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ありふれた話 ~追放された錬金術師は、神スキル【物質創造】で辺境に楽園を築きます。今さら戻ってこいと言われても以下略  作者: 槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
第二章 エルダ村、楽園創造への道

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14:楽園の名物、癒しの温泉

 伝説のドワーフ鍛冶師・ギドさんが仲間に加わり、僕たちの村の防衛力は飛躍的に向上した。僕が供給する超高純度の魔法金属と、ギドさんの神業的な腕前によって生み出される武具。それらはもはや伝説級と呼んでも差し支えないほどの性能を誇っていた。

 頑固で口は悪いが根は優しいギドさんは、すぐに村に溶け込んだ。今では子供たちに木の玩具を作ってやる好々爺としての一面も見せるようになっている。


 村の生活は、豊かで、そして穏やかだった。農業用ゴーレムたちが黙々と畑を耕し、ルナの精霊魔法を受けた作物がたわわに実っている。ミミはその優れた五感で村の周囲の安全を見守り、ギドさんの工房からは力強い槌の音が心地よく響いてくる。村人たちの顔には笑顔が絶えず、誰もが自分の役割に誇りを持ち、助け合いながら暮らしていた。それは、僕が追放された日には夢見ることさえできなかった、理想郷そのものの光景だった。


 しかし、僕は満足していなかった。

 豊かさや安全だけでなく、この村に暮らす人々の「心」を、もっと豊かにしたい。日々の労働の疲れを癒やし、明日への活力を与えてくれるような、そんな場所が村に必要だと考えていた。


「――というわけで、僕はこの村に『温泉』を作りたいと思っているんだ」


 僕はルナとミミ、そしてギドさんを家に集めて、そのアイデアを打ち明けた。

 唐突な提案に、三人はきょとんとした表情をして、顔を見合わせた。


「おんせん……? なんだ? それは」


 ギドさんが、立派な髭を撫でながら不思議そうに尋ねる。

 なるほど、そうか。土地柄によっては、地中からお湯が湧き出るなんてあり得ないところもあるだろう。温泉というものを知らない人がいても不思議じゃない。


「温かいお湯が湧き出る泉のことです。身体を温め、疲れを癒やす効果があると言われています」


 ルナが補足するように説明してくれた。

 どうやら彼女の故郷にも、似たような施設があったらしい。


「ふかふかのお風呂……?」


 ミミが、琥珀色の瞳をきらきらさせて身を乗り出した。猫である彼女は水浴びは苦手だが、温かい場所は大好きだった。


 僕は、古代技術書で読んだ温泉の知識を、彼らに熱心に説明した。

 単に体を洗う場所ではない。人々が集い、語らい、心身ともにリラックスできる、コミュニティの中心となりうる場所。そして、様々な鉱物成分を含むお湯は、怪我や病気の治癒を促進する効果も期待できる。


「面白そうじゃねえか!」


 一番最初に食いついたのは、意外にもギドさんだった。


「ワシらドワーフは、熱い蒸気と鉱石の匂いが大好きでのう。毎日ハンマーを振るって凝り固まったこの身体を癒やしてくれるってんなら大歓迎じゃ!」


 こうして、僕の新たなプロジェクト「温泉掘削計画」が発足。村長のギデオンさんをはじめ、村の仲間たちにも説明をし、全面的な賛同を得ることができた。こうして、温泉採掘は実行に移されることになった。


 まずは、温泉を掘る場所の選定だ。

 僕は【物質創造】の意識を村の地下深くまで潜らせ、この土地の龍脈――マナの流れを詳細に調査した。

 村の北側、少し小高くなった丘の地下に、ふたつの龍脈が交差する強力なマナの溜まり場があることを突き止める。ここなら、強力な地熱エネルギーを利用して、質の良い温泉を湧き出させることができるはずだ。


 場所が決まると早速、建設班のゴーレムたちを動員して掘削作業を開始した。

 ゴーレムたちは、その怪力で次々と土砂を掘り進めていった。硬い岩盤にぶつかると、ギドさんがこの日のために打ってくれた、オリハルコンを混ぜ込んだ特殊なドリルでを砕いていく。

 掘削作業は順調に進み、数日で地下数十メートルの深さまで到達した。

 そして、ついにその時が来た。


「アル兄! なんだか地面の奥から温かい空気が来る!」


 五感の鋭いミミが、興奮した声を上げた。

 それだ。それだよ!

 僕は掘り進めた穴の底に降り立つと、最後の仕上げに取り掛かった。


「【物質創造】――『龍脈穿孔』!」


 僕の魔力が、龍脈の交差点に集中する。マナの奔流に小さな亀裂を入れ、そこから地熱エネルギーと、地下水脈を引き上げるための「道」を創造する。

 さらに、その道を通る地下水に、僕がイメージする様々な治癒成分――硫黄、塩分、ラドンなどの鉱物元素を、原子レベルで溶け込ませていく。


 ゴオオオオオッ!


 足元から、地響きと共に巨大なエネルギーが噴き出す予兆が感じられた。

 僕は急いで地上へと退避する。


「みんな、気をつけて!」


 そう叫んだ直後。掘削した穴の底から、白い蒸気と共に、熱いお湯が勢いよく噴き出したのだ!


「「「おおおおおっ!!」」」


 作業を見守っていた村人たちから、割れんばかりの歓声が上がった。

 噴き出したお湯は、あっという間に僕たちが掘っておいた窪地に溜まっていく。お湯が溜まる窪地は、もちろん僕のスキルを使って補修と補強をし、巨大な湯船が形成されている。たちまちお湯でいっぱいになり、湯気がただよう温泉と化した。周囲には、硫黄の独特の香りと、大地のエッセンスが凝縮されたような、心地よい匂いが立ち込める。


 僕はそのお湯を桶に汲んで、温度と成分を確かめた。

 温度は、人間が入るのにちょうどいい塩梅。そして、そのお湯に含まれる魔力と治癒成分は、僕の想像を遥かに超える極上のものだった。これなら、どんな疲れも吹き飛ばしてくれるだろう。


 温泉が湧き出た後は、湯小屋の建設だ。

 ギドさんが、その頑固な職人魂をいかんなく発揮してくれた。彼は自ら森に入って最高の木材を選び出し、それをゴーレムたちに加工させ、釘を一本も使わないドワーフ伝統の木組み工法を駆使し、見事な湯小屋を建ててみせた。中には脱衣所と、岩盤をくり抜いた内風呂、そして火照った体を冷ますための休憩所まで完備されている。

 露天風呂の周りは、ルナが精霊魔法で美しい苔や季節の花々を配置し、風情のある庭園に仕上げてくれた。


 そして、数日が経ち。エルダ村の新たな名物、「エルフの癒し湯」と名付けられた温泉施設がついに完成した。


「よし! それじゃあ一番風呂は、この村の功労者たちでいただくとするか!」


 ギドさんの提案で、最初に入浴するのは僕とギドさん、そして村長のギデオンさんをはじめとする長老たちということになった。女性陣は少し時間をずらして入ることになっている。


 男たちは、少し気恥ずかしそうにしながらも、完成したばかりの露天風呂へと足を踏み入れた。


「「「うおおぉぉぉ……」」」


 湯船に身体を沈めた瞬間、僕たち全員の口から、同じような感嘆の声が漏れる。

 心地よい熱さが、身体の芯までじんわりと染み渡っていく。凝り固まっていた筋肉が、ゆっくりと解きほぐされていくのが分かる。


「こ、これは……極楽じゃ……」


 ギドさんが、その厳つい顔をだらしなく緩ませていた。


「わしも腰痛が……和らいでいくようじゃ……」


 ギデオンさんは、長年の腰の痛みが嘘のように軽くなっていくのを感じているようで。思いもよらぬ効能に目を丸くしていた。


 僕たちは、肩まで湯に浸かり、夜空に浮かぶ満月を眺めた。

 これまで、ただがむしゃらに村の発展のために走り続けてきた。こうして、仲間たちとゆっくりと湯に浸かり、語り合う時間は、何物にも代えがたい贅沢だった。


「アルト様。あなた様がこの村に来てから、まだ数ヶ月しか経っておりませぬ。しかし、この村は、まるで百年の時を遡ったかのように、いや、それ以上に豊かになりました。……本当に、感謝の言葉も見つかりませぬ」


 ギデオンさんが、しみじみとそう言った。


「ワシもじゃ。まさかこの年になって、オリハルコンを打てる日が来ようとはな。師匠には、足を向けて寝られんわい」

「だから、師匠って言うのはやめてくださいよ……」


 僕たちは、他愛もない話をしながら笑い合った。

 追放された錬金術師。伝説から忘れ去られたドワーフ。そして、時代の流れから取り残された村人たち。

 僕たちは皆、世界のどこにも居場所のなかった者たちだった。

 そんな僕たちが、この辺境の地で出会い、手を取り合って、自分たちの手で楽園を築いている。その事実が、たまらなく誇らしかった。


 僕たちが湯から上がると、今度はルナとミミ、そして村の女性たちが、楽しそうな声を上げながら湯小屋へと入っていった。

 少しすると、中からキャッキャと華やかな嬌声が聞こえてくる。


「まあ! このお湯、お肌がすべすべになりますわ!」

「ミミちゃん、尻尾はちゃんと洗うのよー」

「くすぐったいニャ! ルナ姉、やめてー!」


 その楽しそうな声を聞きながら、僕は湯小屋の前の縁側に座り、火照った身体を夜風にさらしていた。

 隣には、同じように湯上がりで火照った顔をしたギドさんが、満足そうに髭を撫でている。


「……いい村になったな、アルト」

「……はい。本当に」


 僕は、心からそう思った。

 この村には、僕が守りたいものが、すべて詰まっている。


 しかし、この穏やかな時間が、永遠に続くわけではないことを、僕たちはまだ知らなかった。僕たちが造り上げたこの楽園の噂。そして、僕の規格外の力の存在。それらが、外の世界に少しずつ漏れ伝わり始めていたのだ。


 王都のギルド。

 利権に飢えた貴族。

 そして……僕を追放した、勇者パーティーの耳にまで。


 人の口には戸が立てられない。マルコさんがどれだけ慎重に立ち回ろうと、やはり限界があったのだろう。仕方ないと言えば、仕方のないことなのだろう。


 けれど、まったくの想定外なことも起こっていた。

 僕が温泉を掘削するために龍脈に深く干渉した、その強大な魔力の波動。それは僕が思っていたよりも遥かに遠くまで届いていた。それは、遥か北方の古代遺跡で永く封印されていた、ある邪悪な存在を目覚めさせる。


「……このマナの波動……まさか? エルフの秘宝と……そして……神の領域に触れる、創造の力? フフフ……ハハハハ! 見つけたぞ……我が主の復活の鍵を!」


 それは、かつて世の中に脅威を与えていた魔王としもべたち。その先駆けとして、魔王軍四天王のひとりが数千年の眠りから目覚めようとしていた。


 僕たちの楽園に、新たな影が忍び寄ろうとしている。

 しかし、今はまだ、誰もそのことに気づいてはいない。

 エルダ村は、ただ癒やしの湯と、人々の温かい笑い声に満たされていた。

 束の間の、しかしかけがえのない平和な夜が、静かに更けていった。



 -つづく-

次回、第15話。「王都からの視察団」。

村の行く末と、アルトの未来を左右する、決断。


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