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「さ! 今日はダンジョン運営がどうなってるかを見に行くぞ!」
「お元気ですねえ……」
朝、支度を終えて意気揚々と宣言していると、ケントが半ば呆れを見せながら言ってくる。彼の内心は一種の恐れを抱いていた。
「二日酔いとか、感じておられないんですか」
「酔ったことないんだって」
「そういう体質なんですか」
「父方の婆さんがそうだったらしいね」
「普段、そんなに飲まれませんよね?」
「たくさん飲んでも意味ないからねえ。お酒って酔うのが気持ちいいんでしょ? 俺はそういうの感じないからなあ」
ユリシーズにとって酒は水やお茶と変わりがない。美味しい味がする水だと思っている。
飲み過ぎると体を壊すらしいとも知っているので、普段はそんなに多くは飲まない。
「……ご存知だとは思いますが、お酒の飲み過ぎは健康を害する恐れがありますので」
「うん。だから、普段は飲まない」
「また、お酒は味が濃い分、何かを混ぜられる可能性もあります」
「まあねー。逆に不特定多数の人がいっぱいいるところだと混ぜ物仕込むのも難しいかなー。なんて思ったりもしたけど、確かに気を付けた方がいいよね」
「……一応、考えてはおられるんですね」
いまいち信用が足りてない、とユリシーズは思う。見た目から漂う頼りなさがそう思わせるんだろうと思っている。
「まずは、ダンジョンの入り口付近に行こうかなー」
考えを口に出して歩いていたユリシーズは、急にピタッと止まった。そして、ケントの背に隠れる。
「どうされましたか?」
「フーゴがいた」
「え」
ユリシーズの言葉に、ケントは目を動かして探す。人ごみの奥に、それらしい見た目の人物を見つけた。
「よく見つけられましたね」
「妙にキラキラした光が見えたんだよなあー」
フーゴの身に着けている鎧に一部宝石のような輝きの石がはまっている。その光をユリシーズは見つけたのだった。
二人はこそこそと身を隠しつつ、その場を離れる。
「こっちの路地は、なんか店が何件か並んでるな」
「ダンジョンへ行く前に装備を揃えたりするんでしょうね」
「やっぱ、そういう店とかいるよね。鍛冶屋とかもいるなあ……」
ユリシーズは店を眺めながら、メディナに足りないものを改めて認識していく。
「宿屋もいるよね。あと、飲食店もいるだろうし……」
「現状のメディナでそれを経営する人がいますか?」
「みんな基本は農民だしなあ~~。経営者ごとメディナに来てもらう必要が……」
ユリシーズは考えてみて、道のりの遠さに頭を抱える。人も足りない、建物も足りない、物資はどうする……考えればキリがないのだ。
「あ、何この店。呪いの剣……?」
立て看板に『呪いの剣あります』の文字が書いてある。
「呪いの剣を売ってるのか?」
「こっちは呪い解呪できますって書いてますねえ」
ケントは立て看板の反対側に回ってそこに書いてある文字を読む。
「ここ、解呪屋?」
「見つけましたね」
「ふ~~ん。まあ、覗いてみるか」
「なんでそんなノリなんですか」
ユリシーズはどこか斜に構えたような態度で、大して乗り気ではないような口ぶりだ。




