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3-3

「……こんにちは」

 扉を開けたとき、店内の静けさ、落ち着いた雰囲気から大声を出すことはためらわれた。

 店内は濃茶の木の壁に同色の棚が並んでいる。その棚に各種武器や防具、杖や装身具などがたくさん並んでいる。

「わー。これ、全部呪われてる道具なのか」

「値札を見ると、随分差がありますね。解呪済みとそうではないものでしょうか」

 二人でしばらく店の商品を眺めていた。


「お客さんかい?」

 背後から急に聞こえてきた第三者の声に、ユリシーズはびくんと身を跳ねさせる。

「驚かせたかねえ。ヒーヒッヒッヒ」

 魔女のような笑い方だ。ユリシーズはその笑い方が故郷の老婆たちがサービスでやってみせた時と同じように聞こえた。


 黒いローブで全身を覆った女性だ。年の頃はわからない。40より上だろうとは思うが、50代なのか60代なのかそれとも、老けて見えるだけでもしかして30代だったりするのか……女性の年齢などおいそれと聞けない。

 若い頃はさぞ美人だったのだろう。頭もローブのフードを被っているので、髪はローブから横に流している前髪が少し見えている程度だ。


「あなたがこちらの店主ですか」

「そうだよー。あんた、かわいいの連れてるねえ」

 店主の視線が一度下に向く。ユリシーズの足元には虎が収まっている。

「ええ。かわいいのだけが取り柄ですが」

「そんなこと言うもんじゃないよ」

 ユリシーズの軽口を店主がたしなめる。

「邪魔にならない上に、見目がよくて癒される。最高じゃないか」

 虎が尻尾を振って店主の足元をするりと一周した。愛想を振りまいているのか。


「ただかわいいだけでもいいじゃないか。私も、この子となんとなく一緒にいるよ。特に何の役に立つわけでもないけどね」

 店主が指さした先には、赤子の拳大の緑に光る石のようなものがあった。宝石か何かだと思っていたら、その石がわずかに動いていた。それで、その石のようなものが甲虫なのだとわかった。

「それ、普通の虫ではないですよね」

「だろうね。虫なんて短命なものだろうけど、この子はずっといるからね」


 ケントは話す二人を見ていて、二人が似たような腕輪をつけていることに気づいた。



「それで、ここには呪いを解きに来たのかい? それとも買い物かい?」

「えーと、ただの冷やかしです」

「正直だねえ。あんた」

 店主は今度は普通にアハハハハと笑った。


「これ、呪いがついたままで売ってるんですか?」

「そういう需要があるんだよ。相手を呪いたいとかさ」

「いいんですか、それ」

「道具は使い方だよ。道具自体が悪いなんてものはないさ」

「へえ……」

「それに、解呪の巻物があれば、解呪できるしね。私が解呪してあげなくても、自分で解呪の巻物を取ってこれる実力者はそれなりにいるのさ」

「なるほどー」

「おかげで、解呪屋なんてそんなに儲かりはしない。こうやって呪われた道具の売買が主な収入源だねえ」

「そうなんですか」

「解呪ができるって言ってるのに、信用されてないのかもね。なんでそんなことができるんだって」

「はあ……」

 そんな話をしていたら、店主がニヤッと笑った。


「だから、最初の一回はサービスしてあげよう。ほらよ」

 店主がポンとユリシーズの肩を叩く。ぽわっとわずかにユリシーズの体が光った。その時、店主の腕輪が光ったのをケントは見た。



「はい。一丁上がりっと」

「え……?」

 ユリシーズは自分の体を検分する。


「えっ? ちょっ! あああああ!」

 ユリシーズが叫ぶ。声がわずかに低く聞こえた。

「え? 戻ったんですか?」

「せっかく……せっかく、女の体になったのに……!」

「女性のままでいたかったんですか⁉」

「解呪完了だよー」

 店主はヒーヒッヒッヒと声高く笑った。


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