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「……こんにちは」
扉を開けたとき、店内の静けさ、落ち着いた雰囲気から大声を出すことはためらわれた。
店内は濃茶の木の壁に同色の棚が並んでいる。その棚に各種武器や防具、杖や装身具などがたくさん並んでいる。
「わー。これ、全部呪われてる道具なのか」
「値札を見ると、随分差がありますね。解呪済みとそうではないものでしょうか」
二人でしばらく店の商品を眺めていた。
「お客さんかい?」
背後から急に聞こえてきた第三者の声に、ユリシーズはびくんと身を跳ねさせる。
「驚かせたかねえ。ヒーヒッヒッヒ」
魔女のような笑い方だ。ユリシーズはその笑い方が故郷の老婆たちがサービスでやってみせた時と同じように聞こえた。
黒いローブで全身を覆った女性だ。年の頃はわからない。40より上だろうとは思うが、50代なのか60代なのかそれとも、老けて見えるだけでもしかして30代だったりするのか……女性の年齢などおいそれと聞けない。
若い頃はさぞ美人だったのだろう。頭もローブのフードを被っているので、髪はローブから横に流している前髪が少し見えている程度だ。
「あなたがこちらの店主ですか」
「そうだよー。あんた、かわいいの連れてるねえ」
店主の視線が一度下に向く。ユリシーズの足元には虎が収まっている。
「ええ。かわいいのだけが取り柄ですが」
「そんなこと言うもんじゃないよ」
ユリシーズの軽口を店主がたしなめる。
「邪魔にならない上に、見目がよくて癒される。最高じゃないか」
虎が尻尾を振って店主の足元をするりと一周した。愛想を振りまいているのか。
「ただかわいいだけでもいいじゃないか。私も、この子となんとなく一緒にいるよ。特に何の役に立つわけでもないけどね」
店主が指さした先には、赤子の拳大の緑に光る石のようなものがあった。宝石か何かだと思っていたら、その石がわずかに動いていた。それで、その石のようなものが甲虫なのだとわかった。
「それ、普通の虫ではないですよね」
「だろうね。虫なんて短命なものだろうけど、この子はずっといるからね」
ケントは話す二人を見ていて、二人が似たような腕輪をつけていることに気づいた。
「それで、ここには呪いを解きに来たのかい? それとも買い物かい?」
「えーと、ただの冷やかしです」
「正直だねえ。あんた」
店主は今度は普通にアハハハハと笑った。
「これ、呪いがついたままで売ってるんですか?」
「そういう需要があるんだよ。相手を呪いたいとかさ」
「いいんですか、それ」
「道具は使い方だよ。道具自体が悪いなんてものはないさ」
「へえ……」
「それに、解呪の巻物があれば、解呪できるしね。私が解呪してあげなくても、自分で解呪の巻物を取ってこれる実力者はそれなりにいるのさ」
「なるほどー」
「おかげで、解呪屋なんてそんなに儲かりはしない。こうやって呪われた道具の売買が主な収入源だねえ」
「そうなんですか」
「解呪ができるって言ってるのに、信用されてないのかもね。なんでそんなことができるんだって」
「はあ……」
そんな話をしていたら、店主がニヤッと笑った。
「だから、最初の一回はサービスしてあげよう。ほらよ」
店主がポンとユリシーズの肩を叩く。ぽわっとわずかにユリシーズの体が光った。その時、店主の腕輪が光ったのをケントは見た。
「はい。一丁上がりっと」
「え……?」
ユリシーズは自分の体を検分する。
「えっ? ちょっ! あああああ!」
ユリシーズが叫ぶ。声がわずかに低く聞こえた。
「え? 戻ったんですか?」
「せっかく……せっかく、女の体になったのに……!」
「女性のままでいたかったんですか⁉」
「解呪完了だよー」
店主はヒーヒッヒッヒと声高く笑った。




