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10 孤独を乗り越えて

「またやってしまった……」

 ユリシーズの胸に去来するのは、慙愧の念だ。再度同じことをしてしまった。またしても、場所替えの杖を振り間違えて、彼女の側に魔物を放ってしまった。

 二度までも自らの過ちで彼女を危険にさらしてしまった。


 そのことでユリシーズの心は深く沈む。


 守りたいのに守れない。その能力がない。今までだって、守れたことがない。側に居続けたいのに、側に居続ければそれだけ己の無能に苦しむことになる。

 ユリシーズの体に筋力はあまりついていない。鍛えても筋肉がつきづらい体質だと侍医は言う。従兄達と同じ鍛錬をしてもつきはせず、無理をすれば果てには倒れた。そして、領主教育などに時間を割けばついぞ筋肉が満足につくことはなかった。


 体質の問題もあるが、それ以前にユリシーズは屈強な男そのものが怖かった。

 あの日、ユリシーズとドロシーはともに尊厳を破壊されそうになった。幼い頃、二人は出稼ぎに来ていた開拓者に誘拐されたことがある。メディナに深い縁のない犯人達は稼ぎの一環として人を売り買いしていた。メディナの人々は彼らの正体を知らず、彼らを領内に雇い入れたのだ。

 寸でのところで助け出されたが、そのことはユリシーズの心に影を落とした。

 ユリシーズは何が起こるかもわからず、ドロシーにひどいことをしないでと言って彼女をかばったが、それは単に相手に順番を決めさせただけの話だった。かばえたとは言えない。


 気遣ってか誰もあの日のことを口にはしない。ユリシーズは誰にも言えずただ何度も思い出される過去の出来事に一人で怯える日々だった。


 ユリシーズ達を貶めたのは屈強な男達で、ユリシーズ達を救ったのもまた屈強な男達だった。ユリシーズは己を救ってくれた兵士達に感謝しつつも、その体躯に内心では怯えていた。

 理屈では、憧れるべきと思うのに、素直に憧れることができない。


 ユリシーズは屈強になれない己の体に落胆すると同時に救いも感じていた。あの男達と同じにならなくて済む、と。

 だから、ユリシーズは甘んじて己の無能を受け入れたのだ。


 ユリシーズは己の見た目が男性的でないことに救いを感じていたが、成長とともに隠せなくなる男性性に我がことながら嫌悪した。

 どうして、こんな思いをしなければならない。ただ、あるがままでいたいのに。女になりたいわけではない。ただ、己が男であるということが、ただ怖かった。



「とにかく、前に進むしかない!」

 ユリシーズは立ち上がる。再び彼らと合流することを目指してダンジョンを進む。

 元々一人で挑むつもりだったのだ。当初の目標に戻っただけだ。


 そして、ここまでの経験でダンジョンへの挑み方もすでにある程度分かっている。

 ユリシーズは所持品を確認する。

「使っていくしかない!」

 戦闘力があまり高くないユリシーズはダンジョンで拾ったアイテムを惜しみなく使うしかないと決める。せっかくの珍品である。持ち帰れば重宝するだろう。だが、生き延びることが大事だと考える。


 とにかく、死なないことを目指す。


 彼らがダンジョン攻略できても、ユリシーズが帰ることがなければ彼らは気に病むだろう。そんな思いはさせたくない。互いに憂いなく再会したい。

 ……たとえその後気まずくなったり後悔したりしようとも。




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