9-2
デビーは落ちた剣を再び包みに仕舞う。直接触れないようにと慎重に包んでいく。
「捨てないんだ……」
「使えますんでね」
こういう行動のひとつひとつにユリシーズは自身との違いを感じる。
「ねえ! ここ!」
そのとき、ドロシーが声を上げる。
「見て! 図書室じゃない⁉」
その声に一同集う。
「おお……」
「結構ちゃんとした図書室ですね」
部屋の壁を埋める棚には7割ほど本が収められている。
「おー。焚きつけに使いましょうか」
「やめて!」
デビーの提案に思わず悲鳴を上げる。
「一応、中身を確認しましょう」
「そもそも読める言葉で書いてあるのかなー」
ケントとユリシーズは期待を抱いて本を検めていく。
「えー。絶対でたらめ書いてありますよ」
デビーは否定的だ。
「でたらめ書くにしても、元の知識がないとできないだろう」
「そうですよ」
ユリシーズの言葉にケントが強くうなずく。足止めをさせられて、デビーは不満そうだ。
「ちょっと先を見てきます」
デビーはそう言って、外に出ていった。
「……これは、巻物の魔法の一覧か?」
呪文が書いてあり、その中に見覚えのある爆風の呪文があった。
「この、爆睡の呪文は見覚えがあります」
ケントが指さす。
「そうか。これは、誰かが作った覚え書きかな」
「そう言えば、あれ……」
ケントが何かを思い出す。ドロシーがはっとして自分の荷物を探る。
「これ」
「? 巻物だね」
「最初から何も書いてないのよ」
「使用済み……ってわけじゃないか」
「そうなんです。使用済みだと、崩れ去っていくはずがしっかりとあります」
巻物の表面をなぞってみると、指先に揺らぎを感じた。
「これ、後から呪文を追加できるのか」
「恐らくは。知っている呪文を書き込めるのでしょう」
「あっ、解呪! 解呪の呪文! デビー! フーゴ、デビー呼んで!」
剣の解呪をデビーは断った。
「それの使いどこは他にあるでしょう」
デビーは白紙の巻物を指して言う。
「君ねえ。せっかく気遣って言われてるのに」
「そうか。わかった」
断ったデビーをフーゴは非難したが、ユリシーズは受け入れる。なんで? とフーゴの顔が物語っている。
「羊は大事な生き物だ。肉は食になり、皮は道具になり、毛皮は服になる。その大事な生き物を預かって、育てるのが羊飼い。彼らは、休みもなくそれをこなす。故に、羊飼いは敬わなければならない」
「文盲の労働者だろ?」
フーゴには、ユリシーズの語る理屈をしっかりと理解するだけの素地がない。ユリシーズは首を振る。
「学がなかろうと、彼らは賢者だ。彼らには彼らの技術がある。そして、それを使うだけの判断力がある。そうでなければ、他者の財産である羊を守って導くことなどできない。だから、彼の判断がそうだというなら、それに従った方がいい」
「う~~ん」
ユリシーズの言葉にフーゴは首をひねっている。ユリシーズが信用している様子が、盲目的と思わされる。
「……そんな大層なもんじゃないんですが」
ぽつっとデビーが呟いていた。
幽霊ではない実体のある魔物が現れる。
「この効果がわからない杖を使ってみたい」
「いいですね。調べましょう」
モンスターハウスで拾った杖が何個かある。杖はそれぞれデザインが違っていたので、効果も違うだろうと想像された。
数体現れた魔物の一体を狙って杖を振る。
「えっ」
魔物の真ん中に移動していて、何が起きたのかと焦る。杖の対象にした魔物は、ユリシーズがいた場所に移動していた。
「うわあああ!」
ユリシーズは焦って、もう一つ持っていた杖を横にいる魔物に向けて振る。杖から出た魔法に当たった魔物は動きを止めた。
「えっ⁉ あ! そういう……」
納得しつつ、反対側の魔物に向き直る。剣を抜こうとした頃には、モーリスが倒していた。




