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#46

敵の悲鳴と少女の大声を聞き、ワヒーダが閉じていた目を開いた。


彼女の視線の先には、斬られた腕を慌てて拾って後退するリマーザと、剣を握って立っているアシュレの姿があった。


リマーザは痛みに耐える苦悶(くもん)の表情のまま、斬られた左腕を繋げてくっつけている。


そんな敵に対し、アシュレは斬りかかっていた。


「嘘……? あの技……それに髪も目も……?」


その光景を見たワヒーダは自分の目を疑った。


それはリマーザが斬り飛ばされた腕を元通りに繋げていたことにもだが、それ以上に彼女を驚かせたのは、アシュレの繰り出す剣技、そして髪と瞳の色だった。


少女の白い髪と赤い瞳が金髪碧眼へと変わり、その振るう美しい舞のような技は、ワヒーダがよく知る人物と瓜二つだった。


「あれはマルジャーナのッ!?」


先ほどアシュレは言った。


マルジャーナの声は聞こえていると。


それはつまり精霊の声を聞き、その力を借りて魔法を放つのと同じことなのか?


とても信じられないが、目の前でマルジャーナの髪と瞳の色となり、彼女の剣技を使うアシュレを見るとそうとしか考えられない。


「その技はあの女のもの!? 術式の影響も受けず、あなたは一体何者ですかッ!?」


アシュレの剣をなんとか防ぎ、声を張り上げたリマーザ。


先ほどまでワヒーダでも押されていた相手を、今のアシュレは圧倒している。


それはたとえ人知を超えた力を持つ相手でも、マルジャーナの剣技がそれを上回っているということに他ならない。


上段から中段、下段とお手本のような突きの連撃を見せたかと思えば、そのまま剣を逆手に握り直し、相手の腕や肩を斬り裂く。


型を知り、そして型にはまらない――むしろそれらを組み合わせた流れるような技は、相手の腕力やスピードなど関係ない。


常に自分の優位な間合いを取り、手など出させず、完全に敵の強さを封じ込める。


リマーザはアシュレが繰り出す変幻自在の剣に、手も足も出せずにいた。


そして剣技では勝てない――と、彼女は全身から炎を放ち、アシュレを下がらせて彼女から距離を取る。


「その容姿に技、マルジャーナ·ベナトナシュのものであることは確実。しかし、どうしてそんな真似ができるのか……? もしできるとしたらあの方と同じ力を……」


「戦ってるときに考え事するのやめてもらっていい?」


「くッ!? また来る!?」


追い詰められていくリマーザだったが、しばらく戦っていると、やはり実戦経験の差が出てきていた。


たしかにアシュレの剣技は見事だった。


だがリマーザは剣に依存せず、炎を使って距離を取り、少女の土俵から逃れながら戦い始めたのだ。


そして当然これまで剣など振るったことのないアシュレが、いつまでも大人が振り回すような剣を使い続けるのにも限界が訪れていた。


彼女は肩で息をし、呼吸が激しく乱れ、技の切れも徐々にだが落ちていくのが、剣をぶつけ合っていたリマーザにはわかった。


「フフフ。少し慌てましたが、技に体が追いついていないようですね。それもそのはずです。あのマルジャーナ·ベナトナシュの素晴らしい基礎と創造性、それに加えて不調和な並置によって特徴づけられている剣技を使うには、彼女と同等かそれ以上の肉体が必要なのですから。それを子どもが使いこなすには、限界というものがある」


リマーザの言葉が的を得ていただけに、いつもなら相手を言い負かそうとするアシュレでも、彼女の指摘には何も言い返すことができなかった。


いくらマルジャーナの剣技が使えるようになっても、彼女では使用し続けられるほどの体力も筋力も足りていなかったのだ。


アシュレは感情的になって飛び出してこの(ざま)かと、自分のバカさ加減に呆れるしかなかった。


「今度はこちらから行きます。なあに、殺しはしません。あなたのことは団長のもとへ連れて行きます。もちろん半分美人さんもね」


「僕を攫っていいのはワヒーダだけだ。それに半分美人とか思いついて気の利いたことを言ってるつもりなんだろうけどさ。見たまんま言ってるだけであなた、全然センスないから」


「口の減らない子ですね……。なら、あなたの顔も私やワヒーダと同じように変えてあげましょう。どちらがいいですか? 片側の口を裂かれるか、片目を潰されるかを選ばせてあげますよ」


そこからリマーザの猛攻が始まった。


炎を放ちながら剣を振るい、アシュレが次第に追い詰められていく。


先ほどから動きが鈍り出していた彼女では、もうリマーザの相手にはならなかった。


変幻自在のマルジャーナの剣技も出す前にすべて読まれ、ついには放たれた炎を避けることができず、全身に浴びせられてしまう。


「ぐぅ……」


「まだ耐えるのですね。いやいや大したものです。ですが、あなたじゃ私には勝てません。もういい加減に降参しなさい」


着ていた服は焼け焦げ、身体中に火傷を負いながらも、アシュレの目はまだ敵を見据えていた。


リマーザはそれが気に入らない。


子どものくせにと舌打ちをし、満身創痍のアシュレへと歩を進めていく。


「あなたはイザットをそそのかした……」


「うん? こんな状況で何を言い出すんですか?」


また苛立たせることを言うつもりなのだろうと、リマーザの顔が強張る。


だが彼女はもはや勝負はついていて所詮は負け惜しみだと、顔を歪めながらも余裕を崩さない。


それでもアシュレは言葉を続けた。


「彼は酷いことした……けどッ! マルジャーナの手を取ろうとしてた! 罪を償ってやり直そうとしてたんだよ! そんなイザットの心を踏みにじったことが……僕は許せないッ!」


声を張り上げたアシュレは、マルジャーナと同じ目でリマーザを睨みつけ、そして再び剣を構えた。

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