7 敵であり味方であり
「久しぶりーい」
フーゴはにこにこしながら気さくにケントに向かって手を振る。ケントは眉間にしわを寄せてそれに応えないが、フーゴは気にしない。
そしてフーゴの視線が下に向く。
「ねえ、やっぱりそうだよねえ! どう考えてもそうだよねえ!」
フーゴの目がわくわくと輝いている。にやにやとした口元が憎らしく、ユリシーズはジトっと見返す。
「どうしたのその姿!」
「うるさい」
聞かれても答えようがないのだ。ユリシーズもよくわかっていないのだから。
「かわいいなあ~~~。オレの子にならない?」
「怖い……」
フーゴはぱっと腕を広げてみせる。ユリシーズは思わずケントの足に隠れる。
「ねえ、なんかお困り? オレの力が必要? ねえねえねえ!」
「うるさい……」
圧の強さにゲンナリとさせられる。だが、渡りに船なのは確かだった。
なにより、街中で姿を見かけた時点でどこかでこうなる予感はしていたのだ。
ユリシーズは嫌な顔をしつつも、内心では安堵を覚えていた。フーゴの剣の腕が確かなことは実際に見て知っている。現状、戦闘の要をケント一人に任せてしまっているが、それがフーゴが加入することによりその負担を分散させることができるのだ。
ユリシーズはケントを見上げる。すごく嫌そうな顔をしている。割といつでも落ち着いている印象のケントが、これだけ露骨な反応をしている。性格の相性は良くはなさそう、と思わされる。その点、不安ではある。
フーゴと行動すればプラウドの状況も聞けるかなあ、と思うが、今はカミロとトニアと行動を共にしている。その状態で聞けるもんでもないだろうとも思う。
カミロは、なんだこの男はとひたすら困惑していた。
妙にきらきらしい容姿、同じくきらきらした甲冑。これが見た目だけの張りぼての甲冑ならば、勘違いした新人探索者でそういうのは見たことある。だが、その甲冑をよく見れば細かい傷があちこちにあって、使い込んでいるように見える。
もしや、歴戦の勇者……と思わされて、内心緊張している。上背もあり、体には厚みがある。大きい体はそれだけ鍛錬をした証拠である。
侮ってはいけない相手だと考える。だが、この男が見せる態度。
へらへらと気さくな話しぶり、偉ぶらない態度、それは平民にありがちなものだ。だが、この男の見た目に色合いはどう考えても貴族階級の者だ。印象がちぐはぐすぎる。
この男がユリシーズにぐいぐい迫っている。大きな体格の男が小さな子供に迫っているのは端で見ていて居た堪れない。
この子を守らねば! と使命感が湧いてくる。
カミロは当初からユリシーズに対して庇護欲を抱いていた。だが、共にダンジョンを探索していると、実際にはユリシーズの方が探索に慣れていて彼についていく感じになっている。見た目の幼さに反し、探索の確かさにこれはもしかしてと感じてはいる。庇護する必要もないと感じていたところに、この男が現れた。やはり守らねばと庇護欲が復活する。
「失礼。お嬢さん、私はフーゴと言います。探索のお供に加えてください」
「あら」
フーゴは唐突にトニアに対して紳士的な挨拶を繰り出す。そんなところもなんだかなあ、とカミロは警戒心を持った。
「ここが重くて開けられないんだ」
「よーし、任せなさい」
「一人じゃ無理だと思うなあー」
フーゴ一人で石扉を押してみる。わずかだが、確実に動く。その力強さに驚きつつ、全員で押していく。ゴゴゴ……と重そうな音を立てて石扉が動いていく。
「おお、開いた……」
「これ、後から来た一人に素直に頼めるかとかいう試練じゃない?」
「やだな、その試練……」




