12 避けられない戦い
「あー。無理か、これ」
首なし騎士に周囲を完全に囲まれた。どう動くかを慎重に考えるが、そうこうしている間にじりじりと距離が詰められていく。
場所替えの杖はある。使えるのはあと一回ぐらいか。振って一回、投げつけて一回の計二回。無駄打ちはしたくない。
爆風の巻物はある。しかし、こんな通路で使うのも、とためらう気持ちがある。火魔法の杖は首なし騎士を一撃では倒せない。首なし騎士に有効なのは、物理的な破壊力のある攻撃だ。
剛力、鉄壁、天恵それに盾や防具を強化する地恵の巻物、それぞれ所持しているが、すべてを読む暇はないし、それらをここで使い切ってしまうのももったいない。
いや、こんなところで物を惜しんで命を落とす方がもったいない。しかし、じゃあどれを使うのかという問題がある。読めて二枚。
「ぎゃあああううう!」
迷っていると、子虎が隙間を縫ってユリシーズの足元に走り寄ってきた。かばうように前に出て、威嚇をする。
「お前」
ユリシーズは子虎の行動で腹を決めた。
「おいで」
子虎を抱き上げる。そして、近くにあった落とし穴の罠を踏んだ。
「……いって~」
落下の衝撃を受けて体に痛みはあるが、大怪我はしていない。落とし穴の下に何もなくて本当に良かったと心から思う。
「ぎゃう~?」
「ん。君も無事だな」
よしよしと子虎を撫でる。ユリシーズは子虎が彼をかばってくれたのが妙に嬉しかった。こちらが何かをしたわけでもないのに、己を愛してくれる存在というのは得難いと思うのだ。
無償の愛が欲しいなんて子供みたいだ。思うが、湧き上がる気持ちは止められない。
ユリシーズにとって家族以外で無償の愛をもらえ、且つ与えられる相手がドロシーだった。だが、ドロシーには家族と言われてしまったが。
ふられてんだよ、もうすでに。だが、ユリシーズは彼女を諦められない。
ユリシーズ自身の願いとして彼女の愛を望むのか。だが、それもまた違う気がする。
重厚な雰囲気の扉が出てきた。その大きな扉が城にとって重要な場所だと示している。と同時にこれがボス部屋だろうと予測がつく。
これはあの手が使えてしまうのでは、とあの巻物を用意する。
扉を開ける。広い空間だ。奥に大きな椅子がある。その椅子に向かってじゅうたんが敷かれている。あれは玉座だ。ここは王と謁見するための部屋だ。
玉座の上に、巨大な顔が降りてくる。泣いている赤子の顔だ。
これはもしかしてこの城を治めていた王族が戦う相手に設定されているのだろうか。かつてこの城の主だった人達をダンジョンの挑戦者達が破っていくのだと。
思うところはあるが、当初の予定通りユリシーズは広げた巻物を読んだ。
「魔の物よ、我がもとに集え、降魔襲来!」
赤子の顔は消えていき、無数の魔物が現れる。だが、現れた魔物はすぐに消えていく。
この出現した魔物が消えていくという現象は、この部屋のボスが倒されたからだろう。つまりボスを守るために出てくる他の魔物を倒し切らなくても、先にボスに設定されている魔物を倒せば他の魔物は消えてくれるのだ。
「ちょっとどうかと思うな。この仕組み」
道中の方が苦労したとユリシーズは思う。
「あ、これ……ポーションだ!」
どんな傷でもたちどころに治すという奇跡の液薬だ。ここまで全く手に入らなかったものがようやく手にすることができた。
早速使うか? とかんがえて、やはりと思いとどまる。これが手に入ったということは、この先で怪我をするのではとの予測がつく。
城を上から見ていってここが城の一階部分だ。これ以上探索が続くのだろうかと思うのだが、ここは温存しておこうと判断する。




