表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

1-3 始まりの雨(3)

 レインは、後ろを振り返る。洞穴の外には、雨上がりの景色が広がっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「いや、これは通り雨だよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そうだった、これは通り雨だ。長くは降らないーー空は少ししか見えなかったが、虹がかかっているようだった。

 小猪(ボーグ)は自身を縛る檻が消えたことで、勢いを取り戻す。そして、レインではなくフィーメルの方を向いて、前足で地面をひっかく。そして、そのままフィーメルめがけて走り出した。


「フィーメル!!」


 レインも、小猪(ボーグ)に続いてフィーメルのほうに走り出した。しかし、その差は明確。レインが小猪(ボーグ)に追いつけるはずもなく…。

 フィーメル逃げ…え?!ーーレインはフィーメルがオドオドとするかと思っていたが、実際はそうではなかった。フィーメルは、羽織っていたマントを脱ぐと小猪(ボーグ)に相対する形で仁王立ちする。そして、小猪ボーグがぶつかる寸前でマントを話して横に交わした。小猪(ボーグ)はマントで視界がふさがれ、何とかしようとその場でじたばたし、壁や床に体をぶつける。徐々に勢いが落ちていき、あと少しというところでフィーメルが両手で小猪(ボーグ)の体を抑えつけた。

 

「だ、大丈夫?!」


 レインが来た時にはもう、小猪(ボーグ)は息絶えているようだった。


「ふ~終わったス」

「フィーメル」


 レインは、フィーメルを抱きしめ生を実感した。


「よかった、よかったよ~ってアッツ?!」


 レインは、フィーメルの体がとても熱いことにびっくりして、しりもちをついた。フィーメルは、床に手を付けて何かをしている様子だったが、何をしているかまではレインにはわからなかった。


「ど、どうしたの?!」

「ご、ごめんなさいっス。今冷やしますっス」


 どうやら、フィーメルは自身に溜まった熱を外部に逃がしているらしい。なぜ熱が溜まっているのかと言えば…。


「ねぇ、どうして熱かったの?」

「あぁ、それは小猪(ボーグ)の体温を奪ったからっスよ」

「なるほど、それで動きが鈍くなって…ん~でも、フィーメルが触れる前からそうなってたような気がしたんだけど」

「さすがっス!よく気付いたっス!」


 そう言って、フィーメルは自分が羽織っていたマントを手に取った。


「これをかぶせたからっス!」

「それって、ただのマントじゃ…!?」


 レインは、フィーメルのマントを触れてあることに気が付く。


「これ、雨で濡れてる…」

「そうっス!雨に濡れた方を小猪(ボーグ)にかぶせて、暴れさせたっス!」

「フィーメル、見かけによらず恐ろしいね…」


 語尾と口調から、フィーメルは人づきあいがよいとレインは思っていた。しかし、今回を踏まえてレインはフィーメルの本当の姿を垣間見た気がした。

 レインは、フィーメルを怒らせないようにしようと心から誓った。ホッと一息ついたところでレインはあることに気が付いた。


「フィーメル、その耳…」

「あ!」


 フィーメルは、驚きその場に縮こまる。一瞬しか見えなかったが、耳の先が少し赤くなっているようだった。

 あれ?この顔、どこかでーー少しして、気持ちが落ち着いたのかフィーメルがレインの方を向く。


「えっと、その…もう分ってるかもしれないっスけど、あたし…エルフ…なんっス」

「す、すご~い!!私、エルフ初めて会った!!」


 レインは、目を輝かせてそう言った。その後、フィーメルの周りをまわりながらまじまじと見ていた。フィーメルは、すこし戸惑っているようだったが、抵抗するのを諦め流れに身を任せることにした。

 数分後、レインは堪能し終わったのか改めて一息つく。


「そ、そろそろ戻らないっスか?結構時間経っちゃってるぽいっスし」

「それもそうだね、あっ!その前に…」


 レインは、うつむいて黙り込んでしまった。胸の前で指をツンツンして、何かを言いたそうにしているのは明らかだった。


「どうしたっスか?」

「あの、うぅ~わ、私と…と、友達になってください!!」


 普通の人から見たら、いたって普通のこと思うかもしれない。しかし、今まで姉以外の人と接したことのないレインにとって、これは告白と同じくらい勇気のいることだった。


「あたしと、友達になってくれるんスか?」

「うん…」

「いいんスか?あたし、エルフなんスよ?」

「関係ないよ」


 フィーメルは、ポカンとしていた。今までどのようなことがあったのかはわからない。エルフという単語をよく出していることを見るに、それが原因で友達作りも出来ていなかったのかもしれない。


「う、嬉しいっス!あたし、友達いなくて」

「じゃ、じゃぁ、よ、よろし…く?」

「こちらこそ、よろしくお願いしますっス!」


 ただの友達、されど友達。その言葉が二人の中でどのような意味を成すのかはわからないが、少なくともこれまでとは少し違う、関係になったのは明らかだった。

 二人は数分間、恥ずかしさなのか嬉しさなのかわからない空気に浸っていた。


「そ、そろそろ戻らないっスか?結構時間経っちゃってるぽいっスし」

「それ、さっきも聞いたよ。そうだね、姉さんも心配してるだろうし」

「そ、そうっスね!それに早くルミさんにも挨拶したいっスので」


 二人は、晴れた空の下、小猪(ボーグ)と採取した山菜類をもって帰路をたどっていた。行きは窮屈で重いはずだった足も、帰りは思ったよりも軽かった。それに、場の雰囲気もとても明るく、これから始まる物語の序章としては十分だった。


====================


「あ、帰ってきた!」


 玄関で手を振る一つの人影が二人には見えた。レインの姉、ルミだ。ルミは、二人の元まで走ってくると、一番重いであろう小猪(ボーグ)を持ち上げた。


「二人ともお疲れ様!先に家に戻ってて、私は小猪(これ)の血を抜いたりもろもろの処理をしてくるから」


 そう言うと、ルミは一人森の奥に姿を消した。二人は、流れるようなルミの動きにポカンとしながらも、さすがに疲れていたのかそれに言及する気力は残っていなかった。

 家に入ると、机の上に採ってきた山菜類を置いた。


「フィーメルはそこに座ってて」


 レインは、そう言うと山菜を水で洗いだした。山から湧き出る水を家まで引いているので、川までいかなくとも台所周りでの作業はできるのだ。レインは、慣れた手つきで山菜類を水で洗っていく。

 数十分後、小猪(ボーグ)の処理を終えたルミが戻ってきて、少し遅めの朝食が食卓に並べられた。


「「いただきます」」

「い、いただきますっス…」


 三人は、目の前に置かれた料理を食べ始めた。


「それで、姉さん。どうして急に、朝食とってきてなんていったの?」


 レインは、真っ先に思っていた疑問をルミに聞いた。ルミは、口に含んでいたものをしっかり噛んで飲み込むと、その理由を語りだした。


「深い理由はないよ。私はただ、二人に仲良くなってほしかっただけ」

「私たちに?」

「うん、レインは私以外の人と話すの久しぶりでしょ?それに、同年代の人とはもしかしたら初めてかも」


 ルミは、少し低い声でそう言った。場の空気が少し重くなる。その雰囲気に飲み込まれ三人は食事が止まった。それから数秒間、沈黙が続く。赤毛の少女は、当事者ではないので何とかしようと言葉を発した。


「え…と、ルミさん、挨拶…まだだったっスよね」

「そういえばそうだね。ごめんね、急にあんなこと言って」

「いえ、迷惑ではないっスので」


 ルミの雰囲気が元に戻る。レインも落ち着いたのか、食事が進みだす。


「それじゃ改めまして、私はルミ・ドゥーベル。レインの姉です。よろしくね、フィーメル」

「あたしは、フィーメル・ヴァルムっス。よろしくお願いしますっス」


 二人は自己紹介を終え、その後他愛もない会話をしたのちに食事を終えた。


「それで、私に何の用かな?」


 食器類を洗っているレインを背に、ルミとフィーメルは話をしていた。


「単刀直入に言わせていただきますっス。あたしの家族を…助けてほしいっス」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ