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食事を終え、寝る準備を各自整える。作った寝床の上で、ユリシーズは虎を背後から抱えて彼の前足を動かしたりして遊んでいる。しかし、その顔がそんなに楽しげではないのでどうしたものかと二人は見守っていた。虎の顔は対照的にきょとんとしていて光景に悲壮感がない。
「ユリシーズ様、どうされましたか」
ケントが意を決して彼に直接尋ねる。
「俺の今のお役立ち度ってこの虎と一緒くらいだよね」
その言葉にケントは首をかしげる。
「いや、そこはすぐに否定してあげろよ!」
黙っているケントに対してフーゴが声を荒げる。
「……いえ、ユリシーズ様がお役に立たれたことは幾らでもありますが、その虎が役に立ったところは見たことないです」
「えっ!」
ケントの言葉に、ユリシーズは驚いて顔を上げる。
「虎は凄いんだよ! 俺の代わりに敵に向かってくれたりするんだ!」
「そうなんですか?」
ケントはまた首を傾げながら相づちを打っている。
「こう、俺が危ない目に遭ってると大きくなってくれて……」
そこまで言って、ケントの前で危ない目に遭ったことがないとユリシーズは気づく。
「……うん。まあ、ケントに護衛されてるから、危ないことはないんだけどさ」
ゴニョゴニョ口籠るユリシーズは当初言おうとしたことから意識が逸れてしまった。
「俺は思うんだけど『攻略』には意味が二通りあると思う」
「二通りですか」
うん。とユリシーズはうなずく。
「ダンジョンの謎の解明や奥深くまで到達するのが普通の意味の『攻略』。ダンジョンマスターが求めている方の『攻略』はちょっと違う。あいつらは探索者たちの感情を求めている」
「感情ですか」
「欲を叶えるための葛藤、立ちはだかる困難を前にしたそれでもどうにか叶えようとする願望の強さ、痛みを乗り越えてでもどうにかしたいというあがき……そういうものを求めている。それらを乗り越えたものに『攻略』の証を与えている……それが、あの解呪屋さんの言っていた『攻略』が何を意味するかは分かっていないという発言にもつながっている」
発言しながら、ユリシーズは眠くなってきたのかうとうとし出した。
「つまり、どういうことです」
「ちょっとくらい危険なことを覚悟の上でしないと『攻略』はできないよ……」
そう言うとユリシーズは虎を抱えて寝入ってしまった。虎も一緒になってすぐに寝に入る。
「やはり『攻略』をしたことのある人は、普通の人と違う観点をお持ちのようだ」
ケントはそう呟く。しかし、ケントの職務からするとユリシーズに危険な目には遭わせるわけにはいかない。
「しかし、この方がお持ちの自己肯定感はどうにも低いようだ」
ケントはユリシーズが当初言おうとしていた言葉の意味を正確に把握していた。己は今回のダンジョン攻略に役に立っていない、二人のお荷物になっている、とユリシーズは言おうとしていたのだ。
「俺には君のことがよくわからんよ。そんなに敬っていないのかと思えば、心配はしてるようだし」
「敬ってはいますよ。そう感じられないのは、ひとえに私の不徳の致すところ」
フーゴはケントを多少敵意を持って観察していたが、ケントがユリシーズに対して悪心を持っているわけではないとわかると、今度は彼のことがよくわからなくなった。
「けど、忠誠心とかは持ってないんだろ」
「そういうのは、長年お仕えしてようやく目覚めるもんなんじゃないですか」
「そうかもね。でも、嫌ってはいない」
「そりゃあ、嫌いにはなれませんよ。この方は、結構性根がまっすぐで善良な人じゃないですか」
そう語るケントの口調は平静そのもので、熱のようなものは一切感じられない。だが、それでも発言に嘘はないとフーゴは思わされた。




