9-3
「元に戻ってない!」
「私は、ちゃんと解呪したよ」
ユリシーズの言葉に解呪屋はやれやれと首を振る。
「どういうこと⁉」
「あんた、自分が魔法使いになった自覚がないんだね」
「魔法使い~~?」
解呪屋の言葉に、ユリシーズは疑念の声を上げる。すると、解呪屋は己の手首を差し出して見せてくる。そこにあるのは、頼りなげな細身の腕輪だ。
「これ。攻略の証。あんたも私も『攻略者』だ」
「攻略の証……」
「何をもって『攻略』と言うのかは、よくわかってないがね。私達はダンジョンに入って、困難を乗り越えた。そして、願いを叶えた。違うかい?」
「願いを叶えた……」
「実感はないかい? まあ、魔法の存在にも気づいてなかったみたいだし。でも、そういう会話はしただろう」
「……」
ユリシーズはあの花が降りてきたその瞬間のことを思い出す。
ダンジョンの奥で祖父の亡霊に扮した強敵を倒した。そして、花が降りてきて、願いをと尋ねられた。
「願いのことはおいておこう。さて、願いの副産物として攻略者には魔法が与えられる。その印が、この腕輪だ。これを所持していると私達は魔法が扱えるようになるのさ」
「これ、魔法の腕輪だったの……」
ユリシーズは自分の腕輪をしげしげと眺める。
「なんとなく、あの時からここにあるなあと思ってたけど」
「呑気だねえ、あんた。まあ、それで魔法ってのは、一ダンジョンにつき一個与えられるとされてる。腕輪一個につき一個の魔法だね」
「へええ……」
「与えられる魔法は、願いと関連してるとも、してないとも言われるが、私の知ってる範囲では割と関連してる気がする。あんたは、何を願った? それによってどんな魔法を得られたのか答えを得やすい」
「なにを……」
ユリシーズはうーんと考え込む。あの時出せなかった答えにまた行き当ってしまった。
「あのとき、どうしてもこれと言う願いが浮かばなかった。だから、なんにでも対処できるような便利な力が得られればいいと思ったんだ」
「なるほどねえ。そして、今あんたに起こってる現象を考えてみよう。私とあんたが出会った時、あんたは女性の姿をしていた。私が解呪すると、あんたは男性の姿に戻った。あんたは、本来は男性だ。これはあってるね?」
「うん」
「そして、今あんたは子供の姿になっている。この二つに共通するのは、身を変じさせていると言うこと。つまり、あんたの持つ魔法は『変身』だ」
「変身……」
それを聞いてユリシーズは思った。
「えっ。これ、なんの役に立つの」
「さあ。使い方を考えるのはあんた次第だよ」
「ええ~~! もっと、なんか、こう……! ドカーン! て感じの魔法の方が、使い易そう……」
「贅沢なこと言ってるねえ。みんなが攻略したがってるし、魔法を欲しがってるってのに」
悔しがるユリシーズを見て、解呪屋が苦笑をしている。
「で、元に戻れないのはなんで!」
「あんたの魔法が暴走してるんだろう。最初に、子供の姿にされたときに余計なことを考えなかったかい?」
「子供にされたとき……」
呪われて姿を変えられて、その場にいた他の冒険者にあざ笑われた。そして、悔しくて地団太をして……
「この姿で攻略してやるって思った……」
「それだ。その言葉がある程度達成されないと、あんたはその姿のままだ」
「え、ええ~~~~~~!」
ユリシーズの声が、広い部屋に響いた。




