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3 お前に言われたからじゃない

 ユリシーズは夢を見ていた。

 女のさざめく笑い声が響いている。

 どこかの石造りの神殿のような場所だ。そんなところで、女達が敷物の上でだらしなくくつろいでいる。しかし、それが下品には見えない。

 女達のプライベートな時間を盗み見してしまったようで、ユリシーズはバツの悪い思いをする。

 くすくす笑う女達の顔が、知り合いと同じ顔に見えた。どこか異界のような空間なのに、そこに出てくる登場人物が身近な人に見えるところに、違和感を覚えた。


 女の一人と目が合った。その女はホリーの姿をしていた。

「こっちへどうぞ」

 女は気兼ねなくユリシーズを手招く。ユリシーズはためらいながら、一歩ずつ前に進む。

「おひとついかが?」

 差し出される果物を、受け取るかどうかためらっていると、もう一人の女が立ち上がった。

 立ち上がった女が、ユリシーズを小突いて転がす。彼女は床にへたり込んだユリシーズの肩を足で踏みつけながら見下ろしてくる。

「食べさせてもらいたいの? 図々しい男」

 その女はドロシーの顔をしていた。

「いじめちゃかわいそうよ」

 ホリーに似た女がドロシー似の女に抱き着く。女達はけらけらと笑っている。

 ユリシーズは彼女達の体の間でつぶれて形を変えている胸を見て、苦々しい思いをした。



 ユリシーズははっと目を覚ました。起き上がりながら、なんとなく腕をさする。傷ついた腕は完治しているはずだが、無意識にさすってしまうのだ。

「気持ち悪い夢だ……」

「おや。気持ち悪かったんですか。あれはあなたの欲望を見せたつもりだったんですがねえ」

 独り言に反応があって、ユリシーズはすくみ上った。声なき叫びが、体中を駆け巡る。

「どうもどうも。またお会いしましたね。あなたの夢を叶えるお手伝いをいたしますアロケルですよ」

「あの時の悪魔……」

 暗闇の中から、陽気な声とともに現れたのはダンジョンを作った悪魔アロケルである。

「なんのためにここに……」

「勧誘でございますよ。あなたの欲望を叶える手段がそこに転がっているとお伝えしに参りました」

「俺にダンジョンに行けと」

 ユリシーズの言葉にアロケルはにんまりと笑ってみせる。

「ダンジョンはいつでもあなたを歓迎いたしますよ。でも、攻略は早い者勝ちですからね。お早く動かれることをお勧めします」

 言うだけ言って、アロケルは消えた。

「簡単に言ってくれる……!」

 ユリシーズは唇をかんで、シーツを握りしめるのだった。




「ユリシーズ! 起きたか!」

「イリアス……」

 イリアスがユリシーズを見舞いに部屋にやって来た。

「ここは……」

「ニールの屋敷だ。城は今、広間や他の場所も崩落しているからな。ひとまずは、ここで暮らすんだ」

 イリアスの説明に、そうかとうなずく。

「体調はどうだ? 見た目にはすっかり怪我は治っているが、しばらくは安静にしとくべきだろう」

「……寝起きだから、よくわからない。歩いてみてもいいか」

「待て待て待て。あれだけ血を流したんだぞ。慎重になれ」

 ユリシーズは起き上がりベッドから出ようとして、イリアスに止められる。

「腹は減ってないか? あれから結構時間が経ったしな! 飯にするべきだろう!」

「……ああ」

「よし! すぐに持って来てもらうからな!」



 食事をする様子をじっと注視される。

「食欲はしっかりあるみたいだな」

 良かった。とイリアスはうなずいている。

「何? 食べづらいんだけど……」

「あんな得体のしれないものを口にしたんだぞ。無事かどうか確かめるのは当然だろ」

「大丈夫だから」

 イリアスの過保護が発動している。ユリシーズは呆れ半分、諦め半分の気持ちでいる。


「なあ。父上は何か言っていたか」

「今日はもうゆっくり休んでなさい」

 食べ終わり、懸念のことを尋ねるとあからさまに話を終わらせられる。

「絶対、なんか言ってただろ! 叱責とかなんかさあ!」

「大丈夫だから! ほとぼりが冷めたら収まるし!」

「正直に教えろよ!」

 はぐらかすイリアスに、ユリシーズは食い下がる。

「イプサやシュウムからも賓客が来てたんだ。そんな場であんな醜態をさらしたんだ。叱責や処罰があってしかるべきだ!」

「んん~~そうは言ってもなあ。あの後のダンジョン騒動で印象は吹っ飛んでしまったし……」

 イリアスの言葉に、ユリシーズは愕然となる。あれだけ身を切る思いをしたのに、やったことは無駄になったというのだ。


「だから、ほとぼりさえ冷めたら大丈夫! 時間が解決してくれるぞ!」

 明るく言い切られて、ユリシーズは歯噛みする。

「お前の王になる道は閉ざされてないから。俺がそうさせない」

 ぽんぽんと肩を叩かれながら、優しく言い含められる。そうされて、ユリシーズの心は固まっていく。


 お前を王にしてやるからな、と。


 ……バルドー? あれを王に推すのは、さすがにそんな勇気は出ないな。




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