10-3
二足で立つオオカミがとがった爪を振り下ろしてくる。オオカミは半人の存在なのか、下半身は服を着ている。
目回し草を投げつけつつ、爪をかわす。頬と肩を掠めるが、二撃目は来ない。首に剣を入れる。一撃、二撃。念のための三撃。
二撃目で深く入ったので、そこで倒せていただろうが、もしもを考えてさらに入れた。
騎士ならば、一太刀で首をはねられていただろうが、ユリシーズにそこまでの力はない。
「目回し草めっちゃ使える……」
ユリシーズは己の戦い方をどうにか確立しつつあった。
山羊頭の執事服の集団に囲まれる。多対一での戦闘。まず無理だが、巻物の類が少ないので頭を使う。
丸太の罠を踏みながら山羊頭のナイフをかわす。飛んできた丸太が山羊頭を二体、弾き飛ばす。
場所替えの杖を使い、位置を入れ替えて周囲を囲まれていたのを端に逃げる。
横の山羊頭から角を振りかざすような攻撃をかわしながら、火魔法の杖を振る。その後ろの山羊頭に向かってナイフを投げる。目にナイフが刺さった。一歩踏み込んで、剣で腹を突く。
残る一体、距離があるのでまず矢を放つ。当たったが、猛然と突っ込んできた。その速さに、食らえばひとたまりもないと、火魔法の杖を使った。
どうにか難を逃れて、長く息を吐いた。
色のおかしな猪が複数現れる。落ち着いて一体ずつ対処していったつもりだったが、とどめを刺したはずの猪が息を吹き返して向かってきた。
「え? なんで……」
猪の影に小さな獣が見えた。額に赤い石の生えたウサギのような生き物だ。見ようによってはリスにも見えた。その獣の額の石が光ると怪我を負った猪がすっくと立ちあがる。
「ああああ! あんの小動物!」
他の魔物を回復させる魔物だ。矢を放てば一撃で倒せた。弱い個体だが、強い魔物の影に隠れながらそんな方法で生き延びている。
ユリシーズは見た目もかわいいその小さな獣を憎々しげに思う。
石造りの道標のような何かが動いている。攻撃が効くのか? 疑問に思いながら火魔法の杖を振る。
火が当たると石造りの何かはがくがくと震えたが、倒し切れなかった。
石ならばハンマーのようなもので叩くべきか。剣では刃こぼれしてしまうだろう。さて、どう倒す。
考えていると、その石がくるりと回転した。180度回転したところに目のような模様が描いてあった。その部分が、じわっと光る。
「げっ」
嫌な予感がしてユリシーズは横に飛び退る。目玉の模様から光が飛び出てくる。
ビーーッとユリシーズがいた場所に光線が走る。光線が走った後、焼け焦げたような黒ずみができた。
「無理!」
ユリシーズは一旦倒すことを諦めた。一時停止の杖で動きを止めて、ユリシーズはその場を去る。
そのメイドはどこかぬらぬらしていた。髪も肌もドロッとして見える。脚は脚らしい形をしていなかった。ぐずぐずとしたそれは顔もなかったし、手指もなかった。
それはグネグネとしながらこちらに近づいている。
火魔法の杖を放つ。体が縮んだので一応は効いている。打撃は効くのか、確かめるべく剣を構えて振りかぶった。
剣に合わせてぐにんとその体が歪む。
「切れ……?」
わずかに傷ついたようだが、ほとんどの衝撃を吸収したようだった。
ぐにゅんっ、と突如腕らしき部分が伸びてきてユリシーズの腕に絡む。
「あ、ああああっ!」
素肌に触れた部分が、熱を持つ。火傷のような痛みに、ユリシーズはこらえきれず声をあげた。
剣を持った腕に絡んだため、剣での攻撃ができない。ユリシーズは逆の手でナイフを取り出し、思いっきり突いた。ぐさぐさと何度も素早く突く。そうしていると、何度目かの突きを食らった後、その物体はずるりと力を失って地面に落ちた。
「……いってえぇー……」
息を整えながら、そうつぶやくのが精一杯だった。




