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ユリシーズはケントを気遣わなくていいのだ。こちらを気遣わせてしまっているのは、自身の力不足だ、とケントは考える。
ユリシーズは従者のことなど気にも留めず、冒険に邁進して欲しいとケントは思っている。のびのびと自由に心からダンジョン探索を楽しんで欲しい。それがケントの望みだ。それはケント自身がやりたいことであり、ユリシーズがそれを叶えるのはケントにとって代替のようなものだった。
ケントの中にも冒険心はある。だが、彼はダンジョン探索を楽しむ前に、ユリシーズを護衛しなければならない。だから、一歩引いたところから、ユリシーズを見る必要がある。
そうやって、一歩引いて状況を判断しているせいか、ケントとユリシーズ達との間にはどこか遠慮のようなものが漂っていた。
ケント自身もそれに気づいていたが、彼にはそれをどうこうすることはできなかった。
野営地にしていた部屋を出る。
「あれ? 鳥?」
ユリシーズが上を見上げて声を出す。一行は同じように上を見た。
「……鳥ですね」
「見たことない種類の鳥だなあ」
「魔物?」
口々に疑問を声に出す。そこにいたのは、一匹の小さな小鳥だ。背中側から顔にかけては赤い毛並みで、胸側の毛は白い。その白い毛に背中側と同じ色の斑点が散っている。
「矢で射ましょうか」
ケントは弓を構える。
「うーん。こっちに向かってこないしなあ」
「攻撃してくる気配はないね」
などと言っていると、鳥が鳴いた。ギョロロロと鳴き声が響く。
「んーあまりかわいい声じゃない」
ユリシーズは思わず苦笑いと共に感想を漏らした。
「あ、どっか行った」
「逃げてったね」
ダンジョン内でこちらを攻撃する気のない魔物。ケントはユリシーズに付き従う虎と同じだと思う。ユリシーズの虎を見ればあくびとともに伸びをしていた。戦闘態勢どころか警戒すらもしていない。
「えー。なんかおかしい」
「ずっと同じようなところをぐるぐるしてるような……」
一行は緩くカーブを描いている廊下を歩いていた。右手側に小さな水路が流れている。
「いや、元に戻ってるって」
先ほども見た壁の模様に元いた道に戻ってきているとユリシーズは確信する。
「なんで⁉ この水路ずっと右側で変わってないのに、なんで元の道に戻って来てんの!」
ユリシーズは水路を指さしてぷんぷんと怒っている。
「なんかのギミックを解かないと前に進めないんでしょうか」
ケントは推測を口にする。
「ギミックねえ……」
一行はうーんと唸りながら考え込む。
「ヒーッヒッヒ! お困りかい⁉」
聞き覚えのある声が聞こえて、ユリシーズ達はそちらを見た。
「解呪屋さん! どうしたの?」
「仕入れだよー。ついでに営業がてら解呪をして回ってるのさ」
「これ、なんかの魔法?」
「通路にかけられてるねえ。私は無視できるけど。どうだい、解呪するかい?」
尋ねられて、ユリシーズはうーんと考え込む。
「……もうちょい、自力でがんばる」
そう答える辺り、ユリシーズは負けず嫌いであった。
「そうかい。がんばりな。何か買い取りできるような品物はあるかい?」
「買い取り……」
一行は先ほどモンスターハウスで得たアイテムを何個か見せた。
「それは何?」
「鑑定鏡だよ」
「魔道具ってやつ?」
「そうそう。鑑定の巻物は一回だけしか使えないし。鑑定の魔法が使える人もいるらしいけど、私は出会ったことないね」
「案内所でアイテムの鑑定ができるって言ってたけど」
「こういう鑑定鏡を使ってるんだろうね」
「それはダンジョン産のアイテム?」
「そうそう」
ユリシーズは解呪屋と会話を重ねていく。子供の見た目のせいか、すんなりと質問に答えてくれる。
「じゃあ、これとこれを買い取るよ。毎度ありぃ~」
「ありがとー」
ダンジョンで拾ったアイテムの内、二点が呪われていた。それを解呪屋に買い取ってもらった。
「……あの人、最後まで俺の見た目を突っ込まなかったな」
「絶対気づいてましたよねぇ」
ユリシーズとケントは揃って不思議に思っていた。




