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8-3

 ユリシーズはケントを気遣わなくていいのだ。こちらを気遣わせてしまっているのは、自身の力不足だ、とケントは考える。

 ユリシーズは従者のことなど気にも留めず、冒険に邁進して欲しいとケントは思っている。のびのびと自由に心からダンジョン探索を楽しんで欲しい。それがケントの望みだ。それはケント自身がやりたいことであり、ユリシーズがそれを叶えるのはケントにとって代替のようなものだった。

 ケントの中にも冒険心はある。だが、彼はダンジョン探索を楽しむ前に、ユリシーズを護衛しなければならない。だから、一歩引いたところから、ユリシーズを見る必要がある。

 そうやって、一歩引いて状況を判断しているせいか、ケントとユリシーズ達との間にはどこか遠慮のようなものが漂っていた。


 ケント自身もそれに気づいていたが、彼にはそれをどうこうすることはできなかった。


 野営地にしていた部屋を出る。

「あれ? 鳥?」

 ユリシーズが上を見上げて声を出す。一行は同じように上を見た。

「……鳥ですね」

「見たことない種類の鳥だなあ」

「魔物?」

 口々に疑問を声に出す。そこにいたのは、一匹の小さな小鳥だ。背中側から顔にかけては赤い毛並みで、胸側の毛は白い。その白い毛に背中側と同じ色の斑点が散っている。


「矢で射ましょうか」

 ケントは弓を構える。

「うーん。こっちに向かってこないしなあ」

「攻撃してくる気配はないね」

 などと言っていると、鳥が鳴いた。ギョロロロと鳴き声が響く。

「んーあまりかわいい声じゃない」

 ユリシーズは思わず苦笑いと共に感想を漏らした。


「あ、どっか行った」

「逃げてったね」

 ダンジョン内でこちらを攻撃する気のない魔物。ケントはユリシーズに付き従う虎と同じだと思う。ユリシーズの虎を見ればあくびとともに伸びをしていた。戦闘態勢どころか警戒すらもしていない。



「えー。なんかおかしい」

「ずっと同じようなところをぐるぐるしてるような……」

 一行は緩くカーブを描いている廊下を歩いていた。右手側に小さな水路が流れている。

「いや、元に戻ってるって」

 先ほども見た壁の模様に元いた道に戻ってきているとユリシーズは確信する。


「なんで⁉ この水路ずっと右側で変わってないのに、なんで元の道に戻って来てんの!」

 ユリシーズは水路を指さしてぷんぷんと怒っている。

「なんかのギミックを解かないと前に進めないんでしょうか」

 ケントは推測を口にする。

「ギミックねえ……」

 一行はうーんと唸りながら考え込む。

「ヒーッヒッヒ! お困りかい⁉」

 聞き覚えのある声が聞こえて、ユリシーズ達はそちらを見た。

「解呪屋さん! どうしたの?」

「仕入れだよー。ついでに営業がてら解呪をして回ってるのさ」

「これ、なんかの魔法?」

「通路にかけられてるねえ。私は無視できるけど。どうだい、解呪するかい?」

 尋ねられて、ユリシーズはうーんと考え込む。


「……もうちょい、自力でがんばる」

 そう答える辺り、ユリシーズは負けず嫌いであった。

「そうかい。がんばりな。何か買い取りできるような品物はあるかい?」

「買い取り……」

 一行は先ほどモンスターハウスで得たアイテムを何個か見せた。


「それは何?」

「鑑定鏡だよ」

「魔道具ってやつ?」

「そうそう。鑑定の巻物は一回だけしか使えないし。鑑定の魔法が使える人もいるらしいけど、私は出会ったことないね」

「案内所でアイテムの鑑定ができるって言ってたけど」

「こういう鑑定鏡を使ってるんだろうね」

「それはダンジョン産のアイテム?」

「そうそう」

 ユリシーズは解呪屋と会話を重ねていく。子供の見た目のせいか、すんなりと質問に答えてくれる。



「じゃあ、これとこれを買い取るよ。毎度ありぃ~」

「ありがとー」

 ダンジョンで拾ったアイテムの内、二点が呪われていた。それを解呪屋に買い取ってもらった。

「……あの人、最後まで俺の見た目を突っ込まなかったな」

「絶対気づいてましたよねぇ」

 ユリシーズとケントは揃って不思議に思っていた。

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