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「まあ、どう見ても庶民て見た目じゃないもんなあ」
「このきらきらした白金の髪なんて、本当にきれい」
「目の色もきれいな青色で」
「この獣ちゃんとおそろいなのよね」
「なあ」
ユリシーズはフードを被って行動していたが、ダンジョン内を動く内によくずれた。隠し切るのは到底無理だった。
横を向いて寝ていたユリシーズは、今では仰向けに寝ている。寄り添っていた虎はいつの間にかユリシーズに乗っかっている。重そうに見えるが、互いに気にした様子はなくぐっすりと寝ている。
「あったかそうよね」
トニアはそんな感想を漏らした。
「この方の年齢は18歳。本来は成人した男性です」
「あー」
「子供にしては何かおかしいとは思ってたけど」
「この姿は入り口近くにある立像を触れた結果です」
「あれ、本当にこんなことになるんだ……」
「聞いたことはあったけど」
「でも、大人にしては言動が幼いような……」
「そういう呪いなんでしょう。この呪いの正体は恐らく弱体化」
「弱体化……」
ケントは呪いの推測を話す。言葉の響きにカミロ達は継ぐ言葉を見つけられない。
「君がいてそうなったんだ」
護衛失格じゃないか的な意味合いを込めた嫌味が軽い口調で届く。ケントは眉をしかめつつ、その嫌味を無視する。
「肉体と精神を退行させて攻略の難易度を上げるというものでしょう」
「でも、その割には攻略につまずいた様子はあまりなくないか」
フーゴが疑問を口にする。
「記憶がそのままあるからでしょう」
「弱体化なら記憶も失わせた方がそうなるんじゃない」
「そこまで都合よく弱体化はできないんでしょう」
ユリシーズには前回の攻略の記憶がしっかりと残っている。そのため、攻略に苦労を感じていない。
フーゴはふーん……と相づちを打ってから、目をすがめた。
「君はさあ、ユリシーズ君とそんなに長い付き合いってわけでもないんでしょ」
「私とこの方は出会って一年も経ってませんね」
「じゃあ、忠誠心なんてものはそもそもないわけだ」
「何をおっしゃりたいんで?」
フーゴの言葉にケントの声が冷たく重いものに変わる。
「忠誠心がないんなら、平気で危ない目にも合わせるよねって話だよ」
「下種の勘繰りはやめていただきたい」
カミロ達は唐突にぎすぎすしだした二人にどうすべきかもわからず肝を冷やす。
「おかしいと思ってるんだよ。君は赤茶の髪に茶色い目、見た目はどこにでもいる平民だけど所作がそれにしては少し洗練され過ぎている。それに読み書きも問題なくできるし、書物をたくさん読んだ経験を持ってることも言動からわかる」
フーゴはケントが前回のダンジョン探索でユリシーズ達とした会話から、彼がダンジョンに関する書物を好んで読んでいたことを知っていた。
「それに、その瞳。一見すればただの茶色だが、奥の方に緑がかった複雑な色が見える。その色は貴族的だ。なんだったらプラウドの貴族連中の中にそんな虹彩を持つものを見た覚えがある。君の所作も他国の作法よりも、プラウド的だ。つまり、何が言いたいかって言うと、君はプラウド出身でプラウドの貴族なんじゃないか」
フーゴはもったいぶらずに彼の考える疑問をそのままケントにぶつけた。
「つまり、私がプラウドの貴族と通じているからユリシーズ様に害意があると仰りたいんですか」
「そういうこと」
「私は確かにプラウド出身者ですが、貴族ではありません。ユリシーズ様に害意も持っていません」
「口では何とでも言えるさ。君自身が貴族じゃなくても、親はどうかまではわからない。だろ?」
「確かに親の出自なんてあちらでは聞かれてはいませんから、話してはいませんね」
「そうそう。なのに、君が彼の味方面して俺を責めてることが気に入らない」
「あなたが私の存在が気に入らないから、八つ当たりしたかったという風に聞こえますね」
「その通りだね!」
ハハハ! と笑い飛ばすフーゴの声を、ケントの冷たい視線を、それによって生み出される微妙な空気を、カミロ達は居心地悪い思いをして味わっていた。




