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11-4

 考えてみれば、本気で痛い思いというのは中々してこなかった。危険なことはしないようにと真綿でくるむように避けられて育ってきた。だから、己がどのくらいの痛みに耐えられるかを知らず、ただただ痛いことは怖いことだと逃げ回っていた気がする。

 腹を括れば、存外ある程度は耐えられるものだと、初めて知った気がした。


 あの子がいたからか。子虎を見ながら思う。己が誰よりも弱いと思っていたから、誰かを守るという意識も希薄だった。しかし、弱々しげにうずくまる彼を見て、どうにかしてやらねばと気を吐いたのだった。



 床には不発の炸裂草の実がいくつか転がっている。森で見かけるものよりは大振りだ。ユリシーズはそれを拾う。


「これは使えるかもしれない」

 首尾よく、スライムメイドが現れたので、炸裂草を投げつけてみる。


 当たればパアン! と大きな音をしながら実が弾ける。スライムメイドの体が実と共にボッと破裂した。核が露出した。踏み込んでそれをナイフで突く。

「うん! 使える!」

「ぎゃおうぅう~~~」

「あ、ごめんごめん」

 想像した通りの使い勝手に満足していたところ、子虎から抗議の声が聞こえてきて謝る。子虎はよほどあの音が苦手なのだろう。



 大きな扉だ。扉の彫りの細かさ、装飾などから格調高さを感じる。

「ボス部屋……ではないな」

 これまで出てきた各階層の一番手強い敵と対戦するための部屋とは違うものを感じた。どこか、扉の装飾が明るく感じる。

「これは、客をもてなすための広間かな」

 客を集めて夜会などを開くために使う部屋だろうと予測する。ユリシーズはそっと扉を開けて隙間から中を覗いてみた。


「あー……モンスターハウスだねえ」

 広い部屋の中は夜会に集まる客のごとく魔物達がうろうろとひしめいていた。ちらりと見えた調度は確かに豪華絢爛なものに思えたが、それどころではない。

 こんなに広い場所がモンスターハウスとなっている。さて、どうするか。

 爆風の魔法で吹き飛ばすのが一番簡単そうだったが、ユリシーズには試したいことがあった。


「よし。やるか」

 巻物を2本手元に用意する。まず一つを広げてから、扉を開けた。扉を開けるなり、中の魔物達が一斉にユリシーズを見る。


「魔の物よ、我がもとに集え、降魔襲来!」

 ユリシーズが読んだのはモンスターハウスの巻物である。この上の階層のボス部屋で起こった現象が何なのかを知りたかったのだ。


 ユリシーズが魔法を唱えるなり、部屋にいた魔物が消え去った。魔物が消え去ると同時、魔物がいた場所にいくつがアイテムが落ちる。

 そして、まだ空いている場所に新たに魔物達が現れた。

「はーん! なるほどね!」

 ユリシーズは理解した。

 モンスターハウスの巻物は、部屋をモンスターハウス化する際、まず最初にその部屋にいた魔物を消し去るのだ。

 そして、その消し去った魔物は倒した扱いになる。そのため、魔物達が持っていたアイテムはドロップする。

 そして、新たに魔物が空いている場所に生成される。この時、アイテムなどで床が埋まっているとその場所には魔物は作られない。


 なので、今この部屋には先ほどいた魔物よりも少ない数の魔物が部屋をうろついていた。数が少ないことから、ユリシーズは余裕を持って対処することができる。


「猛き風よ、わが敵を打ち払い給え。唸れ、爆風!」


「裏技っていうか、仕組みの問題っていうか……」

 知ってはいけないことを知ってしまった気がする。

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