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12-4

「全然効いてない!」

 ユリシーズは騎士の槍の攻撃を必死に避けている。槍の攻撃はまったく当たっていないのだが、当たれば死ぬと思っているので必死に逃げ回っている。

 先ほどの爆風の呪文の攻撃は、あまり効果がなかったようだ。騎士は平然と槍を揮っている。

 どうすればいいんだ。ユリシーズは逃げながら途方に暮れる。将を射んとすればという定番の文言を思い出す。

「一時停止の杖!」

 ダメもとでと思いながら馬に向かって杖を振る。馬がびたっと足を止めた。騎士が馬上で戸惑っているように見えた。


「効いた!」

 ユリシーズは活路を見出した気になった。火魔法の杖を振る。脳裏にあの馬に乗せてもらった時の記憶が蘇るが、歯を食いしばって繰り返し杖を振り続けた。

 騎士が止まっている馬の上から攻撃を出そうと槍を振りかぶる。

「雷よ、わが敵に鉄槌を下せ。降れ、迅雷!」

 騎士も馬も丸ごと攻撃するべく、巻物の呪文を繰り出す。雷が騎士の槍に落ち、閃光が騎士と馬を包む。


 騎士の動きが止まった。衝撃に耐えているように見えた。これはいけるぞ、と迅雷の巻物をさらに用意する。

「雷よ、わが敵に鉄槌を下せ。降れ、迅雷! 雷よ、わが敵に鉄槌を下せ。降れ、迅雷! 雷よ、わが敵に鉄槌を下せ。降れ、迅雷!」

 立て続けに三枚読んだ。そうこうしている内に、馬は倒れた。騎士の立派だった鎧がすっかり煤けている。そんな焦げた見た目で、騎士は悠然と歩いてきた。


 これ、効いてないんじゃなくて、耐えてるんだ……。

 ユリシーズは騎士の耐久力と迫力に戦慄する。だが、ならば使えるはずだと思い直し爆風の巻物も使うことにする。


 巻物を広げようとしたとき、騎士が猛然と突っ込んできた。とっさに剣を構えて振り下ろされた槍を受け止める。

「ぐっ……」

 重い衝撃。受け止め切れずにユリシーズは体ごと後ろに飛ばされる。受け身もとれず、固い地面に体が叩き付けられる。そのまま二転三転と体が弾む。しばらく、息もできず、ただ痛みに耐えた。手はじんじんとしびれている。


 ユリシーズは動けない。五体が無事であることを不思議に思うくらいだ。起き上がらなければ。次の攻撃に備えなければ。考えるが体は動いてくれない。

 騎士の攻撃を食らうことを覚悟した。だが、追撃が来ない。

 見れば、騎士の兜の下、髭の口元が笑っている。


 それはこちらを完全に格下だと見ている余裕の表情だった。どうすればいいんだ、と思うと同時にどうにかしなければ、と思う。

「猛き風よ、わが敵を打ち払い給え。唸れ、爆風!」

 爆風に耐えながら、騎士の口元はまだ笑っていた。そして、爆風の中、槍を構えて足を進めてくる。爆風に阻まれながらもじりじりと近寄ってくる騎士の存在にユリシーズは恐怖した。



 この手は使いたくない。ユリシーズはひとつ、手が浮かんだが、それを使うことにためらいがあった。

『周囲の敵を焼き払え。巻き起これ、爆熱』

 あの読み上げることのできない爆熱の巻物だ。


 使いたくない、と思いつつ鞄を探る。そうこうしている内に、騎士が爆風の中を抜けた。また槍が振り下ろされる。今度は構えるのも間に合わず、ユリシーズはまともに槍を食らった。

 またユリシーズの体は吹き飛ばされる。悲鳴すら出ない。バクバクと心臓の激しい鼓動がすぐ耳の近くで聞こえるような感覚があった。


 騎士がゆったりと槍を構えた。振り下ろされるのを、ユリシーズは動くこともできずにただ見ていた。

「グアアアアウウウ!」

 割って入ったのは獣の咆哮。そして、大きな白い体躯がユリシーズの視界を埋める。白金の毛並みに黄色い縞模様。その組み合わせで思い浮かぶのはあの子虎。だが、この大きな体は一体なんなのか。


「グアアアア!」

 大きな獣は騎士に向かって行った。


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