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#47

まだ続けるつもりかと、リマーザは苛立っていた。


もはや自分に勝機など微塵(みじん)もないことなど、この口が達者な娘が一番わかっているだろうに。


こちらは生け捕りにすると宣言をしている。


わざわざ痛みに耐える必要などない。


これ以上、炎を浴びることもない。


大体何をそこまで怒る必要がある?


イザットがどうしたというのだ。


あの男は自ら望んで手を貸し、そして武装商団アルコムの(いしずえ)になったのだと。


リマーザは瀕死の少女を見下ろすと、彼女へと斬りかかる。


「彼は満足して死んでいったでしょう。幼い頃からの悲願だった血棺(ちひつぎ)王と王妃を殺せたんですからね!」


「違う! イザットは後悔していたよ! 僕にはわかるんだ!」


リマーザの剣を受けながら、それを流すように刃を返すアシュレ。


瀕死の状態でも、まだマルジャーナの剣技は冴えわたっていた。


それはもう尽きる寸前のろうそくの火のような、淡い火の輝きに似ていた。


「自分で選んだことが後になって間違っていたって思うときはある! 誰だっていつも“善い”選択ができるわけじゃない! 生まれた環境や境遇のせいで“悪い”ことをしちゃうときもあるよ!」


「ずいぶん庇うじゃないですか! 素性を知って同情しているのですか!? それは覚悟を決めた男への侮辱(ぶじょく)ですよ!」


「覚悟を決めたなんて知らない! そんなもの捨てちゃえばよかったのに、捨てれそうだったのに……それをあなたが邪魔したんだ!」


アシュレの三段突きが放たれ、リマーザはこれを剣で受けながら炎で牽制。


しかしアシュレは転がりながら炎を避け、そのまま彼女の足元から剣を突き上げたが、リマーザは後方転回で(かわ)す。


それでも食らいついて剣を繰り出すアシュレ。


リマーザも負けじと剣を打ち返し、辺りには無数の雨粒が降り注ぐかのように金属音が鳴りやまなかった。


一進一退の攻防だったが、やはりリマーザの自力がアシュレを上回った。


少女が剣を避けて反り返った状態から放たれた突きを間一髪で躱し、剣の振れない距離まで間合いを詰めた。


いくら剣技が優れていても体は子どもであるアシュレは、ここまで近づかれてはどうしようもできなかった。


なんとか剣の間合いを戻そうとするも、リマーザの振る剣の柄頭(つかがしら)のほうが速く、こめかみを打ち抜かれて吹き飛ばされていく。


そして倒された少女の喉元に、リマーザの剣先が突きつけられる。


「いくら理屈を並べようが感情任せにごねようが、あなたのような子どもが私に勝てるはずがないでしょう?」


倒れたアシュレの体を踏みつけ、呻くアシュレを見下ろすリマーザ。


口達者な生意気な子どもをようやく黙らせることができたと、彼女は心底ホッとしたようでため息をついていた。


すでに力も尽きたのか。


アシュレの髪と瞳の色も、マルジャーナと同じ金髪碧眼から元の白と赤色に戻っている。


観念したかと思ったリマーザだったが、少女の顔には笑みが浮かんでいた。


「一体何がおかしいのです? たとえ子どもでもこの状況が理解できないとは思えませんが。もしかして死への恐怖でおかしくなってしまったですかね」


「最初から僕が勝てるなんて思ってなんかないよ。だってあなたはワヒーダを追い詰めるほどの力があるんだから。まともに戦ったこともない僕なんかが、いくらマルジャーナの力を借りたって負けは決まってた」


(おっしゃ)ってる意味がよくわかりませんね。ならばなぜ勝てないとわかっていながら私と戦ったのでしょうか? 負けると理解しているなら、初めから逃げればよかったと思いますよ」


リマーザは踏みつけている足に力を込めた。


痛みで表情を歪めるアシュレだったが、少女はすぐにまた口元を緩める。


この娘はどこまで自分を苛立たせるつもりだ――。


そう思ったリマーザは、アシュレの喉元に突きつけていた刃を動かした。


「では目か口かを選びなさい。約束通り潰すか裂くかしてあげますから」


「一方的に決めるのやめてもらっていい? 僕はそんな約束した覚えないんだけど」


「……そのよく動く口にしましょうか。きっともっと喋れるようになりますよ」


「ぐッ!? あ、あなたみたいに?」


痛めつけても脅しても怯まないアシュレ。


リマーザは治すことのできない傷を負えば、そんな無駄口も叩けなくなると剣を動かした。


だが突然、何者かに腕を掴まれ、その先に視線を動かすとそこには――。


「それ以上その子に触んないでくれる?」


隻腕(せきわん)隻眼(せきがん)の女――ワヒーダが立っていた。


ワヒーダはリマーザに言葉を吐くと同時に、すでに振り被っている。


いや、正確には拳を振り上げて放つ寸前の態勢に入っていた。


その拳は、彼女の二つ名の由来になっている鉄腕――鋼鉄の義手だった。


「なッ!? なぜあな――ぐおぉぉぉッ!?」


文字通りの鉄拳で顔面をえぐられたリマーザは、そのまま回転しながら宙を舞って地面へと倒れた。


アシュレはワヒーダの手を借りながら立ち上がると、倒れたリマーザに言う。


「さっきの話だけどね。僕じゃ勝てなくてもワヒーダならあなたに勝てる、そう言いたかったんだ」

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