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9-2

「えーと……目を見たら駄目だから、えーと」

 ユリシーズは大分焦っていた。とっさに頭が回らず、とりあえず女の像と目を合わさぬようにと地面を見て考える。


 その間に、フーゴが動いた。フーゴが一旦剣を鞘に収める。ケントは何をしているのか気にかかったが、まずは己のできることをしようと考えていた。

 女の像を見ずにその女の目を射る。目標を直視することができない。目隠しで弓を操るようなものである。

 まっすぐに目を射るのではなく、弓なりに落ちてくるのに任せてはどうか。考えて、天井に向けて矢を放つ。だが、やはりと言うべきか、矢は女神の顔の前を通過して落ちた。


 さすがに無理がある。ケントがそう思っていると、ガリガリと何かをひっかくような音が聞こえた。

 フーゴが鞘を壁に押し当てながら走って移動していた。壁伝いに移動して巨像を見ずに対象に近づき、どうにか顔面付近までたどり着いて攻撃をするつもりなのだ。


 そのフーゴを狙って蛇が猛然と襲いかかりくるが、フーゴは完全にそれを無視していた。走る勢いで蛇を蹴散らす。もしくは踏みつぶす。上から降ってくる蛇がいるが、絡みつかれる前に勢いよく走って振り落とす。だが、それも時間の問題に思えた。


「ケント! これ、読んで!」

 ユリシーズがケントに巻物を渡した。自身は何か別の巻物を読もうと鞄を探っている。

「これは……」

「早く!」

 ケントはユリシーズが渡した巻物が有効とは思えず疑問を口にしかけたが、ユリシーズに急かされる。とっさに、彼の言うことに従った。


「魔の物よ、我がもとに集え、降魔襲来!」


 フーゴにまとわりつこうとしていた蛇が一斉に消える。

「いけた!」

 ユリシーズの声に、ケントは顔を巻物から上げた。彼らの前に大きく広がっていた巨像の姿が消えていく。

 そして、彼らの周囲にこれまで階層に出現していた魔物が複数現れる。だが、現れたと思った魔物はまた消えていった。


「何が起こったの⁉」

 トニアが声を上げる。

「ああ、裏技ってやつだねえ。あんまりやっちゃいけないやつ」

 その声に答えたのは、女性だ。

「解呪屋さん!」

「また会ったねえ。と言うか、見てたんだけど」

 彼女の姿を見て嬉しそうにユリシーズが声を上げる。その声に答えて解呪屋は手を振った。



「今のは、モンスターハウスの巻物を悪用したボス戦の切り抜け方だね」

「悪用……」

「そう。あんまりいい手ではない。何より、本来身につくはずのボスの倒し方を身に着けずに倒した経験値だけ手に入れてしまう。よっぽど道中を急いでいるとか、そう言う理由がない限りやらない方がいいのさ」

 解呪屋が説明をする。

「今のは、あの鎧の青年に任せても良かったんじゃないかい? 彼なら、あの状況でもあの像の目を斬りつけられただろうね」

 解呪屋がフーゴを見やる。ユリシーズは、途端にフーゴに対して申し訳ない気持ちになった。彼の手柄を取り上げてしまったのだ。


「それに、この手はいつでも使えるわけじゃない。これに頼ってると、通用しなかった時に困ったことになるだろうよ」

「うん。なった」

「その経験があるんですか」

 ユリシーズの返答に、ケントは聞き捨てならないと拾う。


「それはいつのことですか?」

 尋ねるが、ユリシーズはすいっと目を逸らす。


「じゃ、こっちの坊やの解呪をしてやろうか」

「お願いします!」

 解呪屋の言葉にユリシーズは大声で礼を言う。ケントの追及には答えない。

 解呪屋の手がカミロの足に触れ、彼の石化が解ける。


「解呪屋さん。俺のことも元に戻してください」

「ん? あんたのそれ、どうしたんだい」

「入り口近くの像に触れてこうなりました」

「ああ。あれね。……まあ、いいだろう」

 解呪屋は一瞬、何かを考えこんだがすぐにユリシーズに向き直って彼に触れた。


「あれ?」

「ん?」

「……あんた。今、自分で自分に魔法をかけたね」


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