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二人は門番と話をして、ダンジョンの中へと入る。
「わあ……天井が高い……それに、明るい」
「この白い石が場内を明るく見せているんですかね」
ダンジョン全体が白い石で作られていて、なおかつほの明るい。
「どこから光が入ってんの?」
ユリシーズがきょろきょろと辺りを窺っていると、周囲にいた人と目が合った。くすりと笑われて、少し気まずい思いをする。
周囲には探索目的なのか、鎧姿や武器を携えた人が何人もいた。大きな斧を構えている人や、大剣を背負う者、かと思えば胸当てに短剣だけのものや、スコップを手にした者など、様々である。
「結構な人がここを探索しに来ているんだな」
「……これだけの人が探索をしてもまだ探索が終わらないものなのでしょうか。ダンジョンが成長するとは、ダンジョンの難易度が上がることだけではなく、ダンジョンが広がることをいうのでしょうか」
「うーーん……そんな、無限に広がるわけはないと思うんだけど」
「難易度が上がり、深層の探索が困難になる……それがダンジョンの成長だと私は思っているのですが」
「俺も、そんなとこだとは思う。ダンジョンは元々存在する場所がそれに変化したもの。ダンジョンに変化しやすいのは、やはり探索しづらいように朽ちた場所や忘れられた場所が相当だろう。だから、全体像が分かりづらいんだ」
入口から少し入ったところに、広い場所がある。その場所の奥に大きな立像があった。
女神か何かなのか、背には大きな鳥のような羽が飾られている。
「何か書いてあるな……お、読める」
立像の立っている台座に何か文章が書いてある。ユリシーズは近づいてその文章を読んだ。
『腕前を試す者、我に触れて運命を占え』
「これに触れって」
「なんの試練ですかね。罠の一種でしょうか」
「……罠かー。でも、こんな入口だもんなー。そんな大きな罠をしかけるかね」
「試されるのですか? 慎重になさいませ」
「触るだけだよ」
「何が出ても避けられるよう、構えは解かれませんよう」
ユリシーズは立像に手を伸ばす。
大きな立像に台座も高い。触れられるのは、精々像の足元だけだ。立像のサンダルを履いた足にユリシーズは触れた。
「わっ」
瞬間、どこからか噴き出した煙にユリシーズは包まれる。
「ユリシーズ様!」
ケントはユリシーズの姿を隠されてしまい、焦って声を出す。
その煙は、すぐに晴れた。
「ユリシーズさ……ま……?」
煙から現れたその姿に、ケントは戸惑う。
「えー……なんだった、の……」
ユリシーズは確かめようとして、己の身を見下ろした。そこにあったのは妙に小さな両手、短くなった脚。
「え⁉」
「ユリシーズ様、子供のお姿に……!」
二人が呆然としていると、背後から大勢の笑い声が響き渡った。
「あはははは! ひさしぶりに見た! それに引っかかるやつ!」
「最初はみんな引っかかってたけど、最近は中々見かけなかったよねー」
「かっわいそー。せっかく入ったのに、とんぼ返り!」
「入場料に解呪料もかかるのか。気の毒だな」
「探索できる資格はないってことだ。さっさと帰るんだな」
「あの姿になったってことは、つまり子供並の実力ってことでしょー」
聞こえてくるのは、ほとんどが嘲笑の言葉だ。
ユリシーズは悔しさに身を震わせる。そうしていると、笑い声は遠ざかっていった。その場に二人は取り残される。
「悔しい! 悔しい悔しい悔しい!」
だんだんと足を踏み鳴らすその様は、正に子供が駄々をこねている姿と同じだ。
「ユリシーズ様、戻りますか」
「戻らない!」
ケントの声掛けに、ユリシーズは猛然と反発する。
「戻らない! 試せというなら、試されてやる! この姿で、ダンジョンを攻略してやる!」
ユリシーズの宣言にケントは困り果てる。彼の瞳に固い意志の光が見えて、この意志を曲げるには長い説得も無意味だと思わせる。
それよりは、少しダンジョンを進めて見て、これは無理だと本人に思わせる方がよっぽど早いのではとケントは考えた。
「絶対に攻略してやるぞ! それであいつらに目にもの見せてくれる!」




