デリート
今日はエチではありませんが黒いです(^^;)
在原係長は自分主体の催事販売の時には身銭を切ってサクラのバイトを雇い現場に送り込む様な輩だ。
「他人の営業スタイルにはとやかく言わない、実績だけが総て」なのが私達のスタンスなのだから、私自身も自分が扱っている商品の価値を貶め、疑念を抱かせる様な行為をされない限りは“我関せず”だ!
そんな暇があったら自分の頭の上のハエを追う。
さて、今は5月の連休明け!
今年入った新入社員のうち7人が連休明けに出社して来なかった。
そもそも、ウチの会社の辞書には“5月病”なんて言葉は無いのだから、こんな事、わざわざ言う程のものでは無いのだが、使えぬ新人がさっさと辞めて新人教育のOJT負担が減るのは私としては有難い。
在原係長が“スタンドプレイ”で安請け合いした新人教育のとばっちりなどまっぴら御免だ。
それでも今日は新人の荒木くんを押し付けられて、こうやって昼飯まで奢っている。
で、その会話はこんな感じ……
「ひょっとして清水主任ってブル〇リのプールオム、付けてらっしゃいます?」
「ん? オンナがメンズを付けちゃおかしいか?」
「いいえ! そうでは無くて……僕も以前、使っていたので……」
「へえ~今日の大学生は小洒落ているんだね」
「別にそんな事はないです。それに清水主任がプールオムを付けてらっしゃるのはいい感じです」
「そんなおべっかは使わなくても、この昼飯は奢るよ」と言いつつ彼の湯呑にお茶を足してやる。
この定食屋は“置き急須のお茶のセルフサービス”があるので気に入っている。
勿論、そのお茶を淹れる為の浄水器は私が売り込み、導入したものだ。
「あ、お茶まで淹れていただいて! ホントすみません!」
「違うよ!このお茶の味をキチンと覚えてもらう為に淹れたんだ。どうだ?」
「確かに……まろやかな感じがします……ウチの会社の浄水器を使っているのですか?」
「そう!これから君が売り歩く事になる浄水器が使われている」
「じゃあ、ここも主任が導入されたんですね」
「まあ、そういう事だが……別にキミに自慢している訳じゃない。これから君自身が取り扱う商品をどの様に生かしていくべきかを知らなきゃならないだろう?!」
荒木くんは得心が行った様で、口に含んだお茶をコクリ!と飲み込んだ。
「それは、まったくおっしゃる通りです!! 在原係長のご指導と違って凄く納得できます!」
「係長は君たちの新人研修にどういう事をしたんだ?」
私の問いに荒木くんは薄くため息を混ぜながら答えた。
「在原係長はろくすっぽ説明も下さらずに、いきなり浄水器のカタログをカバン一杯に持たせて、僕たちにこう指示したんです『これから店舗、オフィス、個人宅をどこでも構わず一斉に飛び込み営業しろ!カタログが無くなる迄戻って来るな!!』って! ちょうどこの辺りです」
荏原のヤツ!! 自分に“指導力”や“営業力”が無い物だから前時代の根性論を持ち出して来やがった!! しかもここは私の担当地域!! 『セールスのイロハ』も知らないこいつらに好き勝手やられてはウチの商品に悪い印象しか持って貰えずマイナスにしかならない!! 私の営業の場を荒らす明らかな妨害工作だ!!
もうしばらく泳がすつもりだったが、アイツは“頭の上のハエ”となった。速やかにデリートせねば!!
荏原が連鎖販売取引に絡む案件で特商法違反を犯している事実を私は掴んでいる。
販売員として勧誘された人達の取りまとめはもう済ませているから、後は“これ”を適切に行使するのみ。
然しアイツが居なくなると係長のお鉢は私に回って来る。
煩わしい管理職業務が嫌でアイツを立たせていたが、やむを得ない。アイツの持ち場はちょっとテコ入れすればまだまだ伸びしろがあるから、それをいただく事で我慢しよう。
それに係長になれば岸田主任の上司にもなれる。
あの、『大口案件を取るときには決まって女を安売りする』クソガキの首根っこを押さえるいいきっかけとなるだろう。
こいつもまとめてデリート対象だ!
さて、今、目の前の荒木くんはどうするか……かなり線は細いが手を掛ければ手駒になるやもしれん。
まずは様子見だな。
「聞いて!荒木くん! 君たちが飛び込んでも成約できた訳じゃないでしょ?! それは一方的で人迷惑な行為でしかないの! そんな事ではまともな“社会人”にはなれないわよ!」
頭の中とは裏腹に……私は優しい口調で荒木くんを諭した。
おしまい
アハハハ
怖いですねぇ~(^^;)
ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!