12 よくない記憶
三人での攻略は特に大きな問題は起こらない。
「これ、毒サソリかな」
「結構素早かったね」
今のところ、魔物は見つけ次第手早く狩っている。襲われる前に倒してしまうので、誰も傷を負うこともなく、魔物がどんな特性を持つのかもよくわからないままだ。
「襲われたいわけじゃないんだけど……」
ユリシーズはどんな魔物かを深く知りたいがそれが叶わないのでどうしたものかと思っている。安全に敵の特性を知る方法がまったく思いつかないので、ただ悩むだけになっている。
「さっき見たやつと色が微妙に違ってるんだよなあ。なんか違う特徴があるんじゃないかと思うんだ」
「雄雌の違いじゃないか」
「そうなのかなあ。大きさも違うし」
「雌の方が大きい動物とかいるよね」
「うん。その逆もあるけど」
特徴を書き記すような筆記具があるわけでもないので、記憶だけが頼りだ。
緊張感はほどほどに、それでも探索に慣れてきた三人はいろいろと会話をしながら進んでいく。
「君の服なんか変わってるよなあ」
フーゴがケントの着ている服に興味を示した。
「上着と下のズボンが引っ付いた形になってるよね」
「あんまりそんな服見たことない」
「ああ。このつなぎですか。これ、鉱夫の服です」
「鉱夫~⁉ 君、鉱山にいたことあんの?」
「はい。一時期鉱山で働いてました」
「えっ? 犯罪者?」
フーゴの発言に、ケントは冷めた目を向ける。
「フーゴ、それはさすがに……」
「鉱山の作業者が犯罪者だけで構成されてると思ってるんですか?」
「いや、だってさあ!」
「そんなの産業として成り立たないでしょうが」
フーゴは露呈した己の世間知らずさとそれを見た二人の反応に頭を抱える。ユリシーズは彼を見て、己の世間知らずさも顧みつつ苦笑するのだった。
ケントは探索をしていて自分の過去を色々と思い出していた。鉱山での経験は特に嫌なこともなく同僚や上司も気のいい人ばかりで過去一穏やかな生活であった。そのままずっと鉱山で勤めていても良かったのだが、肝心の鉱山が閉鎖されてしまい、転職を余儀なくされたのだった。
淡々とした単純作業はいい。作業をしながらあれをしようこれをしようと思考をすることもできるので、やらなければいけないことを先に頭の中でまとめることができる。考えることを止めて手を動かす作業に集中すれば一時的に悩みから解放される。手を止めさえしなければ成果になるので、何もできなかったという無力感に襲われることもない。
自分には向いてたんだがなあ。とケントは思う。
「大分進んだし、そろそろ階層ボスと出遭う頃合いかなあ」
三人はそんな憶測ができるくらいの経験を積んでいた。
「さっきのボスは首から上だけで壁から動かなかったけど、今度はどうかな」
そんな話をしていると、それらしい大きな扉が出てきた。扉の前でそれぞれ準備を済ませる。
「それじゃあ、行こうか」
扉を開けて中へと入る。
扉の奥には女の上半身を象った彫像があった。女の髪は無数の蛇で、これは上の階にいたボスと共通している。女の腕は青鈍色をしていた。元の色から退色したのではと思わせた。前に乗り出した女の背後の壁には羽が描かれている。これは、彫像ではなく絵画であった。
ぞろり、と女の髪が動く。そこから生きた動く蛇が出てくるのは予想通りだ。女の閉じていた目蓋が開かれる。
「ああ、今回は最初からだ」
そして、体の横に下げ気味に開いていた女の腕がずずずと重そうに上に上にと上がっていく。




