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9 判断の時、振り返りの時

 広い部屋の奥の壁いっぱいに広がるのは、巨大な女性の顔の彫刻だ。目を閉じた女性の顔の周りの髪は無数の蛇だった。

「蛇って、こういう……」

「この辺りの伝承で、髪が蛇の魔性の女の話があるのよ。あらゆる魔物を従えていて、その女を倒しに行く勇者の話が」

 ユリシーズの言葉にトニアが答えていると、髪の一部だった蛇がうぞりと動き出した。

 彫刻だった蛇が動き出し、次いで生きた魔物となって降りてきた。一匹の蛇が動き出すと、次から次へと続々と生きた蛇が生まれてくる。そして、猛然とこちらに向かってくる。


「やっぱ、こうなるよなあ!」

 フーゴ、カミロ、トニア達は剣を構えて迎撃の姿勢だ。

「ユリシーズ様は、なるべくこちらから動きませんよう」

「わかった!」

 ケントはユリシーズの横に侍る。彼がユリシーズに入り口付近から動かないよう言うと、ユリシーズは大きくうなずく。ユリシーズの手には巻物だ。近接の攻撃は三人に任せて、彼らは後方から支援をする。


 フーゴ達が蛇を切って片付けていく。その攻撃の手をすり抜けて近づいてくる蛇をケントが弓で始末をする。

 時々、あまりに多くの蛇が溜まり過ぎた時はユリシーズが迅雷の巻物を読んで、一気に片付ける。


「多いなあ……」

 蛇は無限に湧いてくるかに思えた。湧いてくる根源である壁の彫刻を見れば、変わらぬ姿のまま、そこにある。

 そう変わっていないのだ。壁の彫刻の女の髪は数を減らすことなくそこにある。その髪から蛇が生まれているのに、蛇が出てきた後もそこには同じ蛇の姿の髪があるままだ。


「これは、あの彫刻自体を攻撃しないといけないかもしれない」

「そうですね」

 ユリシーズとケントはそう結論付けた。フーゴ達も同じ結論に達したらしく、彼らはやって来る蛇を対処しながら前へ前へと進んでいく。



 順調に彫刻に近づいて行っていた頃、異変が起きた。彫刻の女の目が開きだしたのだ。その女の目が手前にいたカミロを捉えた。一瞬、カミロと女の目と目が合う。

「あっ」

 目が合ったのはほんの一時。瞬きするほどの間だ。カミロは妙な悪寒を感じて寸時に視線を外した。

 そのわずかの時間で、カミロは身に変調をきたした。


 ガクン、と右足が動かなくなる。なんだと見れば、足が石に変わっていた。

「う、わああああぁ」

 カミロは思わず動揺して声を出した。その声を聞いて、フーゴ、トニアはカミロの身に起きた変事を知る。


 咄嗟に彼らはカミロを抱えて後方に走った。



「石化の呪い……」

「これがあの女の能力」

「見るな!」

 トニアが後ろを振り返ろうとしたのを、カミロは叫んで止める。

「目が合ったらこうなった。あの女と目を合わせちゃいけない!」

 カミロは慌ててしゃべる。右足の石に変わった部分が広がっているのを彼は感じていた。だから、急いで何が起きたのかを告げた。全身が石になる前に真実を知らせなくてはいけないと焦ったのだ。



 フーゴ達は一旦、ユリシーズ達のところまで戻る。カミロをそこに預けた。

「これ、どうしたらいいの……」

 トニアが不安を口にする。

「解呪だな。解呪の巻物があればいいけど、なければさっき出会った解呪屋さんに頼む」

「あの人、どこにいるの。私達より先に、ダンジョンの奥へと行ったでしょう」

「うん……出会えなかったら、街まで戻ってあの人の帰りを待つか、俺達が自力で解呪の巻物を見つけるか……」

 トニアとユリシーズが話している間、ケントとフーゴは近づいてくる蛇を処理していた。


 そう言えば、とユリシーズは思い出す。

「ケント! 白紙の巻物って持ってない?」

 前回、メディナの旧城でドロシー達が見つけたと言っていた巻物だ。あれには呪文が書き込める。

「すみません。あれはユリシーズ様とはぐれた時にドロシー様が使われたのです」

「そっか……」

 それを聞いて、ユリシーズはならばやはり解呪屋を待つか巻物を探すかするしかない、と改めて考える。


「って、それをするにはまずここを切り抜けないとだよなあ!」

 危機は未だ去らずにここにあった。


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