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1章 8

食後のお茶を飲んでいると、サミュエル様がなにか言いたげな表情をしていることに気がついた。

まだ温かいお茶が残るカップを、静かにソーサーに戻す。


「どうかなさいましたか?」


サミュエル様は申し訳なさそうに眉を下げ、口を開く。


「実は、皇帝陛下にお会いする日が明後日になりました。

 テレーゼさんにも同席していただきます。

 まだお疲れでしょうが、明日の夕方までに皇后陛下や姫君たちへのお土産の確認をお願い出来ますか?」


明後日!

みやこまでの移動距離を考えると、明後日の未明にここを発つことになろうだろう。

夕方までに荷造りを終わらせ、積み込み作業をしてもらわなくてはならない。


急な展開に驚きながらもしっかりと頷く。


「承知いたしました。

 謁見は、私たちが都に居を移してからかと思っておりました。」


私の言葉にサミュエル様は首肯し、困ったように微笑む。


「その予定だったのですが、少々事情がありまして。

 謁見のあと、皇后陛下が、テレーゼ様に個人的にお会いしたいそうです。」


「私に、ですか!?」


少し大きな声が出てしまい、慌てて抑える。

サミュエル様は口元を緩ませてから、落ち着いた声で話し始める。


「アマーリエ様のことで、なにかあるのかもしれませんね。

 

 けがのご様子や儀式に関することであれば、私たちで十分対応できるのですが

 お部屋や衣装のことであれば、趣味をよく知るご友人であるテレーゼさんに話を聞きたいとお考えになられても不思議ではありません。

 もしかすると、テレーゼさん自身のお部屋や留学のことかもしれませんが。

 

 いずれにしても非公式の場なので、畏まらずに来て欲しいとのことですよ。」


女性しかいない場でありサミュエル様は参加することができないそうだ。

力になれず申し訳ないと頭を下げられたので、慌てて制止する。


皇国に観光できたわけではないのだ。

外交の任も果たすのは、私自身の責務の一つ。

謁見に対し不安も緊張もないと言えばうそになるが、楽しみでもある。



「謁見のドレスは、皇国風ドレスにしますか?」


部屋には持ち込んでいないが、どこで保管されているのか。

ここには一時的に滞在する予定だが、近いうちにアマーリエ様が住む予定の私室近くに移る。

移動に備え、すべての荷は部屋には運び込まれていないのだ。

皇国風ドレスが必要ならば、持ってきてもらわなくてはならない。


あくまでも王国の使者として、皇帝ご夫妻に礼儀を尽くし王国の正装で通すのか。

王国を知ってもらうには、それも1つの手だろう。

皇国からの使者を歓待した時のような皇国風のドレスにすることで、両国の融和を象徴するか。

皇国に広めることで、商機にもなる。


衣装1つとっても、外交である。

サミュエル様と戦略を立てなくてはならない。

 

「アマーリエ様がいらっしゃる時まで、皇国風ドレスは取っておきたいところです。」 

「では、王国のドレスを用意いたします。」


入念な打ち合わせを終え、サミュエル様にエスコートされながら部屋に戻る。

階級差も相まってか、居心地の悪さも感じるが慣れなくてはならない。


「では、ゆっくりおやすみになられてください。

 いまはお元気そうですが、あとから疲れが出るかもしれません。無理してはなりませんよ。」

「ありがとうございます。サミュエル様はぜひ温泉を堪能されてくださいね。」

 


部屋に入ると、リサさんが待ち構えていた。

「温泉、良かったですよー!

 肌もしっとり、滑らかになりました。

 どのくらい効果が続くのか気になりますね!!

 

 使用人用とのことでしたけど十分すぎる広さで!

 皇国に着いてから、一番王国との差を感じました!」



はしゃいだ様子のリサさんに謁見のことを説明し、明日は早朝から準備にとりかかるようお願いする。

ぱっと表情が仕事用に切り替わる。

 

明朝、長旅で仕舞われていた畳みシワを伸ばすためにドレス吊るし、貴金属も磨くと張り切っていた。


「ところでサミュエル様の服装はお聞きになりましたか?

 色とかデザインとか。」

「いえ。正装、とだけ。」

 

なぜサミュエル様の服装を聞かれるのかも分からず、キョトンとしてしまう。

リサさんは大げさに肩を落とす。


「えぇー…。

 テレーゼ様をエスコートされるってことは、お二人が並ぶわけですよね。

 お二人が並ばれたときに、色味が違いすぎるとおかしいんですよ。」


頭を悩ませながらため息をつくリサさんを見ていると、申し訳なくなる。


「ごめんなさい、男性と公的な場に出ることが無かったので気が回らなくて。」

「サミュエル様の色を身に着ければうまくまとまるかなぁ。

 きっとテレーゼ様の色をさりげなく取り入れてくださるでしょうし。」


「色?」


思わず聞き返すと、今度はリサさんが驚く。

 

「今日のドレスやアクセサリーのように、サミュエル様の瞳のお色である緑を入れるのですよ。

 気が付いていらっしゃらなかったんですね。」


思いもしなかったことに戸惑いながら、ドレスやアクセサリーを見る。

サミュエル様のアーモンドアイの瞳を思い出す。

確かに、緑だ。


「サミュエル様はきっと、お気づきでしょうね。」


リサさんのその言葉に、さっと頬が主に染まるのを感じた。


パートナーの色を身に着ける、という知識は持ち合わせていたが自身のこととして捉えてこなかった。

サミュエル様にはどう思われただろうか。

ドレスや髪型をほめてくださったということは、しっかりとこの出で立ちを見ているということだ。

その事実に狼狽えてしまう。


「大丈夫ですよ。夫婦や恋人ではなくとも、エスコートして下さる相手に合わせることはよくあることですから。

 テレーゼ様?聞いてらっしゃいます??」


好意を持っている、と思われていたらどうしよう。

リサさんの言うように、エスコート相手に合わせるのは良くあること。

慣れなくては。





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