表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/50

#43

――神殿は半壊し、ワヒーダは外へと出ていた。


それは彼女が自らの足で出たわけではなく、リマーザの攻撃で吹き飛ばされたせいだった。


禍々しい光が降り注いだ後に、リマーザは凄まじい力を得ていた。


彼女の右肩にあるひび割れた太陽と月の刺青が常に輝き、その度に人知を越えた剣撃がワヒーダを襲っている。


彼女が外へ出されたのも、リマーザの振った剣を受けて壁を抜き抜けたせいだ。


「こりゃマジでヤバいね。アシュレとは違った意味で手に負えそうにない」


「そういうわりにはよくやっていますよ。力を解放した私を相手に、まだ命があるのですから」


リマーザはゆっくりと半壊した神殿から出てきた。


まともにやっても敵わないことは目に見えている。


かといって矢はもう尽きているし、槍は先ほどリマーザの炎で灰にされてしまった。


今ある武器と道具は一振りの剣と皮袋に入った蒸留酒だけで、頼りは剣のみ。


だが剣の間合いで戦えば、もちろん勝ちは目はない。


「後で調べるつもりでしたが、あなたが喋れるうちに聞いておきましょうか」


リマーザは身構えるワヒーダと向き合うと、剣を下ろして楽な姿勢を取った。


そして首を鳴らしてながら、余裕の笑みを浮かべて言葉を続ける。


「これまでに私が所属する武装商団と関わったことは?」


「ないね。噂やバザールで見かけたことくらいならあったけど、直接関わるのはこの国に来てからが初めてだよ」


「では次に、あなたの生い立ちを教えてもらえないでしょうか? その容姿を見る限り、きっと私たちアルコムの仲間と同じ境遇だったろうことは、容易に想像できますけどね」


まるで友人に語りかけるように話すリマーザ。


彼女がワヒーダのことを気に入っているという理由もあるのだろう。


それに自身が(ほどこ)した術式が発動したというに、ワヒーダには何の影響もない。


そのような人物に、興味を持たないほうがどうかしている。


「聞いても面白くないと思うよ。砂漠ではありきたりな話だし。あんたが聞きたいようなことは何もないって」


「では、あなたがこの光の影響を受けないことに、思い当たる(ふし)はないと? まあ、当然といえば当然でしたね」


リマーザがゆっくりと歩を進め、ワヒーダへと近づいてくる。


笑みはそのままだが、どうやら会話から何か聞き出すのを諦めたようだった。


下ろしていた剣の柄を強く握り、臨戦態勢に入り始めている。


「思い当たる節ねぇ。でもまあよく考えれば、呪われてもしょうがないことは山ほどしてきたかな」


「呪われても……ですか。あなたには光の影響を受けないことが呪われているからだと、そう言うのですね」


「そりゃそうだよ。あんたは自分でわかんないの? そんな刺青から光を放って力を得るなんて、呪われているとしか思えないでしょ? まあ、あたしもあんたと同じようにに強くなってれば、そうは思わなかったかもだけど」


「これは祝福です。団長が私たちに与えてくれた神をも超える力なのです。呪いだなんて言わないでください」


「あ、そう。そこは価値観の違いだね。ともかくあたしが言いたいのは、これ以上この体を呪いようがないって話さ」


リマーザが一気に間合いを詰め、ワヒーダへと斬りかかった。


これをワヒーダは剣で流すように受けながら、彼女の背後に回って蹴りを繰り出す。


ワヒーダの蹴りはリマーザの後頭部を打ち抜いたが、彼女は何事もなかったように振り返り、剣を振り落とした。


これをなんとか剣で受けたワヒーダ。


だが凄まじい衝撃が辺りに生じ、彼女は神殿内にいたときと同じように吹き飛ばされてしまう。


それでも今度は壁に叩きつけられることはなく、運良く地面へと着地できていた。


するとリマーザは表情を歪めると、ワヒーダにあることを知らせる。


「あなたのその態度を、直す方法を思いつきました」


「へー、そんな方法があるんだね。なかなか大したもんじゃない。試しに教えてよ。その方法ってヤツ」


「マルジャーナ·ベナトナシュが死にましたよ」


「なッ!?」


リマーザの一言でワヒーダの態度が一変した。


相手をからかうかのような表情から、一気に冷たいものへとなっていた。


その顔はまるで、冷えた砂漠の夜で防寒具を失ったかのようだった。


驚くというよりはリマーザの口にした言葉に怒りを感じているといった様子だ。


「ふざけたこと言ってんじゃないよ。あいつが……マルジャーナが死ぬわけないでしょ」


「あら? 察しのいいあなたならそれとなく気が付いているのではなくて? 私のこの解放された力に降り注ぐ光。あなたが呪いと呼ぶものが国中へ落とされたのですよ。それがどういうことかわからなくても、おおよその見当は付くでしょう」


リマーザは顔の左側だけが裂けた顔で笑った。


それはようやくワヒーダが、彼女の思うように動いたことを意味していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ