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2 ようこそダンジョン都市へ

『一夜にして消えた女


 その女ユリアンは大変に可憐な女だった。その女を見た男達は一目で彼女のとりこになった。

 男達は彼女に好かれようと酒と食事をふるまった。

 彼女は朗らかに笑いすべての酒と食事を平らげていった。

 やがて街の酒がすべて尽きた。男達はみんな彼女より先に酔いつぶれてしまった。

 気がつくと女は消えていた。それから先、彼女の姿を見ることはなかった。街中の酒と共に彼女は姿を消してしまった。』




「ちゃっかりついてきましたねえ。そいつ」

 ユリシーズ達はイプサ行きの荷馬車に乗せてもらった。彼らが目指すグーダル国は西はイプサと南はプラウドと隣接している。そのため、まずはイプサを目指す。

「お前は相棒だもんなー」

 ケントの指摘にユリシーズはよしよしと膝の上に乗っかっている子虎を撫でながら言う。子虎は背を撫でられたのを気にしているのかいないのか、目を瞑ってゆっくりと休んでいる。

 子虎はダンジョンを出て以来、ユリシーズの側をつかず離れずの距離で付き従っている。ユリシーズが寝るときなどは寝具に潜り込んできて一緒に寝ている。



「またお帰りの際はお声おかけ下さい」

「ありがとー」

 イプサに着いた。荷馬車の馭者に礼を言って別れる。

「とりあえず、あいさつしに行くかー」

 二人はイプサの領主館に向かう。


「よーっす。久しぶりー」

「久しぶりー……ってか、マジで変わってるのか?」

 イプサの惣領息子クルトとユリシーズは幼い頃から親しくしている。

「変わってるよ。ほら」

 ユリシーズはケープをめくる。

「……いや! 信じないぞ! ただの詰め物だろ! 俺をだまして笑う気だろ」

「え~~」

 クルトは怪訝な表情で見た後、ふんと腕を組んでそっぽを向く。

「じゃあ、触る?」

「いや、それはダメだろ」

「ダメです」

「ダメですわ」

 ユリシーズの不用意な発言にそれぞれが口々に否定の言葉を投げる。

「こいつ、自分の顔がいいってわかってるようでわかってないんだよな」

「まったくですわ」


 クルト、ケントと同じく否定の言葉を被せてきたのはクルトの婚約者ビルギットだ。

「ビルギット嬢も久しぶりー」

「お久しぶりですわ」

 ビルギットはイプサと隣接するプラウド内の領地の貴族の娘だ。彼の領地はこの度の建国騒動を知っているはずだが、沈黙を守っているしクルトとビルギットとの婚約関係を保ったままだ。そして、ビルギット嬢は自由にイプサを出入りしている。


「あの。このおかわいらしい獣様は一体なんという動物ですか?」

 ビルギット嬢の視線はユリシーズの足元を向いている。そこにいるのは子虎だ。

「多分、虎」

「いや、絶対違うでしょ」

 虎だと言ったユリシーズの言葉をクルトは即座に否定する。

「いや、虎だってー」

「虎にしては色が変だってー」

「白いのもいるって聞いたことある!」

「撫でてもよろしくて?」

 ユリシーズとクルトの言い合いはそっちのけでビルギットは子虎に触れたがる。

「危ないんじゃない?」

「大丈夫だよ」

「お前、これどこで拾ったの?」

「ダンジョンからついてきた」

「ダンジョン⁉ 絶対危ない!」

「わあああ~~! ふわふわですわ!」

 クルトが心配する中、ビルギットはためらいなく子虎を撫でる。

「女の人には大体すんなり撫でさせるんだよね」

「犬と一緒だな!」



 ようやく館の中に移動した。お茶をもらいながら、談笑する。

「ダンジョン探索かー。いいなぁ~。俺も行きたい」

「いいよー。今度一緒に行こー」

「安請け合いしないでくださいまし」

 呑気に発言するクルトとユリシーズをビルギットが諫める。三人は対等の距離感で忌憚なく話をする。ビルギットは貴族らしい貴族女性だが、クルトの影響を受けて砕けた態度にも慣れたものだ。


「グーダルはおもしろいとこだよー。市場に見たことない品物がいっぱいあって」

 クルトとビルギット嬢からグーダルの情報を聞く。

「あそこオリブン油が名産だから、揚げ物の露店もいっぱいあって。芋揚げたのとか、小麦粉練った奴を揚げて砂糖つけたのとか、美味いんだよ」

「へえ~。いいな、美味しそう」

「グーダルは石鹸もいいですわ! 絹みたいな泡での洗い上がりは最高ですわ!」

「石鹸かー。お土産に良さそう」

「お土産なら、ろうそくもおすすめですわ。花のような香りの物や、花弁を埋め込んで見た目に愛らしいものも贈り物に最適ですわ」

「いいねえ」

 グーダルに行ったことのある二人は具体的な話をしている。


「お前、街を歩くときは顔隠した方がいいよ」

「確かに、ユリシーズ様はお顔がよろしすぎますし、今は女性ならばお姿をお隠しした方が安心ですわ」

「えー。でも、そんなの怪しくない?」

「怪しくはないよ。グーダルの向こうの国が海に面してるだろ。その海の向こうには砂漠の国があるんだって。その砂漠の国は日差しが強いから、そこの民は大体男も女も足首まであるフードを被ってるんだ。で、砂漠の国の民はグーダルにも入り込んでるから、フードを被って歩いてても目立ちはしない」

「へえ。そうなんだ」

 砂漠の国の話はユリシーズにとっては初耳だった。砂漠の国、どんなところなんだろう。とユリシーズは思いを馳せる。


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