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11-2

 階を下に降りるごとに敵が強くなる。

 首のない騎士が歩いている。

「あいつ、亡霊の騎士とは違うのか」

 実体があるように見えた。見るからに手強そうである。これはしょうがないとふんだんに巻物を用意する。

「我に敵を穿つ力を与えよ! 剛力!」

 魔法の種類が書かれていた本には、一時的に自分の攻撃力をあげると書かれていた。

「我が剣に敵を切り倒す力を付与せよ! 天恵!」

 武器の攻撃力を上げる魔法らしい。盾や防具を強化する魔法もあるらしいが、それは持っていない。

「我をあらゆる痛みから守り給え! 鉄壁!」

 防御力を上げて体を守る魔法だ。これで大丈夫か? 思いつつ、挑む。


 通路に出て向かって行ったら、すぐに向きを変えてきた。あっちを向いてていいのに、と思いながら剣を振る。数度打ち合いの後、首なし騎士の剣を弾き、体勢を崩させる。そこを内に入っていって、剣を打ち込む。首なし騎士の胴の鎧がはじけ飛んだ。胴の部分を無くした鎧の騎士はガラガラと崩れ落ちた。鎧の中は空洞だったのか、そのまま動かなくなった。


「おお! いけた!」

 どういう原理で動いていたのかはわからないままだが、とにかく力押しで倒せたのだ。魔法の力を借りてのことだが、正面から戦って真っ向から敵を倒す感覚をユリシーズは初めて知った。とは言え、大分力を借りたせいか手ごたえはそんなになかったのだが。


「今なら、どんな敵でも倒せそうじゃない?」

 ユリシーズは調子に乗った。少し距離を置いて避難していた子虎がまた足元に戻ってきて、寄り添って歩きながら見上げてくる。その眼差しが期待に満ちているように見えた。尻尾もピンと立っている。

「君、賢い子だね」

 ユリシーズが特に指示しなくとも、勝手に距離を取って戦闘に巻き込まれないように動いている。とても助かるとユリシーズは思った。



 意気揚々と角を曲がった先に、首なし騎士が複数体、それもたくさん、いた。

「わあ、あ……」

 ユリシーズは思わず言葉を無くした。魔法の効果がなくなる前に対処しなくてはならない。




「ここは厨房か。広いなぁ」

 立派な厨房である。大きな作業台、何個も並ぶかまど、広々とした流し、など大人数が一度に大量の料理を作ることを想定した造りだ。

「ちゃんとした城なんだよなあ……」

 ダンジョン化しているが、本物の城であると思わされた。ここまで歩いてきて、見てきた部屋や調度、造形などはすべてしっかりと歴史の感じられるものだった。


 一般にダンジョンは廃鉱跡や洞窟、そして廃城などがそれに変化すると言われている。

 つまり、一からダンジョンとなる建物を作ったりなどしないのだ。

「ここは元々ここにあった城……」

 ユリシーズの脳裏に思い出されるのは、かつて祖父とした会話だ。



「こんな歴史など勉強しても意味がない」

「どういうこと?」

「これはプラウドの歴史だろう?」

「メディナのこと書いてあるよ」

「だが、プラウドから見たプラウドが修正したプラウドのための歴史だ」

「どういうこと? わかんない」

 祖父がユリシーズの頭を撫でる。

「いつかお前に見せる。本物のメディナの歴史を。そして、復活したメディナの国を」



「あれ?」

 思い出していて、ユリシーズはおかしなことに気がついた。ユリシーズは祖父がいつ死んだのかを知らないのだ。いつの間にか、祖父の存在を目にすることがなくなり、そして祖父の墓が作られた。

「……ええ? どういうこと?」

 探索しながら、祖父と最後に会ったのはいつだったかと考える。


「おじいちゃん、どこ行くの?」

 それは夜のことだった。ユリシーズは寝ていた。しかし、何やら人が動き回る気配や音が気になって彼は起きたのだ。そして、玄関で鎧を着た祖父とそれに相対する父を目にする。

「おや、ユリシーズ起きてしまったのか。まだ朝は来ていない。もう一度寝なさい」

 祖父が言う。

「おでかけ? なんかお肉持って帰る?」

 ユリシーズは祖父が鎧を着た上に武器を携行しているので、どこかに狩りにでも行くのかと思った。

「お肉か。まあ、持ち帰れたらそうしよう」

 祖父は笑っている。父がユリシーズを抱き上げた。目線が祖父と合う。


「父上、どうぞお気をつけて」

「ああ。行ってくるよ」

「いってらっしゃーい」

 それがユリシーズと祖父がした最後の会話だった。


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