6-3
ケントはユリシーズの護衛だから、絶対彼を守らなければいけない。
そして、成り行きから一緒に行動するとこになったカミロとトニア。彼らの面倒を見なければいけない理由はない。だが、ユリシーズが彼らのことを気にする限り、ケントが彼らを見捨てることはしない。
そうすると、ケントはユリシーズを守りながらカミロ達の世話まで負うことになる。
その様子を繰り返し見ていると、ユリシーズはさすがに申し訳ない気分になってきたのだ。
ダンジョンについて学びたいという自分の願いも我儘のようなもの……などと考えていると、気が落ちてしまう。
そうやってユリシーズは度々落ち込んでいた。
「どうしたの?」
「え、あ……」
トニアに声をかけられて顔を上げると、カミロが魔物の角をつかんで思案していた。
「それ、どうにかするの?」
「この角の部分が買い取ってくれるらしいんだ」
「じゃあ、さばこう。ついでに肉も切り分けようよ」
「え、さばくの」
「鹿肉は美味しいよねー」
ユリシーズは獲物の状態を確認する。腹側に傷はないので、消化器系の損傷はないだろう、食肉にできると判断する。
さて、洗浄はしたいがどうするか。水流のカップを使うか。
「これ、吊るしたいな。吊るすとこないかな」
吊るすところはなかったので、段差の傾斜を利用して頭を下にして放血する。
ところどころケントやカミロが手伝うが、ほとんどの作業をユリシーズが手際よくやった。内臓摘出、皮剥ぎ、分割までやる。
「結構時間かかっちゃった」
子供の体格でやるのは大分骨が折れた。だが、肉が手に入ったのでこの後の食糧の心配が減ったとユリシーズは大満足である。
「なんか。すごいですね……どうやって育てたんですか?」
「私が育てたわけではないので……」
ケントは問われても答えられない。
「これ、この階層だけが表示されてるはず……」
「ほぼ、全部見たよね?」
灯火の巻物で確認しながら歩き進めた。隈なく歩いたはずだが、地図上ではまだ行ける場所があると示されている。
「どっか隠し扉でもあるのかなー?」
ユリシーズは壁を探る。
「あっ! 動く!」
押した壁の一角が奥に向かって動いた。そのまま、押し続ける。
「とりあえずこれだけ開いた」
「狭……」
壁の石ブロックが二個分動かせた。大人の体格ではまず入れない。
「えー。行く価値ある?」
「何か白い点みたいなの見えるのよね……」
白い点はアイテム、黄色い点は罠だ。
「じゃあ、行ってみるね」
ユリシーズがその小さい体を生かして這いながらそこに入っていった。
「えー……一人で行かせて大丈夫?」
「うーん……」
カミロとトニアは顔を見合わせる。
「え⁉」
ケントが上着を脱ぎだした。それを見て、カミロがぎょっと目を見張る。
「ど、どうしたんですか?」
「肩を外す」
「肩を外す⁉」
平然と返された言葉に復唱する声がひっくり返る。
「なんでそこまで!」
「あの人を護衛するのが、自分の仕事だ」
「いや、でも、そんなことしたらまともに動けないし!」
「肩くらいすぐに戻せる」
「えええ~~でも、絶対やめた方がいいって」
「どうしたの?」
カミロと言い合っている間にユリシーズは戻ってきた。
「一応、こんなのがあったけど」
「カップとポーションか」
「わざわざ隠し部屋にあるからレアなものかと思ったら、そうでもない感じ? かな」
「えー……なんかがっかり」
ユリシーズ達が話している間にケントは身支度を整えて、しれっとしている。ユリシーズはどうしたんだと聞き逃してしまった。
「下の階層に行くにはこの向こうに行かなきゃなんだけど」
「完全に塞がってるよね」
下の階層に行くための道がない。灯火の巻物が示す地図は壁の向こうに出口らしき印を見せてくる。
「うーーん……もしかして、これ石扉?」
「扉と言われれば、それっぽくも見える……」
壁から少し離れてもう一度眺めてみた。壁の装飾がよく見れば扉のようである。
「えー、でもびくともしないし」
カミロが体当たりするように押してみるが、動かない。
「一人じゃ動かせないとか?」
全員で押してみる。
「動いた?」
「なんかちょっとだけ動いた気が」
床と石扉の境目を見れば、僅かに動いたようである。しかし、全員でがんばってこれだけしか動いていない。
「ええ……無理じゃない? これ」
「うーん。物理的に力が足りない」
進めない……と全員が消沈していると、背後から足音が聞こえてきた。
「あっ、誰か来た」
4人は後ろを振り返る。
「あ」
ユリシーズは思わず声を上げた。
「お! 久しぶり!」
気さくに声をかけてきたのは、きらきらしい容姿に甲冑の男。プラウドの庶子王子フーゴであった。




