。第三章の始まりです。

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