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12-2

 女が振り上げた腕を叩き下ろす。ぎょろぎょろと動く目線を直視しないようにしつつ、繰り出される攻撃を交わす。

 まずフーゴは壁際に向かって走る。なるべく相手を見ないようにして目的地に着くために壁際を走る。

 フーゴだけが前に進んでいると、彼が狙われるのでケントも前に向かって走る。

 二本の腕がそれぞれ彼らを攻撃せんと動く。時に上から叩くように、時に床を滑って薙ぎ払うようにと動いてくる。


 その間、女の髪から生まれた蛇も同時にやって来る。蛇たちは噛みつこうと口を開けながら、眼光を光らせる。その目から放たれる輝きは比喩ではなく怪しい光り方をしていて、何らかの魔法の力を感じさせる。恐らくこの蛇の目を見ても石化の呪いにかかる。


 上から降ってくる蛇は女の腕を掻い潜り、彼らに迫ってくる。

「猛き風よ、わが敵を打ち払い給え。唸れ、爆風!」

 彼らの行動の邪魔になりそうな蛇が溜まってきたらユリシーズが巻物を読んで一掃する。ユリシーズは入り口付近から動かず、後方で彼らを支援する。

「我が敵に闇を与えよ! 落ちよ、夜帳!」

 厄介な石化の呪いを無効化させるために、敵に暗闇を付与する夜帳の巻物を読む。しかし、巨女の目の光は消えず、彼女の目はフーゴやケントの動きを追っている。

「効かんか……」

 ユリシーズは残念に思いながら次の手を考える。爆風の後に生まれた蛇たちの目から怪しい光が消えた。雑魚の敵には有効と知る。だが、蛇たちは次から次へと新たに生まれる。夜帳の巻物を読んだ後の蛇たちの目は怪しく光っていて、巻物を読んだ意味があまりないと感じた。

「う~~ん……」

 ユリシーズは蛇が溜まって来てから爆風や迅雷の巻物を使うしかないと判じた。それまでフーゴやケントにはある程度蛇たちの猛攻を耐えてもらうしかない。どうしても危なそうだったら、火魔法の杖を局所的に使おう。とユリシーズは考える。

 少しだけ、挑発の効果のあるカップを使うのはどうかと考えたが、それをするとユリシーズ自身が大分危なくなってしまう。そうすると、フーゴやケントはユリシーズを守ろうと動いてしまうので、結局は彼らの足を引っ張ることになる。



 如何にフーゴへ意識を向けさせないようにするか。それが今ケントに課されている課題だ。

 女神像への一太刀を入れるのはフーゴだ。だから彼の前進を止めないようにケントが女神の正面に近いところを走って、女神像の注意を引き付ける。

 巨大石像に対して、弓での攻撃はあまりに無力だった。その巨大な腕は彼の放つ矢をいともたやすく粉砕する。よって、ケントが辛うじて攻撃できているのは無数の蛇たちであった。

 これでは女神像はケントを脅威に思ってくれない。それで、ケントは時折迅雷などの巻物や火魔法の杖を使う必要があった。ユリシーズと攻撃が被らないよう、彼の声に注意を傾けながら、ケントはタイミングを見計らう。


 ダン! と女神像の腕が強く振り下ろされた。行く手を阻まれて、ケントは止まる。切り返して、すぐに別方向へ走ろうと思ったら、もう一方の腕が降りてきた。

 女神の両腕の間、狭い空間にケントは閉じ込められた。ケントはそこから逃れようと周囲を見回し、身を翻そうとした。

 不意に彼の周囲が暗くなった。とっさに見上げようとして、それはまずいと留まる。ただ進む方向だけを見ようと前を向く。


 そこに巨像の顔があった。逃げ場のない出口に、巨像の女の顔が鎮座してあった。


 ケントは避け切ることができず、女の視線に晒される。そのまま目が合うこと数秒。



「ケント―――!」

 ケントは彼を呼ぶ声を聞きながら、抗うこともできず体が固まっていくのを感じていた。



 身動きが取れない抵抗できない状態は、彼にかつてあった出来事を思い返させた。

「こんなガキ、早く死ねばいいんだよ」

 脳裏に聞こえるのは、野太い男の声だ。



 ケントは子供の頃、母親と二人暮らしだった。母は女でひとりで働きながらケントを育てていた。外では街の食堂で給仕をし、家では繕い物をするなど、ケントの母は小まめに働いていた。贅沢はできなかったが、ケントは母との二人暮らしにそんなに不自由を感じていなかった。

 そんな日々がある日壊れる。

「見つけたぞ」

 市場で親子二人で買い物をしていると、後ろから声をかけられた。振り向いた母の顔が引きつっている。ケントはその男の顔に見覚えはない。怒りをかみしめて耐えているようなその男の表情にケントは不穏さしか感じなかった。


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