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10-4

 負った傷にすりつぶしたモギ草を塗る。自らに手当をして、ふーと息を吐く。このまま休みたいが、ここを乗り越えてからと気を引き締める。

 目の前にあるのは、大きな扉だ。この上の階層で見たものと同じだ。

 改めて荷物を確認する。

「……行くか」




 緞帳を思わせるひらひらとはためく布。正体が何か、見当がつくのでユリシーズはすぐに上を向いた。

 巨大な亡者の顔がそこにある。

「猛き風よ、わが敵を打ち払い給え。唸れ、爆風!」

 ユリシーズはすぐさま巻物の呪文を読み上げる。

「雷よ、わが敵に鉄槌を下せ。降れ、迅雷!」

 間髪入れず、もう一つ巻物を読む。

「爆風!」

「迅雷!」

「爆風!」

「爆風!」


 ユリシーズは手持ちの巻物を次々と読み上げていく。

「……これで倒れんか……」

 巨大な亡霊は見た目に傷を負っているので、ある程度は通用している。それでもまだ形状を保っている。


 どうしよう。

 ユリシーズは内心で焦っていた。残る手持ちの持ち物でどうにかなるだろうか。あの危険な爆熱の巻物はあるが、できれば使いたくない。

 そして、効果が不明な巻物が一つ。


 これに賭けるか。ユリシーズは読み上げる。


「魔の物よ、我がもとに集え、降魔襲来!」

 

 バババババババ! と凄い勢いでどこからか魔物が降ってくる。それらはぐるりとユリシーズに視線を向けてくる。


「あ、あーーーーー! 想像と違った!」

 巻物の文言から、魔物を使役するようなものを想像していた。しかし、実際の効果はモンスターハウスを作るものだった。


 逃げるしかない! そう思った時、上空からヴオ゛ォオ゛ォ゛ォォ゛と断末魔が聞こえてきた。見上げれば、巨大亡者の姿が消えていく。

「ん゛⁉」

 何故⁉ と戸惑っていると、巨大亡者が消えた途端、集結した魔物達も消えていった。


「え、ええーーーーー! 何が起こったの⁉」

 ユリシーズにはさっぱり状況がわからない。

『正攻法で攻略してくださいよ。あなた、ここまでで一応レベル上がってるでしょう……』

 どこからかあの悪魔アロケルの声が聞こえてきた。

「うるせーーー! 何が起こったのか説明しろ!」

 ユリシーズはとりあえず上に向かって文句を言う。しかし、説明を求めても、悪魔は答えてくれなかった。



「なんなんだよ、もう」

 ぼやくが応える相手はいない。

 巨大亡者を倒した後、一度モンスターハウスと化したせいか、アイテムが多く落ちていた。巻物を消費したのでそれを再び入手できたのは良かった。

 階段を降りた先は、広い廊下に広間のような部屋が連続して現れる。そろそろ休もうと思ってもこれまでいた階層のような寝台は見つからない。

 どうにか長椅子を見つけて、そこに横になることにした。


 ここは城の一階。だから、来客をもてなす用の部屋が続いている。



 カタン、と小さな音が扉から聞こえた。ちゃんと閉めなかったか? とユリシーズは確かめるべく起き上がる。

 薄く開いた扉の影から、小さな獣が姿を見せていた。

「あ、お前」

 いつだったか、姿を見せるだけ見せて去っていった獣だ。白っぽい毛並みに丸っこい顔立ちに丸っこい小さな耳。


「獅子の子か?」

 ユリシーズは思わず屈んで目線をその獣と合わせた。なんだかたどたどしい足取りでこちらに進んでくる。どう見ても子供なその見た目にユリシーズは油断した。獣はまっすぐユリシーズに向かってくる。

「おっ、いってえ!」

 獣はそのままユリシーズにぶつかってきた。ごちん、と頭をぶつけられて思わずのけぞる。


 頭突きを食らった? 獣の頭突きと言えば、あいさつではないか?


 痛む額を押さえながら見下ろせば、その小さな獣はまだそこにいる。ぐりっぐりっとユリシーズの体や腕に頭を押し付けてくる。

「ええ~~。なんなの、お前」

「ぎゃああおおぉう~~~」

「うわあ、完全に怪獣の鳴き声」

 予想以上に荒々しい鳴き声に思わずそんな感想が出る。

「白い毛かとおもったら、白金と金の縞? 虎なのか?」

 ユリシーズは獅子も虎も実物は見たことがない。なので正解はわからない。

「白子症の子供か?」

 白い毛に瞳が赤い獣が時々生まれることは知っていた。それかと思い、顔を覗き込む。その獣の瞳の色は、紫がかった深い青に星をちりばめたように輝いていた。

「……どっかで見たような色味だな」

 ユリシーズは警戒していたが、その獣は一向に攻撃をしてこない。


「油断させといて食う気かな……」

 部屋から追い出そうかと体を押すが、抵抗され、まとわりつかれる。終いには、腕にじゃれてくる。

「う~~ん……」

 さて、どうすべきか。


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