5-2
「スライム!」
彼らの前に魔物が現れる。巻衣をまとった粘着生物だ。
「ここのはこういう感じなんだー」
「やはり弱点を隠してますね」
「でも、隠してるだけで結構バレバレだよなー」
ユリシーズとケントは既知の魔物に脅威を感じず、落ち着いて観察している。
対して、探索者コンビは慌てて対処に向けて構えを取る。
「ここは俺達が!」
「下がっててね!」
二人は幼いユリシーズをかばってか、前に立つ。二人は腰に下げていた剣を取る。
「カミロ!」
「おう!」
女探索者の呼びかけに男探索者が前に出る。男探索者カミロは大きく振りかぶった。
剣がスライムに当たる。スライムの体が大きく弾んで剣を包み込み、衝撃を受け流す。
「うわあ、効かねえ!」
「落ち着いて!」
「そうそう。そうなるんだよ」
剣での斬りつけに失敗してカミロが慌てる。それを女探索者が声をかける。その様子をユリシーズ達は後ろでゆったりと見ている。
「トニア! そっちに行ったときはよろしく!」
「大丈夫! 任せて!」
カミロが女探索者トニアへ声を出す。倒せなかった時の保険の意味での声掛けだろうか。
「せい!」
カミロがぶんと剣を振る。スライムがさっと避ける。
「とう!」
返す剣でさらにスライムに向かって斬りつけるが、これもさっと避けられた。ブルンブルンと揺れるスライムには表情はないが、余裕があるように見えた。
「何やってんの!」
「いや、なんかすっごい避けるから」
トニアの喝にカミロはもごもごと口答えをする。
「ケント」
「はい」
ユリシーズはケントを見上げる。ケントは言葉少なに、剣を取った。たっと軽い足取りで距離を詰める。スライムの前に立ち塞がると一気に刺し貫いた。
「こいつらは斬りつけるより刺す方が簡単に倒せるんだよ」
ユリシーズがカミロに言う。
「ほら、これ。ここがこいつらの弱点」
スライムの巻衣をはぎ取って、壊れた核を見せる。
「ここをかばってか、ここを中心として他の部分で攻撃してくるんだ。この部分は体の中で自由に移動させられるみたいだけど、どうしてもここが軸になるみたいなんだ。だから、動いてない中心を狙って刺すと倒せるよ」
「へ、へえ~~」
ユリシーズが滔々と解説を話す。カミロは戸惑いつつ、素直に聞く。
「教えてくれてありがとう。でもね」
トニアが腰を下ろしてユリシーズと目線を合わせながら話しかける。
「探索者同士のルールでは、命の危機がない限り人の戦闘に割り込んではいけないってものがあるの」
トニアが優しい口調でユリシーズに教える。
「そうなんだ……ごめんなさい」
「くあっ……!」
ユリシーズは素直に謝った。その申し訳なさそうな顔を真正面から見て、カミロは自分の胸を押さえる。
「ぜ、全然いいよお! 気にしないで!」
「これから気を付けるね」
「うんうん!」
カミロはデレデレと笑顔を向ける。そんな反応を見て、ケントは危ういものを感じる。
「アイテムゲットだ!」
スライムはアイテムを落とした。ユリシーズは意気揚々と拾って、はっとする。
「どーぞ」
「いやいや、倒したのは君たちの側だから、今回は」
差し出されたカミロは、ぶんぶんと手を振って固辞する。その顔がこれ以上ない笑顔で、ケントの危機感はさらに上がる。
「これ、なんだろう。カップ?」
手に入ったのは、頑丈な磁器製の杯だ。脚付きで側面には模様が描かれている。
「いいのが手に入ったねー」
「これで入場料の分は元とれたね」
カミロ、トニアがよかったねえとにこにこしている。
「俺達もがんばらないとなあ」
「何か一個は持って帰りたいね」
そんな彼らの言葉を聞いて、何を言ってるんだ? とユリシーズは思う。
「奥まで行かないの? 持って帰るのは一個二個でいいの?」
「おっ! 威勢がいいねー。護衛代の分まで稼ぐ気かな?」
「欲はかきすぎないようにね。命より高いものはないんだから」
怪訝に思ったユリシーズの言葉にカミロ達はまるで大口を叩いたかのような反応を返す。




