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13-2

 焼けただれた肌は見るのも辛かった。

「よくちぎれなかったな……」

 とっておいてよかった、と思いながらポーションを取り出す。痛くて、一つ一つの動作が辛い。

「あっ……」

 ポーションの蓋を取ろうとして、上手くひねることができずに取り落とす。

「ああ~~……」

 ポーションは地面に落ち、中身がこぼれた。それを焦るでもなくただ嘆く。ユリシーズはもう大きく動揺するだけの気力が残っていなかった。


「グアウ」

 虎が近づいてきた。その呼びかける鳴き声が非難の声に聞こえた。

「うん。無茶したから怒ってるんだよな」

 わかるよ、とユリシーズはうなずく。虎が地面にこぼれたポーションを舐めた。ああ、お前も痛かったもんなとユリシーズはそれを見ていた。


 ベロ、と虎がユリシーズの手を舐めた。

「うわ。お前の舌ザリザリ……」

 虎の舌は猫のそれより大分攻撃力が高かった。肉食獣の舌は肉を骨からこそげるための舌だ。

「あれ」

 舐められた手はより一層傷んだのではと見たが、肌はむしろ火傷がマシになっている。

「ああ。お前、塗ってくれたのか」

 ユリシーズは手を開いたり閉じたりして、動きを確認する。さっきよりも満足に動かせるようになった。改めて、ポーションを拾い上げる。


 ユリシーズは手に少し出して虎に差し出した。

「……飲まないの?」

 虎はふい、と首を横にそむける。そうしている間に、手にポーションが吸収されていっている。

「んん、もったいない……」

 ユリシーズは手に残ったポーションを肌に塗った。やはり、塗った場所の皮膚が滑らかになり、治っているのがわかる。

 残ったポーションを飲む。

「ああー……」

 ふわっと体が軽くなった感覚を覚える。身の内から傷が癒えていってるのを体感した。


 グルル……と虎の喉の音が聞こえた。虎が体をユリシーズの背側に横たえた。ユリシーズにぴったりと体を添える。

「えー? もたれていいの?」

「グル」

「お前の体、あったかいね」

 ユリシーズが虎の背に身を預ける。虎の体温の温かさに癒しを感じて、ふうと息を吐く。

「ちょっと寝ようかな……」

 頭がぼんやりする。なんとなく寒気を感じるのは、傷を癒すために血を消費したのだろうか。

 そっと目を閉じたが、妙な気配と光を感じて目を開けた。


「何? まぶしい……」

 目を開けると、上から白い輝く花が降りてきていた。

「ええ……寝たいんだけど……」

 その白い花はきらきらと花弁が輝いて見えた。花弁の多さからバラかと思ったが、バラにしては素朴な見た目をしている。

 危害を加えてきそうではない。だが、ユリシーズはとにかく寝たかったので、ただ煩わしかった。

 ユリシーズは花に手を伸ばした。


 カッと花弁の光が強くなる。

「うわっ」

 強すぎる光に目が開けていられない。


 ――願いを。


 頭の中にそんな声が聞こえた気がした。声? 声というより思念か。


 願い? 急に言われても、思いつかないとユリシーズは考える。ダンジョンを探索しながら、何度か考えたりはした。だが、答えは出なかった。

 ユリシーズの願いは一つではないのだ。


 プラウドに攻められたくない、戦争はしたくない、メディナの人々には笑っていて欲しい、できてしまったダンジョンを制御したい、ドロシーと結ばれたいし、男性への恐怖心はなくしたい。


 メディナを防御する力をもらうべきか、しっかりと戦えるだけの攻撃力を得るべきか。できてしまったダンジョンを制御するには一体どんな力が必要なのか。

 ドロシーの心を射止めるのは己の魅力次第の話で、それを求めるのはどうにも情けない気持ちになる。男性への恐怖心の克服も、それを願うのは同じく情けない気分が湧いてくる。


 これといったものが思いつかないのだ。もう勝手に己の心情を察して、ちょうどいい何かを叶えてくれないかなとすら思う。


 こう……なんでも叶えられるような万能な力があればちょうどいいのだ。それを願うのは欲が深いな、と自分でも思っているのだ。だから、悩んでいる。

 困ったことがあれば使い方次第で万能に対応できるような、そんな力があれば……

 打ち消しても打ち消しても、そんな考えが消えない。


 答えが出ない。己はやはり欲が深いと思わされる。


 これといった願いがどうしても決められないんだ。もう、勝手に叶えてくれと捨て鉢な気分になる。



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