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「解呪屋さんでも戻せないの⁉」
「あんたが魔法を使いこなさないとどうにもできないね。大体、私はあんたがその姿でいるのは、自分で魔法を使って姿を変えてるもんだと思ってたんだ」
「ど、どうしよう~~~」
ケントはユリシーズと解呪屋の会話を聞きながら考えていた。
ユリシーズの足元にいる虎のような獣と、解呪屋の肩に乗っている虫。これも、恐らく攻略者の証。人に対して襲ってこないで特定の人物に付き従う魔物。こんな存在はそう多くはいない。
ふと、あの鳥の存在を思い出した。これはもしかするともしかするのでは、とケントは思った。
そして、ユリシーズは攻略をしないとこのまま。つまり、大真面目に攻略と向き合わねばならない。
ケントは、フーゴを見た。この男の協力がいる。ならば、言うべきを言っておかねばならない。
ケントは、フーゴに近づいて切り出した。
「あなたに言っておきたいことがあります」
「なんだ」
「ユリシーズ様に近づき過ぎないでもらいたい」
「……それは、これから攻略をするのに俺が邪魔って言いたいのか?」
「そういう意味じゃないです」
表情が険しくなったフーゴに対して、ケントは首を振る。
「これは、私が勝手にしている憶測ですが、ユリシーズ様は大柄な男性が怖いのです」
「……なに?」
話しの風向きが変わって、フーゴは怪訝な顔をする。
「あなたも感じたことはありませんか? ユリシーズ様に対してグイッと近づいた時に、表情が強張ったり、体に力を入れたりするような様子が見られませんでしたか?」
「……」
「心当たりがおありでしょう。私やカミロに対してはあまりそれが見られないのは、私達がユリシーズ様の元の身長とそう差がないからです。ユリシーズ様はあなたのことは認めてらっしゃるし、あなたのことは嫌ってはいない。だから、ご自分が感じている緊張をなるべく悟らせないようにしようとがんばってらっしゃる。しかし、それはユリシーズ様にとってかなりの負荷だと私は思うのです」
イリアスによってケントがユリシーズの護衛に選ばれた時、ケントはなぜモーリスが選ばれなかったのかを考えた。モーリスの方が屈強で通りすがりに出遭う悪党に対して睨みが効く。なのに、選ばれたのは大して強そうに見えない体格に優れていないケントだった。
ケントはユリシーズに対して感じていた違和感を細かく考えていった。ユリシーズは基本的に誰に対しても気安い態度ではいるが、自分から積極的に近づく人とそうでない人がいる。体の大きい人間とそうでない人間との距離の取り方の微妙な違い。その時の挙動。
考えた結果辿り着いた答えは、ユリシーズは自分を見下ろすほど大きな体格の男に対して恐怖心を抱いているというものだった。
「だから、ユリシーズ様と接するときはもう少しだけ距離を開けてあげて欲しいのです」
ケントの言葉に、フーゴは沈痛な顔をした。ユリシーズに対する哀れみか、好意を抱いた相手に近づけない己への悲しみか。ケントは気の毒に思いつつも、どうにもできないとも思った。
「さて。ここから先は初心者の攻略は難しくなる。この先を進むか、戻るか。それを判断しないといけない」
解呪屋の言葉に、カミロとトニアは顔を見合わせた。
「……俺達は、この先を行くのは力不足じゃないか」
「そうね」
彼らは戻ってダンジョンを出る選択をした。
「じゃあ、私はこの子達が無事にダンジョンを出られるように付き添おうかね」
「解呪屋さん、ありがとう」
「ありがとうございます」
ユリシーズ、カミロ、トニアは口々に彼女に礼を言う。
「カミロ、トニア。もし良かったら、いつでもいいからメディナに来てくれないか。まだ全然探索が進んでないダンジョンがあるんだ」
「へえ。そのダンジョンの話は初耳だ」
ユリシーズの勧誘に、側で聞いていた解呪屋も興味を惹かれる。
「まだダンジョンが育ってないから、初心者でも攻略がしやすいんじゃないかな」
「詳しく知りたいねえ~~。あんたがダンジョンを出てきてから、しっかり教えてくれないかい」
「うん! じゃあ、出てからまた会いましょう!」
「どうかお気をつけて」
「ご無事に戻って来て下さいね」
ユリシーズ達は解呪屋、カミロ、トニア達と会話をして彼らと別れた。




