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15-2

 女神像が地面すれすれに滑空して向かってくる。

「ぶつかる! ぶつかる!」

 三人は慌てて走って逃げる。

「ちょうど向かってくるタイミングでさあ……」

 フーゴが呟く。

「盾、代わってくれ!」

 そして、懇願した。ケントが盾を受け取る。フーゴは両手で剣を構えた。


「俺は、石でも斬れる!」

 フーゴが宣言する。それは、事実ではなくただの願望であった。そして、向かってくる女神像と相対し、剣を振る。


 斬るというより、殴っている。これまでの戦いでもそうであったが、女神像への攻撃は剣での打撃が主であった。

 三人をひき殺す勢いで迫る女神像と振りかぶった剣が、勢いのままにぶつかる。加えられた衝撃で、女神像の腕にひびが入る。

「おお!」

 向かってこられるたびに、剣をぶつけ続ける内、女神像の腕が一つ砕け落ちた。

「やったー!」

 ユリシーズが無邪気に歓声を上げた。



「あっ……」

 女神像が距離をとって、近づいてこなくなった。

「届かない……」

 距離をとられると、剣での攻撃が難しくなる。

「挑発のカップは、さっき使った時はボスには効かなかったっぽかったし……」

 女神像に近づいてもらう手段を考えるが、それが思いつかなかった。

「遠隔から攻撃するしかないでしょう」

 ケントは盾を脇で支えながら、女神像をクロスボウで狙う。

「……まあ、素直に撃たせてはくれなさそうですが」

 女神像は飛んで左右に動き、狙いを定めさせない。


「どうしよう」

「ひたすら、辛抱するしかないですね」

 再び、蛇やハーピーが出現し出した。ケントはそれに構わず、ひたすら女神像に狙いを定め続けている。それならば、とユリシーズは雑魚の掃除を請け負う。フーゴも、近づいてくる蛇やハーピーを斬り捨てていった。


 ケントは無心になって女神像をひたすら狙った。無駄撃ちはしたくない。絶対に外したくない、と引き金を引くのをじっと堪える。


 ケントと女神像の目が合っている。女神像はケントに視線を定めて、左右に逃げながら警戒していた。

 動きが不規則なうえに、速い。動きを読みながらクロスボウの向きを変えながら追っていく。中々ここという攻撃時がやって来ない。

 焦れて撃たないよう、ケントは心を落ち着けようと努める。


 ――落ち着け。焦るな。焦るな。


 ただ無心で、その機を待つ。次第にケントの耳は音を拾わなくなり、何もない駄々広い空間に女神像と一対一で向き合うような心地になった。

 しかし、ただ待つだけではその機が一向に訪れなかった。女神が隙を見せてくれない。ほんの一時だけでも止まってくれれば、と願わずにはいられなかった。


 視界の端に、赤い光が見えた気がした。その光は場違いなほど悠然とした速度で飛んできた。


 ……鳥? お前、こんなところまでついてきたのか。


 それは、ケント達の前に度々姿を見せてきた鳥だった。


 ――お前、邪魔だけはするなよ。


 ケントは心の中だけで呟く。鳥の姿に集中するわけにはいかない。ケントは女神から視線を外していなかった。だが、その視界の中に鳥が入ってきたのだ。


 その鳥の体が妙に赤く光って見える。その体の光が次第次第に膨れ上がって見える。その光に鳥の全身が包まれたかと思うと、鳥の姿が赤い光球となり、それが大きくなった。


 その光球がくるりと回転したかと思うと、ぱっと開いた。それは広々とした羽をもつ一回り大きな鳥の姿に変わった。立派な冠羽に長い尾羽までついてまったく別の鳥の姿に見えた。


 大きな鳥が、女神の眼前に立ち塞がる。瞬間、女神像が視界を奪われたためか、動きを止めた。


 ――今!


 ケントは、すかさずクロスボウの引き金を引いた。矢が真っ直ぐ、女神の目に向かって放たれる。


「当たった!」

 女神の残されていた目がつぶされた。異音混じりの悲鳴が辺りに響き渡る。

 フーゴがすかさず走り出す。フーゴは走って辿り着くと、女神像の体に取りついた。そのまま彼女の体を登り出す。

 女神像は悲鳴をあげながら体を浮上させた。フーゴは上へ上へと登っていき、女神像の背中にたどり着いた。そして、彼女の背から生えている羽の付け根に剣を振り下ろした。



 羽が一つ砕け落ちる。女神像が、バランスを崩しぐらんぐらんと揺れている。

 フーゴは振り落とされないようにと気を付けながら首まで登った。


 そして、その首に剣を下ろしていく。



 女神像の頭がぼろっと首から落ちた。そして、首なしとなった体も制御を失い、下へと落ちていった。


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