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「入れ」
ケントはイリアスに呼び出されていた。許しを得て部屋に入ると、イリアスが片手で頭を抱えつつ、何かを思い悩んでいる。
「騎士ケント、まかり越しました」
「ああ。かけて楽にしてくれ」
イリアスの言葉にケントは向かいの席に座る。そして、イリアスが話し出すのを待った。
「……あれを元に戻す方法をなんとか探したい」
「ユリシーズ様のことですね」
顔を上げたイリアスの目元には濃い隈が現れている。
「呪いかなんかなんだろうが、この国にある文献をすべてさらっても、解呪の方法なんか見つからない」
「はい」
「というか、そんなに大した文献もない」
「……そうですか」
ケントは何と返していいかわからず、相づちを打つ。焦燥がはっきりと目に見えるので、一層気の毒だ。
「この国の中で、あれの元に戻す方法を探ることは不可能だ」
「はい。確かに」
「あれはわざわざ他国のダンジョンに行くと言っている。そこであれについていって、護衛をしながら解呪の方法を探して欲しい」
「わかりました」
「……すごいあっさり了承するなあ」
「護衛は絶対必要ですよね」
解呪の方法が必ず見つかる保証はない。ケントの返事は解呪を約束したものではなかった。
「まあ、そうなんだよ。あいつの見た目で一人旅なんて絶対させられない」
イリアスは大きなため息を吐く。
「しかし、よく外に出されるご決断をされましたね」
「あいつが女になってから、気がおかしくなったような領民がちらほらいるのも問題なんだ。ここにずっと置いてても面倒ごとの気配が消えない……」
言いながらイリアスはまた頭を抱えだす。その苦悩の深さにケントは他人事ながら心底同情した。
「気を付けて行くんだよお」
「他所では生水飲んじゃいけないよ」
「お腹は冷やさないでね」
旅支度をした姿で立っていると、老婦達が集まってきて涙をこらえながら口々にユリシーズを気遣っている。
「ユリシーズ様ぁ!」
「しっしっ!」
「かーっっ!」
近づいてこようとした男達を老婦達が追い払う。
「ユリシーズ」
「ドロシー」
ドロシーが見送りにと声をかけてくる。その後ろに女達がいるが、彼女達は特に声をかけてこない。
「そんな嫌われてたかな」
「嫌ってはないわよ」
ドロシーが苦笑する。
「私に危ないことするなって言うんなら、自分でも気をつけてよね」
「うん」
「ちゃんと怪我しないで帰ってくるのよ」
「わかったよ」
「……元気で」
「うん」
ドロシーは軽くハグをした。ユリシーズもそれに応える。
「ユリシーズ様、弓と革鎧だよ」
「ありがとう」
村人から、新しくした弓と革鎧を受け取る。
「向こうでいいのがあったら、それに変えなよ」
ユリシーズはうんうんと適当にうなずく。
「ああ~~。もっと人手があればぁーー」
イリアスは頭を抱えて嘆いている。バルドーはそれを見て、バシンと彼の背を叩いた。
ユリシーズの護衛につくのはケント一人。せめてもう一人とイリアスは悩んでいる。
「どうにもならなそうだったら、向こうで誰か雇います」
「お、おお……」
ケントの言葉にイリアスは渋々うなずく。
「じゃあ、行ってきます!」
ユリシーズは快活に手を上げて振り、旅立っていった。




