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13-3

 何か変幻自在に使える術……


 ユリシーズはぼんやりとそんなことを考えたまでは覚えていたが、その辺で意識を保てなくなった。



「あっ! あそこ!」

「ユリシーズ様!」

「なんだ⁉ 獣⁉」

 ドロシー達は城から出たところで遠目にユリシーズを見つけた。小岩にもたれているのかと思っていたが、駆け寄る途中でそれが生物だとわかった。


 ユリシーズは大きな生物にもたれかかって寝ている。生物は彼を包むように体を丸めて寝ていた。


「ユリシーズ!」

 ドロシーは駆け寄りながら声を出した。そこにいて大丈夫なのか、不安に思う。しかし、声を出したことで獣を刺激してしまうのではとの不安もあった。


 声と気配に気づいてか、獣が目を覚ました。獣の動向を警戒して、一同が足を止める。

 獣はおとなしく、こちらを見た。くあっと大きなあくびを一つすると、ちらりと背中を気にしながら控えめに伸びをする。

 伸びた状態から体を元に戻したところから、獣の体がぐんぐんと縮みだした。

「え……⁉」

 どういうこと? とドロシーは様子を見守る。


 縮んでいった獣はすっかり子供の姿になった。体をもたれさせていたユリシーズは獣が縮むのに合わせて仰向けになった。獣はユリシーズの首の後ろで小さな体をよじよじと動かして、その場から脱出する。

「え、かわいい……」

 小さな姿を目にして、ドロシーは思わず声が出た。


「ぎゃう」

 獣は一声、ドロシー達に向けて鳴いた。その後、前足でびたんびたんとユリシーズの顔をたたく。

「んん、何……?」

 ユリシーズが顔をしかめながら声を出す。


「ぎゃう!」

「ん?」

 ユリシーズが目を開けた。視界に映るのは、子虎の姿だ。

「ええー。どうしたの、また小さくなってー。せっかくかっこよくなってたのに―」

 ユリシーズは身を起こしながら、子虎を抱えて彼の頭を撫でた。子虎が身を乗り出してべろべろとユリシーズの顔を舐める。

「うわあ、さっきよりましだけどやっぱりザリザリしてんね、お前の舌……」

 ユリシーズは苦笑する。ある程度受け入れたが、痛くなってきたので手で防御する。


「ユリ!」

 声をかけられて、ユリシーズはハッとし、そちらを見た。

「ドロシー……」

 ユリシーズの視線の先には彼がはぐれた仲間たちがいた。



「ユリ……大丈夫だったの? なんかボロボロになってない?」

 ユリシーズの体に傷は残っていなかったが、身に着けている革鎧や服はすっかりくたびれた見た目になっていた。

「まあ、なんとか……」

 実際にやったことを正直に告白すると、絶対に怒られるだろうなあと思い、ユリシーズは言葉を濁す。

「ユリシーズ……」

 ドロシーの目に涙が溜まるのを見て、絶対に言えないと改めて思う。そして、再会できた喜びがじわじわと溢れてきた。



「ドロシー!」

 ユリシーズは思わず大きな声が出て自分でも驚く。ドロシーも目を見張る。

 ちょっと外したかなと思いつつ、いやここで止まるなと思い切る。

 彼女の肩をつかんで正面から見据えた。


「ドロシー。建国の祝賀では暴言を吐いてごめん」

 まずは謝る。何度思い返してもあれはひどい、と自省する気持ちは常にあった。

「うん、いいよ」

「怒ってないの?」

「うん。だって、あの時からすでに仲直りしたそうな顔してたもん」

 ドロシーの言葉に、ユリシーズはうっと声を詰まらせる。

「私、ユリシーズの仲直りしたそうな顔、結構好きなのよね」

「……」

 ドロシーのその言葉に、最初からユリシーズの怒りや思惑が通用していなかったと知る。もしかして、周囲の人間も そういう目で見ていたのだとしたら、あの何もかもぶち壊すぞと意気込んでいた焦燥感は何だったのかという気分になる。


 だが、もう時間は戻せないのだ。後始末は戻ってからしなければならない。


 いろいろ画策とかしないで、素直に王になりたくない、なる自信がないと言えばよかったのでは……


 上手くいく行かないは気にしないでそうしようとユリシーズは決める。

 とりあえず今は彼女に対して言いたかったことを言ってしまおう、と気合を入れる。せっかく命拾いしたのだから、ためらっていられない、と。


「ドロシー。知ってると思うけど、俺は君が好きだ。弟みたいにしか思われてないけど、俺は君のことを一人の女性として思っている」

 じっとドロシーの顔を見続けることに耐えられなくなった。ユリシーズはドロシーをぎゅっと抱きしめる。

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