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2-1 フィーメルの願い(1)

「単刀直入に言わせていただきますっス。あたしの家族を…助けてほしいっス」


 フィーメルは頭を深々と下げながら、そう言った。ルミは、目を瞑り胸の前で手を組んで考えるそぶりを見せた。レインは、後ろを振り返りはしなかったが、フィーメルの願いに姉が何と言うのか、気が気ではなかった。


「レインは、どうしたい?」

「え?」


 自分は蚊帳の外だと、そう思い込んでいたレインへの質問。ルミが何と言うのか気になっていたレインは、その矛先が自分に向いたことで素っ頓狂な声を出してしまった。

 レインは、なんと言うべきか迷ったが、自分の気持ちに嘘をつかずに素直に答えることにした。


「私は…助けたい」


 その言葉に、フィーメルは驚き、ルミは納得するようにうなずいた。


「わかった、私も協力しよう」

「ル、ルミさん…ありがとうございますっス。レインも、ありがとうっス」


 フィーメルは、目を輝かせながら二人に深々とお辞儀をした。その姿から、遊びではない真剣な気持ちを感じ取ることなど容易いことであった。

 

====================


 その後、三人はこれからの行動計画を話し合っていた。卓上には、周辺地域の地図が広げられており、三人はそれを囲むように立っている。


「それで、フィーメルの家族は今どういう状況なの?」

「今は、ある場所に囚われてるっス」

「それってどこなの?」

「ここっス」


 そう言って、フィーメルはある一か所を指差した。そこは、クレジオス信仰国の中心部『クルドゥーズ協会』だった。

 現在三人がいる場所は、エイシルでありクレジオス信仰国とは隣国の関係であった。そのため距離で考えればそう遠くもなく、徒歩で移動するにしても五日はかからない程度であった。


「クレジオス信仰国、確か姉さんは何度か行ったことがあったよね?」

「うん、そうだよ。エイシル(ここ)には何もないから、調味料とかは買いに行かないといけないしね。でも、クルドゥーズ協会までは行ったことはないかなぁ」

「大丈夫っス。あたしは行ったことあるので、道案内は任せてくださいっス」


 フィーメルは、胸をたたいてそう言った。二人は、フィーメルに道案内を任せて次々に計画を立てていった。

 三人の計画では、移動宿泊含めて六日程の旅路となる予定になった。今日の昼に出て、まずエイシルの東端に位置する町『アベール』へ向かい、そのまま道なりに進むルートだ。六日程といったがそれはあくまでも旅がうまくいった場合のこと。

 三人は、昼に出発できるように各々準備を進めるのだった。


====================


「みんな、準備できた?」


 ルミは、玄関に立ってそういった。二人はうなずき、互いに歩みだす。長そうで長くない旅路、一か月も経たずにここに戻ってこれる。それでも、レインにとっては初めてのことだ。フィーメルがどうかはわからなかったが、少なくとも緊張はしているようだった。目指すは、エイシル東端の町アベール、三人はこの家を後にして短くも険しい旅路へと足を踏み出したのだった。


 森を抜けるのにそう時間はかからなかった。そもそも、アベールはルミがよく買い物をしに行く場所であり未踏の地というわけではない。それに、フィーメルも言ったことがある場所らしい。フィーメルがこの道を通っていないことは確実だったが、目的地が分かっていれば足取りも軽くなる。今朝の狩りで山にも少しずつ慣れてきたのか、予定よりも早いくらいだった。


「姉さん、フィーメル!海だよ!」


 出発から二時間後、三人は森を抜けて平野を歩いていた。休憩をはさみながらとはいえ、さすがに疲れがたまってきたので浜辺で少し長い休憩をとることになった。その休憩を目指して、歩いてきた三人の前に現れたのは、太陽光が反射してキラキラと光る水面だ。


「レイン、めちゃくちゃはしゃいでるっス」

「そうだろうね、前に海見たのなんていつだったか」


 ルミは、うれしそうな顔でレインを見ていた。その横顔をフィーメルは不思議に感じていたが、レインに手招きされたので、隣まで走っていった。

 三人が今いる場所は『リリワナ海道』だ。この道を西側に進めばエイシルとクレジオス信仰国の国境沿いに着く。そこから三十分ほど歩いた位置にアベールがあるのだ。こう聞けば近いと思うかもしれないが、問題は時間ではなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ひとつ、聞いてもいいかな」

「はい、大丈夫ですっス」

「ふふっ、私にも敬語は使わなくて大丈夫だよ」


 え、今の敬語だったの?ーーと、レインは思いながらも二人の会話を隣で聞いていた。フィーメルは、すこし考えるそぶりを見せたが、すこし申し訳なさそうにしながらも心が決まったようだった。


「それで、何を聞きたいんスか?」

「フィーメルは、家族を助けたいんだよね?どういう経緯で閉じ込められたのかは聞かないけど、クルドゥーズ協会が絡んでいるならもしかしたら邪魔してくるんじゃないかなって」

「恐らくそうだと思うっス」


 フィーメルは、うつむきながらそう言った。旅の計画には、敵との戦闘の時間が入っていない。おそらくそれを入れてしまえば、計画を立てられないと考えたからだ。

 それもそのはず、レインにはまず戦闘経験はないしルミも狩りは行っているが対人経験はないはずだ。フィーメルがどうかはわからないが、狩りの様子を見るに度胸はあったが、逆に戦闘経験は多くはなさそうだった。だから、もし戦闘になった場合に勝てるかはかなり怪しい。逃げるといっても、クルドゥーズ協会に近づくほどに守備が固くなっていくはずだ。それをすべて考慮して考えるのは、半日では不可能だったために計画に入れなかったのだ。


「なにか情報はないかな?」

「…ごめんなさいっス。あたしは逃げるのに必死で…でも、あたしを追ってきた兵隊は加護を使ってなかった気がするっス」

「なるほど…」


 加護持ちは希少な存在だ。今いる三人中のうち二人が加護を持っているので感覚がおかしくなっているかもしれないが、本来は十万人に一人と言われる存在。クルドゥーズ協会の規模はわからないが、一人くらいはいる可能性が高い。そして、その者が出てくる可能性も。


「で…でも、だからって加護持ちがいないと判断するのはよくないと思うっス」

「そうだね、十分注意しながら行こうか!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 だから、いま注意するのは国境沿いなのだ。

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