12-2
魔物が消えた後は、例の上にも下にも行ける階段が玉座の横の壁に現れた。その反対側の壁にもう一つ出口があるのを見つける。
「あ、こっちにも行ける?」
その玉座の横の壁の出口を開けて見れば、奥はまだ続いている。ここは謁見者を向かえる側の王族達が出入りするための扉だ。
どうするかとユリシーズは悩む。先に進みたい気持ちもあるが、なるべくダンジョンをくまなく見て回りたい。
ユリシーズは階段ではなく、奥の扉の方へと足を進めた。
「あ、まだ下に行ける」
ダンジョンが作った空間同士をつなぐための階段ではなく、ごく普通の階段だ。この階段は降りても消えないのではと予想をつけながら歩を進める。
予想通り、階段を降り切ってその先を歩いても階段は消えなかった。これは建物本来に備え付けられた階段なのだろう。
「城の地下か」
留置場や牢屋、それに保管庫などが地下にある。広さの割りに現れる魔物の数は少ない。魔物の強さは一階と同程度だろうか。
何か変わったものが見つけられるのでは、と期待したがなにもなさそうだと途中で思うようになった。
敵の数が少ないとそれだけ重要度も低いと思わされる。
「行き止まりだ」
地下は排水のためか水路が流れている。その水路を遮るように柵がつけられていて、先には進めない。だが、柵さえ外してしまえばその水路を辿ってどこかに出られそうな気はした。
このダンジョンはまだ奥がある。いくらでも探索できる場所はあると感じた。
元来た道を戻る。戻りながら考える。なぜ城の復活をするのにダンジョン化したのか。悪魔がダンジョンを作りたいという希望はあったとしてもだ。
城は、一度崩壊している。そして地下に埋まった。
森の中にあったあの断裂が残る塔。あれは、この城の一部だったものだ。
城全体が崩壊した中で唯一残ったのがあの塔だ。崩壊の原因は地震などの天災だろうか。塔以外跡形もなくなるほど崩れ去ったので、当時の人々は埋めるしかなかったのだろうか。それとも、人が城を放棄した結果、自然に任せる内に埋まったのだろうか。
こんな大きさの城だ。完全崩壊したとあっては、再建する気力も湧かないだろう。それに、地震の脅威を感じているところに同じ場所に同じ城を建てるには勇気がいるだろう。地震で崩壊しない城を作るだけの技術がなければそれはできない。
城をダンジョン化すれば、城の修復の手間がなくなるのだ。
ダンジョンは自動で修復をする。壁が魔法や魔物の攻撃で崩壊しても、次の瞬間にはそれを直していく。
城を永続的に存在させようと願ったのならば、城をダンジョンにするというのは、理にかなっているのではないか。
ただ、地上に余計な影響を与えてしまっているのが、大問題なのだが。
再び、謁見の間に戻ってきた。上下に伸びる階段は変わらずそこにあった。消えていたらもう一度あの赤子と戦うのかと身構えていたので、そのままあったことに安堵する。赤子を何度も倒すのは精神が滅入りそうだ。
「まあ、下だよな」
向かう先を決めて、階段を歩いていく。
階段を降りた先は広々としていた。ここは城のエントランスか。中央に小さな噴水の飾りがあった。その噴水から出た水が左右に流れていっている。振り返れば、二階に行けるような装飾性の高い階段があるが、その先の二階が途切れている。
扉が最初から開いている。外に行けと言うのか。他に行き先もないので、それしかないのだ。
外に出た先には広大な庭が広がっていた。ユリシーズはつい、うへ……とため息をつきたくなる。
庭に区切りはあるのか。すべてつながっているのなら、庭の探索だけで結構な時間を食いそうだ。そして、庭のまだ先。庭の奥に大きな門が見えている。あの向こうがあるのか。城の外側、そこも探索できるのか。地形の段差のせいか、街並みらしきものは薄っすら見えているのだ。
そして、街のさらに奥。城の向かいにある山肌に洞窟のようなものが見えている。あれは廃鉱ではないか。
これらすべてがダンジョンだとすると、探索がいつまでも終わりそうにない。どこかで絶対に引き返したい。




