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13-4

「ドロシー……」

「ちょっと待って」

 ユリシーズはこみ上げる切なさと愛しさに、胸がつぶれる思いだった。それをごまかすようにドロシーをきつく抱きしめたが、ドロシーがそのユリシーズの体を押し返して身を放してきた。


「なんで女の子になってるの? なんか柔らかいんだけど」

 ドロシーの指摘になんのことだと首をひねる。自分の体を確認した。


「……本当だー」

「何落ち着いてんの⁉ 大変でしょ!」

 半ば呆然と呟くユリシーズに対し、ドロシーは声を大きくする。ユリシーズの足元にいた虎はうるさいと思ったのか、少し離れた。


「……う、おおおお俺と! 結婚してくれ!」

「しねえよ!」

「ぎゃうぎゃうぎゃう!」

 フーゴが目の色を変えて駆け寄って来るなり求婚してきた。ユリシーズはそれを一蹴する。勢いよく走ってきたフーゴを警戒してか、虎が尻尾を膨らませながら鳴き喚く。


「んだ、お前! 今、俺が彼女に告白してたのに、なんでこのタイミングで求婚してくんだ、馬鹿野郎!」

 ユリシーズは告白を台無しにされて辛辣に言い捨てる。


 なんだか何もかもグダグダになった。一行は一度引き返すことにした。フーゴをモーリスが拘束し、ケントを間に挟んでユリシーズと距離を取らせる。


「城が全部つながってる」

「どういうわけかそうなんですよ」

「急にこうなったのよね」

「……迷宮化してないってこと?」

「魔物は変わらず出るんですが」

 疑問は残るが、帰還がだいぶ楽になったのだった。


「おお。戻ってこれた」

 一行は何事もなくダンジョンの入り口まで無事に戻ってこれたのだった。

「その魔物……連れ帰るんですか?」

「この子、全然こっちを攻撃してこないんだ」

「いや、俺のことは牙向いて警戒してたよね?」

 フーゴの言うことは黙殺された。

「わあ……この子凄い撫でさせてくれる」

 ドロシーが虎の喉元を指でくすぐるように動かし、首周りを撫でまわす。虎は気持ちいいのか目を瞑って受け入れている。

「おとなしいよね、こいつ。牙とかはしっかりあるんだけど」

「害がないならいいんですけど」

 ケントが疑いを込めて顔を覗き込んだ。私は人なんて襲いませんけど? などと言いそうな顔をしているように見えた。ケントはこの魔物大分知能が高いのではと感じた。




「なんで、そうなるんだよ!」

 帰還の報告を受けて、イリアスは声を上げる。さらわれたと思った従弟が無事に帰ってきたと思ったら、なぜか女の子になっていた。事実を確認しても、受け止め切れない。


「だから、俺は将来の王にはなれないと思うんだよね」

「はあ~~そりゃそうだろ……」

 王じゃなくて女王になってしまう。などと思っていると、従弟がとんでもないことを言い出す。

「だから、将来の王はイリアスが成ればいいんだよ」

「はあ~~~~?」

 何を言ってるんだこいつは、と思っていると横で聞いていたイリアスの兄バルドーが「おお!」と手を叩いて納得する。

「いいじゃないか、それ」

「だろ?」

「いやいやいや、よくない!」

 兄と従弟が共謀して人に面倒を押し付けようとしている。二人して似たような悪い笑顔をしているのに、イリアスは嫌な予感が止まらない。

 ここでこの二人が好き勝手なことを言っていても実現しないとは思うが、このままユリシーズが元に戻らないと本当に押し付けられかねないと感じていた。



「お前、今後どうするつもりなの?」

 イリアスはユリシーズに問う。いきなり性別が変わってどう生きていくつもりなのか、それを聞きたかった。

「う~~ん。ダンジョン、あれまだまだ探索すべき場所一杯あるんだよね。どうにか管理しなきゃいけないと思うんだ」

「おう」

「でも、そのノウハウが今この国にはない。だから、ダンジョンを管理してるところに旅に出て見てこようかと思う」

「え~~危ないんじゃない」

「女の旅はやっぱ危険か?」

「いや! お前、見た目の印象まっっっっっっっっったく変わってないからな!」

「ええ~~~~~」

 イリアスの目から見て、ユリシーズの性別が変わろうが旅に出て危険な目に遭う確率は変わってない。

 イリアスが今後に頭を抱える一方、ユリシーズは妙に晴れ晴れとした顔をしていたのだった。




一章『愚者ユリシーズ』の章、完

二章予告


 女になってしまったユリシーズ。そのことを本人はまったく気にしていない。ダンジョンに原因があると見たイリアスは、ダンジョン都市への旅でその解決策を見つけるよう護衛についていくケントに依頼。

 果たしてユリシーズは元に戻ることができるのだろうか。そして、メディナの今後のダンジョン運営はどうなるのか。隣国プラウドを刺激しないで国の運営はやっていけるのか。

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