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1-2

「入れ」

 ケントはイリアスに呼び出されていた。許しを得て部屋に入ると、イリアスが片手で頭を抱えつつ、何かを思い悩んでいる。

「騎士ケント、まかり越しました」

「ああ。かけて楽にしてくれ」

 イリアスの言葉にケントは向かいの席に座る。そして、イリアスが話し出すのを待った。


「……あれを元に戻す方法をなんとか探したい」

「ユリシーズ様のことですね」

 顔を上げたイリアスの目元には濃い隈が現れている。

「呪いかなんかなんだろうが、この国にある文献をすべてさらっても、解呪の方法なんか見つからない」

「はい」

「というか、そんなに大した文献もない」

「……そうですか」

 ケントは何と返していいかわからず、相づちを打つ。焦燥がはっきりと目に見えるので、一層気の毒だ。


「この国の中で、あれの元に戻す方法を探ることは不可能だ」

「はい。確かに」

「あれはわざわざ他国のダンジョンに行くと言っている。そこであれについていって、護衛をしながら解呪の方法を探して欲しい」

「わかりました」

「……すごいあっさり了承するなあ」

「護衛は絶対必要ですよね」

 解呪の方法が必ず見つかる保証はない。ケントの返事は解呪を約束したものではなかった。

「まあ、そうなんだよ。あいつの見た目で一人旅なんて絶対させられない」

 イリアスは大きなため息を吐く。


「しかし、よく外に出されるご決断をされましたね」

「あいつが女になってから、気がおかしくなったような領民がちらほらいるのも問題なんだ。ここにずっと置いてても面倒ごとの気配が消えない……」

 言いながらイリアスはまた頭を抱えだす。その苦悩の深さにケントは他人事ながら心底同情した。



「気を付けて行くんだよお」

「他所では生水飲んじゃいけないよ」

「お腹は冷やさないでね」

 旅支度をした姿で立っていると、老婦達が集まってきて涙をこらえながら口々にユリシーズを気遣っている。


「ユリシーズ様ぁ!」

「しっしっ!」

「かーっっ!」

 近づいてこようとした男達を老婦達が追い払う。


「ユリシーズ」

「ドロシー」

 ドロシーが見送りにと声をかけてくる。その後ろに女達がいるが、彼女達は特に声をかけてこない。

「そんな嫌われてたかな」

「嫌ってはないわよ」

 ドロシーが苦笑する。

「私に危ないことするなって言うんなら、自分でも気をつけてよね」

「うん」

「ちゃんと怪我しないで帰ってくるのよ」

「わかったよ」

「……元気で」

「うん」

 ドロシーは軽くハグをした。ユリシーズもそれに応える。


「ユリシーズ様、弓と革鎧だよ」

「ありがとう」

 村人から、新しくした弓と革鎧を受け取る。

「向こうでいいのがあったら、それに変えなよ」

 ユリシーズはうんうんと適当にうなずく。


「ああ~~。もっと人手があればぁーー」

 イリアスは頭を抱えて嘆いている。バルドーはそれを見て、バシンと彼の背を叩いた。

 ユリシーズの護衛につくのはケント一人。せめてもう一人とイリアスは悩んでいる。

「どうにもならなそうだったら、向こうで誰か雇います」

「お、おお……」

 ケントの言葉にイリアスは渋々うなずく。


「じゃあ、行ってきます!」

 ユリシーズは快活に手を上げて振り、旅立っていった。


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