8 群れの中の孤独
ユリシーズは目を覚ました。ふあー、とあくびをしながら上半身を起こす。
「グアウ」
「虎、おはよー」
ユリシーズは目の前に現れた虎の顔を撫でながらあいさつを交わす。
「その子、ずっとあなたの上に乗ってたけど、重くなかった?」
トニアに尋ねれる。
「そっかー。どおりであったかいと思った」
重みはそれほど気にはならなかった。むしろ心地よい重さだったように思う。
「ありがと」
ユリシーズは虎をぎゅっと抱擁する。トニアはそんな光景を微笑ましく眺める。
そんな傍らでは
「へえ、朝ご飯まで作れるの。純粋な貴族ならそんなことはできないけど、従軍したことがあるなら野営経験もあるか」
「いちいちうるさいですね」
「誰か助けてください」
ぎすぎすした空気が漂っていた。
「昨晩なにがあったの?」
ユリシーズはケントに説明を求める。
「彼らにユリシーズ様のことをお伝えしました」
ケントはカミロ達を差しながらそう言った。
「そっか!」
それを聞いて、ユリシーズの表情がぱっと明るくなる。
「ありがとう! 言わないといけないと思ってたんだ! 説明してくれて助かった!」
ユリシーズは笑顔で屈託なく礼を告げる。
「カミロ、トニア。すぐに言うべきだったのに、騙したみたいでごめん!」
「ううん、気にしないで」
「大変だったねえ」
「……ありがとう!」
カミロ達の気遣いの声に、ユリシーズはにっこりと笑う。
「こ、心が洗われるぅ~~~」
「なんて邪心のない笑顔なの……!」
カミロとトニアはぎすぎすした空気で荒れた心を慰撫されたのだった。
「そっちを告げるんだ?」
フーゴの言葉にケントが冷たい視線を返す。
「君が寝た後、俺はこの男がプラウド出身じゃないかと尋ねたんだ」
「え、ああ。そうだよ」
フーゴの発言にユリシーズはあっさりと肯定を返す。
「大森林の他はプラウド領に囲まれたとこだよ。じゃあ、よそから人材募っても、大体プラウドの人が来るでしょ」
「それは、まあ……でも、彼の所作はどこか貴族的だ」
「そんなん見てりゃわかるでしょ」
この指摘に関しても、ユリシーズはだからどうしたと言わんばかりだ。
「傭兵を募って、そこに来てくれたんだよ。軍の経験者も多いし、低位貴族出身の人や貴族の屋敷に勤めてた人もいる。そりゃあ、大体の人が貴族との関わりがあった人だよ」
「そう」
フーゴが言いたかった疑いをユリシーズは呆気なく崩す。
「そんな彼らがプラウドの貴族と通じているとは思わないの」
「通じててもしょうがないってのが、現状だよね」
ユリシーズが語るのは諦念。これから独立した国を盛り立てようとしてるのに、なんとも無防備に聞こえる。
「君ら大丈夫?」
「大丈夫じゃないからね」
こともなげに話すのに、その内情はとても危なげだった。
「俺は、君の味方になりたいんだ……」
「でも、無理なんでしょ。君の立場だとね」
わかってるよ、とユリシーズの表情が物語っている。
再び、ダンジョン探索を再開する。
「この巻物使ってみたいなあ」
ユリシーズは新たに手に入れた巻物を使う機会を窺っている。
「絶対おもしろいよ、これ」
呪文の文言から効果を想像して、わくわくと期待を高めている。




